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第126回

2015年太陽光発電10大ニュース


導入量は大幅増、ポストFITの提案活発化

2015/12/18

 世界の太陽光発電(PV)市場は、中国、日本、米国の3大市場が牽引役となり、引き続き成長を維持している。2014年の導入量は約40GW(IEA調べ)で、13年の38.2GWに対し4%の増加となったが、15年はこれを大幅に上回る導入が見込まれている。
 一方、PVのコスト低減に伴い、FIT(固定価格買取制度)に依存しない普及拡大が期待されている。蓄電池を活用した自家消費型ビジネスモデルや水素を利用したエネルギーサプライチェーン構築の検討が始まっている。
 今回は、15年におけるPVの10大ニュースを選出し、市場および技術開発の動向を振り返ってみる。

(1)15年の導入量5割増加

 14年のPV導入量については、欧州の太陽光発電関連の業界団体であるSolarPower Europe(旧EPIA)が40GW、IEA(国際エネルギー機関)が39.8GWという調査結果を発表している。SolarPower Europeは13年の37GWに対し8%増、IEAは13年の38.2GWに対し4%増と分析結果は異なるが、いずれにしても、PV市場は引き続きプラス成長を遂げた。
 地域別では、APACが全体の60%(23.8GW)を占めており、以下、北米が19%(7.4GW)、欧州が18%(7GW)、中東・アフリカが3%(1.05GW)となっている(IEAの調査)。APACの比率は12年の3割弱に対し、14年は6割まで増えた。中東・アフリカも導入が急増しており、13年比で倍増した。一方で、欧州の導入量は12年比で4割に縮小したが、累積導入では、依然として欧州(89GW)がトップを守っている。

 国別では、トップの中国が10.6GW、2位の日本が9.7GWを導入した。3位の米国の導入量はSolarPower Europeが6.5GW、IEAが6.2GWとしているが、中日米の3カ国が引き続き市場を牽引した。
 一方、ドイツは市場の縮小が続いており、13年の3.3GWに対し、14年の導入量は1.9GWにとどまった。ドイツを抜いて欧州最大市場に躍り出たのが英国だ。英国は13年の1.5GWから、14年は2.4GWまで導入量が増えた。
 14年は9位に南アフリカ(0.8GW)、10位にインド(0.78GW)が入るなど、新興市場も大きく伸びた。一方で、13年に1.6GWを導入したイタリアは、14年は0.4GWにとどまり、トップ10から姿を消した。

 累積導入量は177GW(SolarPower Europeは178GWと算出)に達した。累積導入量では、依然としてドイツがトップ(38.2GW)で、中国(28.3GW)、日本(23.4GW)、イタリア(18.6GW)、米国(18.3GW)がこれに続く。そして、英国は5.2GW、インドは3GWまで累積導入量が増えてきた。

 15年の導入量については、IHSが58.7GWという試算を発表している。中国、米国の導入が加速していることから、14年比で5割の大幅増になる見込みだ。そして、16年も中国、米国の2大市場において、税制優遇措置や政策支援の終了などによる駆け込み需要の増加が期待できることから、引き続きプラス成長を遂げると見ている。成長率は鈍化するが、16年の導入量は15年比12%増の65.5GWに達する見通しだ。

(2)ペロブスカイトは実用化が焦点に

 近年、PVの技術開発で最も注目されているのがペロブスカイトである。メチルアンモニウム鉛ハライド系ペロブスカイト(CH3NH3PbI3)はバンドギャップが1.55~1.6eV(800nmまでのほとんどの可視光を吸収)、高い光吸収係数、高い解放電圧、塗布&低温成膜、長いキャリア拡散長、安価な製造コストといった多くの特徴がある。電圧ロスが少ないため、理論限界に近い1.1V以上の電圧を取り出すことができる。
 当初は色素増感太陽電池(DSC)の増感剤として提案されたが、近年はホール輸送材と組み合わせた全固体型で高い変換効率が報告されている。シングルセルの理論変換効率は24.8%で、公認の最高効率は20.1%(KRICT、セル面積0.1cm²)だが、最近では20.8%も報告されている。

