電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第156回

半導体製造装置のマーケットは厳しい展開に入ってきた


~設備投資は高水準を維持するも、微細化の将来性が見えない~

2015/10/30

 ITの世界においても、自動車の世界においても、新技術は常に新市場を創出してきた。半導体という36兆円の巨大マーケットも、いわゆるムーアの法則を1つの不文律にしてデバイス、装置、材料の各分野でエンジニアがしのぎを削ってきた。半導体においては微細化と大口径化の技術進化が爆発的なスピードで進み、今日においてはスマートフォンやタブレットなどを誕生させ、その繁栄を支えてきたのだ。

 ところがここに来て、大きな問題が半導体装置業界において起きている。すなわち、微細化の限界が見えてきたのである。2015年の半導体設備投資は前年に比べて少しトーンダウン気味であるが、今のところは600億ドル水準を維持すると見られている。しかして、来年以降の展望が非常に見えない。それは、何といっても微細化にブレーキがかかり、セット製品における革新がスローダウンし始めたからだ。

 「世界最大の半導体メーカーであるインテルのイスラエル工場における14nmプロセスは稼働していない。10nmの開発も遅れており、装置納入は停止している。誰が見ても今日のインテルはムーアの法則から外れているといえよう」

野村證券 和田木哲哉氏
野村證券 和田木哲哉氏
 こう語るのは、野村證券にあってITアナリストとして著名な存在となっている和田木哲哉氏である。特に同氏は半導体製造装置や太陽電池などの世界で著作もあり、業界の信頼を得ている。

 前記の発言は日本電子デバイス産業協会が10月13日に東京で開催したNEDIAアクションセミナーの席上のことである。和田木氏は主要なエレクトロニクス製品の成熟化が進んでおり、PC、テレビ、デジカメなどに加えてスマートフォンやタブレットPCなどの成長も金額ベースでは徐々に減速する、と指摘するのだ。ただし、スマホなどの高機能化は続くと見られ、先端ロジック製品やメモリーなどの需要は堅調に推移し、一方で自動車向けや産業機械向けなどパワー半導体の使用量の増加は見込まれるという。

 「IT機器の成熟化は進むものの、あらゆるものがインターネットにつながるIoTの普及は長期継続的に電子デバイスの新たな需要を生み出す。センサープラスMCUを主役とする新市場が生まれる。米国は周到に準備を進めており、人工知能50年史の中で最大のブレークスルーといわれるニューロチップの開発・普及に全力を挙げている。ニューロチップはFPGAの塊となっており、このエンジニアは今や取り合いとなっている」(和田木氏)

 アップル・グーグルに代表されるスマホやタブレットの世界では、米国はやはりグローバルな覇権を握ったといっていいだろう。しかして新エネルギーの代表である太陽電池はうかうかしている間に中国に7割以上の世界シェアを取られてしまった。そしてまた、EUを代表する国であるドイツは、インダストリ4.0で米国のIT支配にNOを突きつけている。
こうした動きに対して米国は、本格的なIoTの時代が来るときにあっては、何としても最先行し、抜け出すとの構えだ。

 「IBMの自律思考型コンピューターのWATSONは、中身はノイマン型でありながら予想アルゴリズムがすばらしい。このアルゴリズムの充実を図るべく、米国では懸賞金つきで民間からも募集しているほどだ。米国の脳科学予算は実に日本の20倍であり、世界の中でもぶっちぎり先行だ。もちろん犯罪防止、人々の活動の監視、犯罪者の予想、さらには次世代ミリタリーという世界をバックに開発しているわけだ」(和田木氏)

 IoTのマーケットは端末ベースで言えば2020年に4兆円を超えるという。しかし本当の意味におけるIoTが開花すれば400兆円の巨大マーケットがあるといわれている。医療の560兆円、自動車の350兆円を超える新創出市場なのだ。当然のことながら各種端末にはプロセッサー、マイコン、通信チップ、センサーなどの機能が入ってくる。これらを処理するデータセンターではサーバー、ネットワーク、ストレージなどのハードやソフトが成長していく。各調査会社が出しているフラッシュメモリーの市場予測は、間違いなく上方修正され、特にデータセンターがらみで爆発するとも言われている。

 「ところで、先行きが見えないのが半導体製造装置産業である。IoT用に新たに需要が増加するデバイスのほとんどは、先端の製造技術が必要とされない。休眠中の半導体工場やこれから陳腐化する半導体工場を転用すれば十分に今後の需要に対応することが可能なのだ。つまりはIoTによる半導体前工程による需要創出効果はあまり期待できない」(和田木氏)

 これまでのやり方による微細化が限界を迎え、また一方でIoT向けデバイスに最先端製造装置が使われないのであれば、半導体製造装置産業の雲行きが怪しくなるのは当然だろう。

 しかして和田木氏は、微細化の限界を埋めるのはパッケージ技術の進展にありと主張する。最近のTSV積層メモリーではDRAM4層積み込み、その下にロジック半導体もつけてしまう。これで消費電力は27%も減るのだ。この講演会の最後に様々な質問が和田木氏に投げかけられた。特に装置産業の人たちからは、次の時代を探りたいとの質問が多かった。和田木氏はそうした質問に答えながら、きっちりとした目線で最後にこうコメントしたのだ。
 「これまでのパソコンカルチャーをベースとする考え方の延長で装置市場を捉えてはならない。今後は自動車産業、医療産業、さらには農業そして社会インフラの革新などを見据えて、新しい時代を勝ち残る体制を築いていかねばならない。何よりも必要なことは、ビジネスモデルの転換を図るイノベーションなのだ」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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