電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第117回

決算短信で探る電子部品のアプリ動向


~本命は自動車市場~

2015/10/16

 今月末あたりから、2015年度7~9月期の決算発表が始まる。決算発表時には、速報として決算短信が公開される。いわゆる企業にとっての通信簿のようなもので、まず5段階評価(売上高推移)に目が行く。それから評価内容(定性的情報)を読むことになるが、この定性的情報の中の「経営成績に関する説明」が非常に面白い。

 国内外の経済状況の分析は、各社とも判で押したように画一的だが、業績説明ではそれぞれの個性が出る。電子部品業界において、同年度4~6月期の決算短信では、スマートフォン(スマホ)と自動車に参画しているメーカーは好調であった。一方、家電やアミューズメントなど、スマホや車載以外を主アプリとするメーカーは苦戦した。では、電子部品の牽引アプリであるスマホと車載の今後を、各社の4~6月期決算短信「経営成績に関する説明」から探ってみる。

下降局面は10~12月期から本格化

 電子デバイス業界は、14年に好調のピークを迎えたようである。
 半導体は同年、リーマンショック以来、過去最高の成長率である9.9%を記録。前年の13年比で約303億ドル増の3358億ドル(約35兆5000億円)を達成した(WSTS調べ)。ところが、15年に関しては、調査会社のガートナーが、その成長率を当初の5.4%から4.0%へ、さらに直近の7月8日付の発表では2.2%に下方修正した。

 半導体とリンクする電子部品も同様の軌跡を描く。15年上期(1~6月期)の各社売上高は、前年同期と比較し、大きく躍進。しかし、14年下期(7~12月期)と比較すると、成長率は大幅に鈍化した。
 例年、9月はセット機器ユーザーがモデルチェンジに着手する時期で、受注増が期待できるのだが、半導体および電子部品業界ともに、当初見込みを割り込んでいるのが実情だ。景気の下降局面は、10~12月期あたりから本格化しそうな気配である。


 
スマホはアップル新製品がカギ

 グーグルのOSであるアンドロイドが席巻する中国スマホ市場。レノボ、シャオミー、ファーウェイの中国勢に韓国サムスン電子も加え、これまで強気の増産を展開してきた。ここに米アップルも参戦。アンドロイドの牙城を切り崩し、シェアを拡大中である。
 この動きに呼応し、模倣品も含め、ミドル・ローエンド品を戦略商品とする多数のスマホメーカーも参入。大手から中小に至るまで、各社とも量産体制を構築した。その結果、需給バランスが崩れ、在庫過多を招いたのが、今年の4~6月期である。

 そこで大手メーカー各社は、南米をはじめ周辺アジア諸国をターゲットに、輸出強化に戦略を変更。在庫過多で滞ったスマホ製造を、輸出分でカバーした。つまり、グロスで見れば、製造数量は変わらないことになり、電子部品の搭載員数も右肩上がりの軌跡を描いたことになる。
 日本電子部品メーカー各社の15年度4~6月期業績が、中国スマホの在庫過多にも関わらず好調であったのは、こうした事情が背景にある。

 今後のスマホ動向は、やはりアップルの新製品である「iPhone 6s/6s Plus」がカギを握ることになる。それもマーケットはワールドワイドではなく、中国市場での躍進がキーとなる。もともと今回の同社新スマホは買い替えに便宜を図るなど、中国を意識した製品投入と聞く。グーグルの牙城をどこまで切り崩せるかがポイントとなる。このため、これまでスマホ事業参画の電子部品メーカーは各社横並びで業績を上げてきたが、10から12月期以降は、組むスマホ事業者によって、業績に濃淡が現れてくると推測する。

中国市場回復までADASで

 スマホと並ぶ、もう1つの牽引アプリが自動車市場である。同市場は北米が好調で、EUも底堅い。不調は日本と中国の両市場で、日本は普通車が堅調なものの、増税の影響を受けた軽自動車の落ち込みが痛い。そして日本より深刻なのが、中国市場である。
 これまで2桁成長を続けてきた中国だけに、事態はより深刻さを増している。現在、中国の市場伸び率は3%台にまで落ち込んでおり、販売店ではほとんど売れていないのが実情である。

 端を発したのは、中国政府の環境対策。排ガスによる環境問題に対応するため、ナンバープレートの発行を制限したからである。これで、これまで中国市場を席巻してきたドイツ車の売れ行きに急ブレーキが掛かった。本来なら、地場メーカーにチャンス到来なのだが、自助努力を怠っていた。自らの技術力を切磋琢磨することなく、課題はお金で解決する方法論を選択した。このため、新車を販売しても、燃費は悪い、車体・内装デザインは最悪。中国の国民は見向きもせず、市場は冷え込んでしまった。その一方で、ディーゼル車の普及に期待が掛かったが、フォルクスワーゲンが水を差した。

 それでも電子部品業界が本当に期待するのは車載市場。スマホのピークアウトが予期されるなか、電装化の進展とADAS(先進運転支援システム)の普及が期待を高める。また、ワイドバンドギャップSiCパワーデバイス搭載で、エンジンやモーター周りの構造が変わる、駆動系インバーター関連も新市場となる。
 自動車市場は回復力も緩慢で、景気の戻りも鈍い。時間を要することになろうが、電装化の進展とADASの普及が電子デバイス市場を育てることになる。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

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