 材料や構造の最適化で27~30%の効率が狙えるが、他の太陽電池と組み合わせたハイブリッド型では40%の変換効率が期待できる。高効率化には、ペロブスカイト層の平坦性および緻密性、ホール輸送層の薄膜化、直列抵抗の低減、界面での再結合抑制などが重要となる。
 耐久性向上、コスト低減に向け、P3HTや銅チオシアン化合物(CuSCN)などの新規ホール輸送材、ホール輸送材を使わないデバイス、スズやビスマス系を用いた鉛フリーペロブスカイト、アミンフリーのオール無機セシウムペロブスカイト、レーザー蒸着法、さらには、強い光閉じ込め効果が期待できる2次元構造などが提案されている。

 物質・材料研究機構(NIMS)は正孔輸送層を有機材料から無機の酸化ニッケルに置き換えることで、1cm²のセルで再現性よく16%の変換効率を得ることに成功した。導電性を高めるため、電子輸送層にニオブイオン、正孔輸送層にリチウムイオンとマグネシウムイオンをそれぞれ高濃度で添加しており、ピンホールなどの欠陥の抑制、各層の厚膜化(10~20nm)を実現した。正孔輸送層を無機材料にしたことで、信頼性も向上し、1000時間の連続照射(1sun)でも変換効率の低下が10%以内に抑制できたという。

ペロブスカイトPVモジュール(imec)
ペロブスカイトPVモジュール(imec)
 ペロブスカイトの実用化を図るには、大面積での高効率&高耐久性が不可欠となる。CSEM(スイス)が5cm角のミニモジュール(6セル直列)で6.6%、imec(ベルギー)は16cm²のミニモジュールで変換効率11.9%(アクティブエリア)を実現している。試作したモジュールはスピンコートプロセスで作製したが、ブレードコーティングの技術も開発している。
 imecは、ガラス基板を用いたペロブスカイト太陽電池を開発しているが、オランダの薄膜太陽電池開発プログラムである「Solliance(オランダ、ベルギー、ドイツの研究機関が参画)」との共同研究では、金属箔を用いたペロブスカイト太陽電池も開発している。

(3)CIGSは淘汰と躍進が混在

フレキシブルCIGS(ソーラーフロンティア)
フレキシブルCIGS(ソーラーフロンティア)
 CIGSはR&Dではソーラーフロンティアが22.3%、ZSW(ドイツ)が21.7%、Solibro(ドイツ)が21.0%、NREL(米国)が20.0%、EMAP(スイス)が20.4%、AISTが20.6%を実現している。モジュールではTSMCが16.5%(1m²以上)の効率を報告しており、ソーラーフロンティアも30cm角で17.8%、大型モジュール(1228cm²)で14.6%を達成している。Manz(ドイツ)も量産サイズのモジュールで16%を実現している。
 欧州では、ZSW主導によるCIGS開発プロジェクト「Sharc25」がスタートしており、100MWの量産規模でモジュール製造コスト0.35ユーロ/W、システムコスト0.6ユーロ/W、セル効率25%を目指している。

 商業化については、ソーラーフロンティアが唯一、年産1GWの生産規模を誇っている。CIGSは長年、日本、米国、ドイツが研究開発をリードし、ベンチャー企業も相次ぎ立ち上がったが、その多くが破綻もしくは事業撤退、事業売却に追い込まれている。
 最近ではTSMC(台湾)の100%子会社のTSMC Solarが事業撤退し、Bosch(ドイツ)もCIGSの研究開発を停止したことが伝えられている。米国のAscent Solar(コロラド州)は、中国・江蘇省の宿遷市で計画していたCIGS太陽電池の工場建設を断念し、同市と設立したJVも15年8月に解消した。中国のHanergyはGlobal Solar Energy(米国)、Miasole(米国)、Solibro(ドイツ)といった欧米のCIGSメーカーを相次ぎ買収し、その技術を取得するすることで、同事業への本格参入を図ったが、大幅な人員削減を発表するなど、事業の立て直しに迫られている。

