電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第123回

電子デバイス技術が内視鏡にイノベーションを呼ぶ


カプセル内視鏡市場の拡大続く

2015/11/27

胃カメラからハイビジョン/3Dへ

 体内を観察する内視鏡のルーツは、紀元前4世紀の古代ギリシャ時代にさかのぼるが、それから2000年以上の時を経て、1950年にオリンパスが世界初となる実用的な胃カメラの開発に成功。ここから開腹することなく体内の診断、組織の検査、さらには外科的手術を可能とする本格的な内視鏡医療がスタートした。
 70年代以降、病変の疑いがある粘膜に色素を散布し、胃カメラを用いて早期の病変を発見する「色素法」が普及したが、オリンパスでは、がんなどの腫瘍が毛細血管に作用することから、光学的な手法を活用して毛細血管を浮かび上がらせるNBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)を開発し、それを搭載した内視鏡を販売している。

外科用手術用3Dビデオスコープのイメージ
外科用手術用3Dビデオスコープのイメージ
 オリンパスでは、ドクターからの「画質を上げてほしい」、患者からの「飲みにくいから細くしてほしい」という相反する要望を満たすため、CCDの小型化、画素サイズの縮小などを進めてきた。2002年には外径10mm以下で世界初のハイビジョン内視鏡システムを上市し、13年には外科手術用3D内視鏡システムを投入するなど、絶えず内視鏡技術をリードしている。

10月に4Kの内視鏡システムを発売

 そして、この10月から4K(3840×2160ピクセル以上)技術を搭載した外科手術用内視鏡システムの販売を開始した。光源部分から内視鏡、モニターまで、最先端の4K技術と各種ノウハウを組み込み、同社「VISERA ELITE」(11年10月発売)のフルハイビジョン映像の画素数約207万画素に対し、4Kで約829万画素と4倍にした。

4Kカメラヘッド
4Kカメラヘッド
 同製品は、オリンパスが有する医療機器のノウハウと、ソニーが有するデジタルイメージング技術などをソニー・オリンパスメディカルソリューションズが統合して技術開発を行い、その後、オリンパスメディカルシステムズが製品設計を行った。ソニーがモニターおよびレコーダー、それ以外はオリンパスメディカルシステムズが製造元である。
 オリンパスでは、内視鏡イメージングの分野でハイビジョン、4Kを開発したが、今後は引き続き8Kおよび4K/8Kの3Dシステムの開発を進める。

4K外科手術用内視鏡システム(システムセット例)
4K外科手術用内視鏡システム
(システムセット例)
 オリンパスの15年3月期の消化器内視鏡の売上高は3133億円で世界シェア約7割、外科(硬性内視鏡)や処置具の合計が2451億円でシェア約2割となっている。ちなみに、消化器内視鏡は、オリンパス、富士フイルム、HOYAの3社で世界シェアほぼ100%を達成している。

2001年にカプセル内視鏡が誕生

 01年にギブン・イメージング(イスラエル)のカプセル内視鏡が欧米で保険承認を受け、現在では小腸、食道、大腸を撮像する「PillCam」カプセル内視鏡をグローバルに提供している。オリンパスは、05年から欧州で、続いて北米で「EndoCapsule」の販売を開始し、日本では08年9月に第2世代となる小腸用カプセル内視鏡「ENDOCAPSULE 10 SYSTEM」が薬事法の承認を受けた。

小腸用カプセル内視鏡「OLYMPUS EC TYPE 1」(※ 実際のカプセルにはロゴは入っていない)
小腸用カプセル内視鏡「OLYMPUS EC TYPE 1」
(※ 実際のカプセルにはロゴは入っていない)
 ENDOCAPSULE 10 SYSTEMは、直径11mm、長さ26mmのカプセルに、高解像度CCD、省エネ技術を採用した小型バッテリー、無線送信装置などが搭載された「電子デバイスのかたまり」(オリンパス 医療イメージング開発本部の中村一成氏)で、体外の受信装置、アンテナユニット、ビュワーに1検査あたり約6万枚(秒2枚×8時間)の画像を送信する。現在は、胃や大腸には適用しておらず、小腸用に普及している。

