電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第119回

JEITAの最新実装技術ロードマップにみる国内セットの現在・過去・未来


~新ビジネスモデルの展開にむけて~

2015/10/30

 (社)電子情報技術産業協会(JEITA)のJISSO技術ロードマップ委員会は2年に一度、国内の半導体産業をはじめコンデンサーなどの一般電子部品、プリント配線板などの主要コンポーネンツ業界を技術的な観点から全体的に俯瞰し、業界全体の優位性の維持・向上を図る目的として「実装技術ロードマップ」を策定している。10年後の電子機器のあるべき姿を想定して実現するための諸課題などを探りながら、1999年に第1版を発行してから最新の2015年度版で第9版となる。
 2000年前後は、デジタルスチルカメラ(DSC)やデジタルビデオカムコーダー(DVC)、携帯電話、ノートPCなどがモバイル端末機器市場を牽引、当然半導体パッケージなどの実装技術はその動向を追うことで開発の方向性が見えてきた。スマートフォン(スマホ)は13年度版から本格登場するが、実際はその数年前から先端実装技術を牽引する最新のモバイル端末機器として君臨していた。

IoTの世界を基準に

 従来は、ひたすらセットなど電子機器単体の軽薄短小化の世界を追うことで、半導体や電子部品、基板などの実装技術のトレンドを読み解くことができた。
 今しばらくは、高機能なスマホが半導体や実装技術を先導していくことになるだろうが、今後はあらゆるモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)世界の視点が欠かせなくなる。そうなるとスマホやウエアラブル機器すらも、数あるネットワーク端末の「one of them」に成り下がることになる。

 こうしたことを踏まえて、キラーアプリなど製品ごとに分類し、実装技術を俯瞰する従来のロードマップ手法から、最新の15年度版ではIoT世界を前提とした市場別カテゴリーへの分類・分析を中心とする手法に変更しており、大変興味深い。
 今後はIoT技術が登場・普及することで、社会や産業界は大きく変化することになるからだ。

 例えば、ドイツ政府と産業界が一丸となって推し進めるインダストリー4.0。最近よく聞くようになったが、一言で言ってしまえば、世界で最も品質の良いものを、世界で最も効率よく、誰よりも早く市場に投入するというもので、その本質は、「設計から製造までの抜本的な変革プロジェクトで、世界的な覇権争い」と同ロードマップは喝破する。ドイツ政府はすでに2億ユーロを投入するなど本気モード全開だ。

 また、米国の事例も紹介。GEをはじめAT&T、シスコシステムズ、IBM、インテルなどが進める「インダストリアルインターネット コンソーシアム」は参加企業がすでに100社を超えたという。いわば設計の共通アーキテクチャーとも呼べるものを構築しようとしており、その技術を使い、エネルギー、ヘルスケア、運輸・交通インフラ、製造業に適用しようとしている。
 GEは、ガスタービン工場内で専用試験設備の設計変数を決めるため、5000個のセンサー情報について米、欧、インドの三極で合計150人のエンジニアに常時分析にあたらせているという。従来よりも大幅にスピードアップが図れ、同時にコストダウンもできたという。さらにソフトウエア分野を強化するため、1000億円強を投じるなど、その投資スケールには圧倒される。

 製造業における大きな変革が早晩訪れようとしており、ひとたび製造で覇権を取れられてしまえば、ひっくり返すことは至難の業となるだろう。モノづくりに変革を迫られている足元の状況をしっかりと把握して、今後の事業戦略や商品作りを進めることが大事になる。

メディカル、モビリティー、エネルギー市場に大変革

 今回のロードマップでは、特に大きな産業・サービス変化が予想される(1)メディカル、(2)モビリティー、(3)エネルギーという3市場にスポットを当て、それぞれの今後の技術トレンドや需要を紹介している。

 メディカル分野では介護、低侵襲機器(内視鏡、カテーテル)、医療機器、ウエアラブル端末に細分化して、その機器の定義や市場動向などを分析している。国際医療協力を新たな成長戦略の糧として、医療ビジネスをオールジャパンで普及させる構想も紹介している。医療機器分野もその重要なカギを握るとみられる。そしてIoTが普及してくれば、テーラーメード医療といわれている、個々人にあった薬の処方や治療につながることになろう。

 モビリティーの分野は、自動車が中心になる。クルマの安全技術は、予防安全(アクティブセーフティー)から、事故未然防止や事故回避技術に進化する。その実現のカギを握るのは、ナイトビジョンやLIDAR(レーザーレーダー)などの新たなセンシングデバイスと、これらをベースにした自動ブレーキシステムの完成度によるところが大きいだろう。

 16年度の国内新車販売の約50%(230万台)が、この自動ブレーキを搭載するとの予測(日本自動車研究所)を紹介。同技術の火付け役ともなった富士重工業は、新車「レヴォーグ」では9割に同技術を搭載、システム価格は10万円とした。軽自動車にも搭載が本格化してきており、ダイハツの「ムーブ」には赤外線レーザーを使った自動ブレーキ(価格は5万円)を適用している。
 将来的には外の世界とつながることで、自動運転社会の到来も期待されている。また、各種センサーや自己診断機能などを搭載した半導体の活躍で、故障や大事故につながる前に、的確な修理や指示を考えてくれるかもしれない。

 エネルギー分野では、スマートホームをはじめスマートメーター、エネルギーハーベスト、ワイヤレス給電などを今後の新市場創出に向けた重要な基本技術と位置づける。

システム全体を見た新ビジネスモデル構築を

(出典:JEITA/2015年度版 実装技術ロードマップ)
(出典:JEITA/2015年度版
実装技術ロードマップ)
 PCやスマホ(携帯電話含む)など個別のキラーアプリに対応した実装技術や材料開発をひたすら追いかけていればよかった時代から、あらゆる機器がところかまわずインターネットにつながる時代には、膨大な数のセンサーや無線技術、エナジーハーベストなどの新技術もどんどん台頭してくる。従来にない規模の半導体・電子部品が消費されることになろう。

(出典:JEITA/2015年度版 実装技術ロードマップ)
(出典:JEITA/2015年度版
実装技術ロードマップ)
 これまでエレクトロニクス業界は、端末ベースのキラーアプリに頼って成長してきたが、スマートハウスやスマートファクトリー(M2M)、スマートコミュニティーといった言葉に代表されるように、システムや業界全体で変革が起ころうとしており、次々と新たな市場が生まれるだろう。市場は従来の“個”や“端末”といった概念から、“面”や“システム”に移行することで、新たなビジネスモデル創出のビッグチャンスを迎えるはずだ。
 これらの分野は、従来の単体製品の売り切り型ビジネスから、全く新規で付加価値の高いビジネスにつなげることができるかもしれない。

 今後の消費社会は、「安全・安心」「快適・便利」「健康・長寿」といった誰もが共通の価値観で結ばれる時代の到来と見ることもできる。
 これらを包括的にサービス提供できるビジネスを確立したものが、次のIoT社会の覇者になるだろう。

電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

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