 事業の撤退や見直しが相次ぐCIGSだが、生産増強といった明るい話題も増えてきた。
 STION(カリフォルニア州)はCIGSの生産能力を現在の60MWから120MWに倍増する計画を打ち出している。同社は06年の設立で、10年からカリフォルニア州サンノゼで少量生産を開始。12年春から、Mississippi州で量産工場が稼働しているが、米国で旺盛な需要が続いていることから、生産能力を増強することにした。

 台湾のHulk Energy Technology(HULKet)も積極的な事業展開を打ち出している。同社は10年の設立で、12年から50MWの量産ラインが稼働しているが、販売が好調で、製造ラインはフル稼働状態が続いていることから、200MWのライン増設を計画している。
 中国CNBM(China National Building Materials Group Corporation)の100%子会社のAvancis(14年9月に買収)も中国・安徽省で新工場の建設を進めている。第1弾として、17年から300MWの工場で生産を開始するが、最終的には生産規模を1.5GWまで拡張する。

(4)PVは農業を目指す

 PVの新たな活躍の場として農業が注目されている。営農と太陽光発電を両立するソーラーシェアリングでは、FITに依存しないPVの普及拡大が期待できる。
 ソーラーシェアリングが注目される最大の理由は、設置可能面積が広大なことだ。国内の農地面積は約450万haだが、仮に全面積に太陽電池を敷き詰めると発電容量は3000GW、年間発電量は3兆kWh(日本の電力総需要の3倍)になる。実際には、3分の1の面積、さらにその3分の1の密度が現実的だが、それでも、発電容量は330GW、年間発電量は3300億kWhとなり、日本の電力総需要の3分の1を賄うことができる(立命館大の試算)。
 13年3月に農水省が農地の一部転用(農業生産維持を条件に太陽光発電の設置)を承認したことで、ソーラーシェアリング普及の道筋が整った。

 ソーラーシェアリングでは、植物の光合成に必要な光は透過し、光合成に不要な光を発電に振り分けることで営農と太陽光発電の両立が可能となる。同時に、日本の農業が直面する、後継ぎ不足、高齢化、耕作放棄地といった問題を解決する手段として期待されている。
 使用するPVは、発電層自体に透過性があり、軽量かつフレキシブルの有機薄膜太陽電池(OPV)が最適だが、設置方法を工夫すれば、ダブルガラスタイプの結晶系PVモジュールも使用できる。
 ソーラーシェアリングによる農業のエネルギー自立、いわゆる「ゼロ・エナジー・ファーム(ZEF)」について、京都大はOPVの発電効率が5%でも、100m²の温室では4kW程度の発電が可能で、化石燃料を使用せずに、年間にわたって温室内の温度を15℃に維持する電力を確保できるという試算を発表している。

WガラスPVモジュール(Trina Solar)
WガラスPVモジュール(Trina Solar)
 中国の大手PVメーカーのTrina Solarも、国内でのソーラーシェアリングの普及に力を入れている。同社は、ソーラーシェアリングに最適なPVとして、光透過性の高いダブルガラスPVモジュール「DUOMAX」を提案している。「DUOMAX」は2.5mm厚の強化ガラスを2枚使用したフレームレスモジュールで、高い光透過性、埃や雪の堆積が少ない、高い耐火性、畜舎や高湿度、海岸などの環境に強い、といった多くの特徴がある。

 現在、光線透過率10%、モジュール効率15.8%の高出力モジュール(60セル、出力250~265W)と、光線透過率40%、モジュール効率10.6%の高透過型モジュール(40セル、出力160~175W)をラインアップしている。
 ダブルガラスPVモジュールでは、モジュール自体に採光性があるため、効率良くモジュールを設置することができる。さらに、温室構造にも応用可能で、熱利用と電気、保温などのハイブリッドシステムの構築も可能だ。
 15年7月から、兵庫県で実証実験を開始しており、17年には表面に2mm厚、裏面に1.6mm厚の薄型ガラスを使用した新型軽量モジュールを開発するなど、ソーラーシェアリングのさらなる普及拡大を目指している。