 カプセル内視鏡は、小さな電池で8時間以上の駆動が難しいため、無線給電システムのニーズが高まっており、中村氏は「優れた技術の情報を求めている」と話す。

 胃や大腸のように内視鏡検査ができず、「暗黒の大陸」と呼ばれた小腸の検査がカプセル内視鏡により検査可能となり、日本では07年10月に「原因不明の消化管出血を伴う小腸疾患患者」に対して保険収載された。
 続いて、14年1月には大腸カプセル内視鏡が保険収載されたが、今のところ、日本における大腸のカプセル内視鏡市場は、ギブン・イメージングの製品のほぼ独壇場となっている。なお、ギブン・イメージングは、14年にメドトロニック(アイルランド)―コヴィディエングループに統合された。

大腸検査の潜在市場に期待するコヴィディエン

 カプセル内視鏡は、14年までに世界80カ国で販売され、累計200万件以上の検査が実施された。国内では、14年8月1日現在、日本カプセル内視鏡学会における認定医は91人、指導医は183人、指導施設は136病院にのぼり、全国の600の病院や診療所でカプセル内視鏡検査が実施され、年間検査数は1万8000件。1回の検査費用は10万円前後で、患者負担は3割負担で3万円ほどである。

 現在のところ、日本における大腸のカプセル内視鏡検査は、腹部に手術暦がある、腸管ゆ着が起こる、などにより通常の大腸内視鏡検査ができない人に、大腸がんを疑う症状がある場合に保険適応が認められ、15年春時点で国内200の医療機関で実施されている。
 ギブン・イメージング、現在のコヴィディエンのダイアグノスティックインターベンショナル ソリューション事業部では、日本での保険収載を機に、低侵襲で鎮静剤が不要、X線被ばくがなく、また、精神面の負担が軽いこのカプセル内視鏡を用いることで受診率が向上し、早期発見に効力を発揮することから、潜在需要を開拓できると期待している。

 日本の女性の死因1位、男性の死因3位を占める大腸がんであるが、欧米に比べ受診率が低く、日本の検診ガイドラインでは、40歳を超えるすべての人に便潜血検査(FOBT)を受けるよう呼びかけているが、その検診受診率は27%にとどまっている。さらに、患者の便に血液が認められた場合でも、大腸内視鏡検査を受診する患者は58%と低い。

オリンパスとシーメンスは胃用に磁気誘導型を共同開発

 これまで食道、小腸、大腸のカプセル内視鏡が実用化されているが、オリンパスでは、10年からシーメンスとともに胃の検査を目的としたカプセル内視鏡の開発に取り組んでいる。食道や小腸、大腸といった細い器官と比べ、広い内腔を持つ胃内部に送ったオリンパスのカプセル内視鏡を、シーメンスのMRI技術で遠隔操作・制御しようというもので、フランスやドイツの各大学、国内の福島県立医科大学、慶應義塾大学、東京慈恵会医科大学とも共同研究が進む。

 フランスでの臨床試験では、苦痛なく胃の観察が十分に行えるとの結果が示されており、福島県立医科大学では、15年度中の治験開始を目指して準備が進んでいる。世界で初めて胃カメラを開発したオリンパスであるが、優れた特性を備えたカプセル内視鏡を磁気誘導型とすることで、新たな胃の検査・観察方法を確立しようとしている。さらに、この磁気誘導の技術は、カプセル内視鏡による全消化管観察に応用ができるものであり、全消化管の観察の精度が高まると期待している。

カプセル内視鏡で全消化管の治療へ

 オリンパスでは、カプセル内視鏡の研究開発において、カプセル内視鏡による薬液の放出(治療)や体液の採取(生体検査)にも取り組んでおり、その際にも磁気誘導が必須の技術となることであろう。カプセル内視鏡は12年の機器市場が130億円、19年まで平均5.4%の成長が続くとされるが、技術革新によりこれを上回ることも考えられる。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 倉知良次

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