 一方、NEDOプロジェクトでも、PVの農業利用を後押ししている。「太陽光発電多様化実証プロジェクト」(13~16年度)では、農地に適した追尾システムやビニールハウス向けシステムの開発が進んでいる。

(5)ダイレクト・ウエハー量産へ

 14年のPVモジュールの生産量は46GW(IEA調べ)で、13年の39.9GWに対し15%増えた。このうち、薄膜PVモジュール(主にCdTeとCIGS)の生産量は3.6GWで、依然として9割以上が結晶Siである。
 現在主流の結晶Si太陽電池はSiの塊(インゴット)から切り出したウエハーを用いてセルを作製するが、コスト低減には、ウエハーの薄型化とカーフロス(Siの切りくず)低減が不可欠となる。

 こうした問題を解決する技術として、米国の1366 Technologies(マサチューセッツ州)が提案するのが「ダイレクト・ウエハー」である。「ダイレクト・ウエハー」は溶融Siから直接、多結晶Siウエハーを製造するため、従来のようなSiインゴットをスライスするプロセスが不要となる。そのため、ウエハーコストの半減、均一な品質のウエハーの製造が可能になる。製造設備についても、従来の結晶Siの製造ラインをそのまま使用できる。

Q.ANTUMセル(Hanwha Q.Cells)
Q.ANTUMセル(Hanwha Q.Cells)
 現在、マサチューセッツ州に年産25MWのパイロットプラントがあるが、本格的な事業展開を図るため、ニューヨーク州に量産工場を建設する計画を打ち出した。
 第1弾では、年産250MW(ウエハー換算5000万枚以上)の工場を建設し、16年度第2四半期(4~6月期)までに稼働する予定。その後、できるだけ早い段階で1GWまで生産能力を増強し、17年には生産能力を3GW(ウエハー換算6億枚以上)まで拡張する。
 15年3月には、Hanwha Q.Cells(韓国)が1366 Technologiesと戦略的提携を締結し、「ダイレクト・ウエハー」技術の開発および量産化を加速する方針を打ち出したが、同年11月には、「ダイレクト・ウエハー」を用いた多結晶Siセル「Q.ANTUM」で変換効率19.1%を達成した。また、1366 Technologiesは日本市場への参入も計画している。

 ちなみに、世界のPVモジュール生産能力は13年の59GWに対し、14年は65GWまで拡大しており、依然として供給過剰の状態が続いている。そのため、PVモジュールのスポット価格は13年末の0.7~0.73ドル/Wから、14年末には0.6ドル/Wまで下落した(IEA調べ)。既存技術とのコスト競争に打ち勝つことが「ダイレクト・ウエハー」の普及のカギを握りそうだ。

(6)水素時代の幕開け

 PVや風力などの再生可能エネルギーは、発電する場所と消費する場所が離れているため、有効利用するには何らかの方法で長距離輸送する必要がある。発電した電気をそのまま利用する場合は送電線を経由することになるが、海外からの輸送となると、地理的な制約や送電ロスといった多くの課題がある。一方、近年では、エネルギーキャリアとして水素が注目されている。発電した電力を水素の形に変えておけば、長距離輸送や大量貯蔵が可能になる。

 政府は14年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」の中で、定置用燃料電池「エネファーム」を30年までに530万台導入する計画や100カ所の水素ステーション整備、さらには、水素製造・貯蔵・運搬や水素発電の技術開発など、水素社会実現に向けた取り組みを加速することを盛り込んでいる。
 経済産業省資源エネルギー庁も同年に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定し、20年半ばまでに、国内での水素流通を商業化し、40年ごろには、再生可能エネルギーを活用したCO2フリー水素の製造・貯蔵・輸送を本格化する計画を打ち出している。

 水素社会実現の道のりは長いが、まずは褐炭など化石資源由来の安価な水素を製造・貯蔵し、日本に運搬するサプライチェーンの構築が当面の目標となる。もちろん、CO2の発生は好ましくないが、CCSなどの方法で貯留すれば環境への負荷も小さい。しかも、CO2は還元してCOにすることで有用な化学原料になる。水素は貯蔵&輸送の経済性、供給安定性を考慮すると、液化や有機ハイドライドなどの液体が理想的だ。
 ある程度インフラが整備されれば、最後は再生可能エネルギーの登場となる。PVや風力を活用したCO2フリー水素が本格的に普及すれば、再生可能エネルギーの普及拡大は今以上に意義のあるものになるだろう。

(7)インドへの道

 PVの有望な成長市場としてインドが注目されている。インドでは10億人以上が電力不足に直面(IEA調べ)しており、PVによる電力供給に大きな期待が寄せられている。PV導入支援施策は州によって異なるが、12年に1GW、13年に1.1GW、14年には0.78GWを導入し、導入量ランキング10位に入った。現在の累積導入量は約3GWだが、22年までに100GW(屋根置き40GW、地上設置60GW)の導入計画を打ち出している。

 15年も順調に導入が進んでおり、上期(1~6月)には0.9GWを導入したことがEnergyTrend(台湾)の調査で明らかになっている。EnergyTrendでは、下期以降も中国、日本、米国、インドの4大市場が牽引役となって、世界のPV市場は成長を続けると予測している。また、Mwecom Capital Groupでは、インドのPV導入量は15年に2.1GW、16年には3.6GWまで拡大すると予測しているが、COP21では、同国首相が16年に12GWを導入する計画を表明したことが伝えられている。
 オフグリッドについても17年には2GWの導入が見込まれており、国家プロジェクトとして、2000万個のソーラー電灯の設置が計画(IEA調べ)されている。

 成長著しいインド市場には、多くのPVメーカーが参入を表明している。
 Hanwha Q.Cells(韓国)は、インド最大手の独立系発電事業者であるReNew PowerとJVを立ち上げ、PV発電事業に参画する。ReNew PowerがTelangana州のMedak県およびMehbub Nagar県にPV発電所(合計148MW)を建設&運営するが、Hanwha Q.CellsがPVモジュールを供給するとともに、同プロジェクトに対し、最大49%を出資する。稼働は16年6月で、発電した電力は、地元のSouthern Power Distributionに売電する。
 ソーラーフロンティアも、インド有数の太陽光発電会社であるWelspun Renewables Energy社と、100MWのCIGS太陽電池の供給契約を締結するなど、インド市場での拡販に注力している。

 インド国内に生産拠点を整備する動きも活発化している。Trina Solar(中国)は2GWのPVモジュール工場を建設するとしてAndhra Pradesh州とMOUを締結した。新工場で生産したモジュールは、欧州および米国向けに出荷するという。
 JA Solar(中国)はEssel(インド)と共同で500MWのセル&モジュール工場を建設する計画で、17年上期中の稼働を予定。また、Hareon Solar(中国)も4000万ドルを投資して、160MWのセル工場を建設する計画を打ち出している。
 一方、インドのPVモジュールメーカーのSonaliは生産能力を50MWから100MWに倍増したが、16年の早い段階で300MWに拡張する予定だという。

(8)自家消費のすゝめ

 PVの導入量はFITをはじめとする導入支援施策で急速に拡大したが、一方で、PVの発電コスト低減も進んでおり、すでに一部では、グリッドパリティ(系統電力とPV電力の価格が釣り合う点)の達成が伝えられている。PVのコスト低減に伴いFITの価格も下がり、今後、高い価格でPV電力を売電することは期待できそうにない。12年7月から本格的なFITがスタートした我が国でも、ポストFITを見据えた成長戦略の検討が始まっている。

 売れなくなったPV電力は、自分で使うしかない。世界市場でも、PVの自家消費は拡大の兆しを見せており、IEAも15年10月にまとめたレポートの中で、多くの国でPVの自家消費の流れが加速していると指摘している。同レポートでは、自家消費もしくはネットメタリングによるPVの導入支援は14年は世界市場の16%まで増加したと説明している。かつてPVの導入を牽引したスペイン、イタリア、ドイツ、チェコなどは、FITの価格を減額もしくは制度自体を終了するなど、欧州ではポストFITの動きが加速している。

 ちなみに、ネットメタリングはPVで発電した電力から自分で消費した電力を除いた余剰電力を売電するのではなく、翌月に繰り越すことで自家消費率を高めるスキームで、最終的には、電力使用量および電量料金の低減を目指している。ネットメタリングは12年以降、デンマーク、オランダ、ベルギー、スウェーデン、米国など、いくつかの国で導入されPV普及に貢献している。さらに、イスラエル、ヨルダン、ドバイ、チリ、ポルトガルでもネットメタリングの導入が計画されている。

 PV電力の自家消費は、設備認定が不要、電力設備協議の短時間化、既存受変電設備の流用可能といった利点があり、補助金を活用すれば、10~11年で投資回収も可能という。15年度予算には、経産省、環境省、文科省などが自家消費支援制度を設けている。三菱電機では、6kWhの蓄電システムの場合、充電回数8000回、劣化率15%の条件で17.8円/kWhの発電コストを算出している。

 PVの自家消費で重要な役割を果たすのが蓄電池である。PV電力を蓄電池に貯めることで、昼間に使いきれなかった余剰電力を有効活用できる。また、夜間や停電時でも安心して電気を使うことができる。15年には、シャープ、京セラ、パナソニック、ソーラーフロンティアなどの国内PVメーカーが相次ぎPV用蓄電池システムを発表したが、システム価格は300万円超と高額なのが実情で、普及にはさらなる価格低減が必要である。IEAも14年はPV用蓄電池が注目されたとしつつ、コストが高いため、補助金がないと普及が進まないと指摘する。

Powerwall(Tesla)
Powerwall(Tesla)
 米Teslaのように、超格安蓄電池を武器に家庭用蓄電池市場に参入したメーカーもある。Teslaの家庭用蓄電池「Powerwall」は7kWhモデルで3000ドル、10kWhモデルでも3500ドルと圧倒的に安い。投資銀行のLazardは、Li-ion電池のコストは5年後には半減すると予測しているが、自家消費の普及は蓄電池の大幅なコスト低減にかかっていると言えるだろう。

 PV電力の貯蔵方法として、定置型蓄電池ではなく、プラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)を利用する提案も増えている。例えば、日産のEV「LEAf」は容量24kWhの蓄電池を搭載しており、これをPV電力の蓄電池として活用する場合、5kWのPVシステムで発電した電力を1台で蓄電できる。1MWのメガソーラーでも、9台あれば必要蓄電容量200kWhをカバーできる。しかも、容量あたりの価格は、定置型と比較して圧倒的に安いのが大きな強みだ。

(9)PVメーカー、5GWの攻防

 14年は3.6GWのモジュールを出荷したTrina Solarがトップに立ったが、各社も軒並み生産・出荷量を増やした。Canadian Solarは2.8GW、Jinko SolarおよびJA Solarも2GW超、Renesolaは2GW弱を出荷した。一方、13年トップだったYingli Greenの出荷量は3.3GWにとどまった。

 15年については、さらに出荷量が増える見込みで、Trinaが5.5~5.6GW、Canadianが4.15~4.2GW、JAが3.6~4.0GW、Hanwha Q Cellsが3.2~3.4GW、Jinkoが3.8~4.0GWの出荷を計画している。主要PVメーカーの出荷競争はついに5GWの水準に達した。

 生産量も14年は大きく増えた。PVセルの生産量は13年の39.1GWに対し、14年は46.7GWに増えた(IEA調べ)。セル生産の最大拠点は中国で、14年には28.5GW(全体の61%)を生産した。Yngli、JAが各3.1GW、Trinaが2.7GW、Jinkoが1.9GWを生産した。
 2位は台湾で、10GWの生産能力に対し、14年は7.4GW(全体の16%)を生産した。以下、日本(同6%)、マレーシア(同6%)が続く。

 PVモジュールの生産量も13年の39.9GWに対し、14年は46GWに増えた。トップは30.4GW(全体の66%)を生産した中国で、Trinaが3.6GW、Yingliが3.4GWをそれぞれ生産した。
 中国に次いで生産量が多いのが日本で、14年は3.8GW(同8%)を生産した。以下、韓国(2.9GW)、マレーシア(2.8GW)が続いている。

 一方、薄膜PVモジュールは、マレーシア、日本、米国、ドイツ、イタリア、中国で生産しており、14年の生産量は3.6GWとなっている。
 最大の薄膜メーカーは米First Solarで、14年には米国、マレーシアで合計1.85GWのCdTe太陽電池を生産した。2位はソーラーフロンティアで、14年に952MWのCIGS太陽電池を日本国内で生産した。

 世界のモジュール生産能力は13年の59GWに対し、14年は65GWまで拡大したもよう。引き続き供給過剰の状態が続いているが、主要PVメーカーは、市場拡大がさらに続くと見て、生産能力の増強に取り組んでいる。

 Canadianは15年末に4.3GW、16年末には5.6GWまでモジュール生産能力を拡大する。JAは15年10月にマレーシア・ペナンで400MWのセル工場が稼働を開始したが、16年半ばまでにセルおよびモジュールの生産能力を各5GWまで増強する。
 Hanwha Q.Cellsも16年半ばにはセル&モジュールの生産能力を各5.2GWまで増強するほか、Trinaは15年末に4.8GWのモジュール生産体制を構築する。

(10)最後は賢くリサイクル

 我が国のPV導入量は13年が6.9GW、14年が9.7GWで累積導入量も23.4GW(IEA調べ)まで拡大している。政府は30年までのPV導入目標を64GWとしているが、JPEAでは100GWの導入目標を掲げている。

 FITでPVの導入が急増した一方で、買取期間(最長20年)の終了とともに、大量のPVモジュールが廃棄対象になるという懸念がある。25年には年間3万t、33年には同75万tのPVモジュールがリサイクル対象になるという試算も出ている。こうしたことを背景に、廃棄処理やリサイクルに向けた技術開発の取り組みが活発化している。
 もちろん、買取が終了しても、PVが発電を停止するわけではない。長期間(30~40年)の発電を支える技術が確立できれば、ほぼゼロ・コストで国産エネルギーであるPVの持続的発電が期待できる。

 NEDOも15年度から、「PVリサイクル技術開発プロジェクト」を立ち上げるなど、リサイクル技術の開発に本腰を入れている。同プロジェクトには5件が採択され、PVモジュールの低コストリサイクル処理技術(5円/Wの処理コストが目標)や、有価物の回収率向上や回収物の高純度化技術の開発と実証に取り組んでいる。15年10月に開催した成果報告会では、プロジェクトに参画する企業が中間報告を行った。

ポリマー除去後のPVモジュール(信州大)
ポリマー除去後のPVモジュール(信州大)
 三菱マテリアルはローラー式剥離機を使用してバックシートとガラスを選択的に剥離する方法を検討しており、2.9円/Wの処理コストのめどがついたことを明らかにした。東邦化成はウエット法(剥離剤)を用いた分解処理技術で処理コスト4.97円を達成している。
 市川環境エンジニアリングは、ロール式破砕機とハンマー型破砕機を組み合わせることで、処理コスト2円/W以下を実現しており、数年後の事業化を目指している。
 エヌ・ピー・シーは、ガラスとEVAを200℃に加熱した加熱したカッターで切り離し、EVAを可溶化してSiや金属を効率的に回収する技術を開発しており、これまでに51%の銀を回収できることを確認している。処理コストも目標の5円/Wを達成している。

 一方、信州大学の研究グループ(水口仁特任教授)は、加熱した半導体から発現する強力な酸化力を応用したPVモジュールのリサイクル技術を提案している。この技術をPVモジュールのリサイクルに応用した場合、500℃で20分程度加熱処理するだけで、EVAなどの封止材やバックシートを100%除去することができるという。
 残ったガラスやPVセル、電極、アルミフレームはほとんど不純物を含まないため、そのままリサイクルすることができる。処理コストは、3円/W以下で、出力250WのPVモジュール1枚あたりの処理コストは750円になる。実用化を目指して、5~6枚のPVモジュールが同時処理できる電気炉を試作中だ。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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