電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第116回

電力自由化は電力業界の一大パラダイム


開放市場は8420万件、規模7兆5000億円

2015/10/9

 電力業界における一大パラダイム、それが2016年4月から全面的にスタートする電力自由化だ。これまで大手電力企業10社(北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄)が「地域独占」していた同業界において、電力企業以外の新電力事業者も参入することでビジネスチャンスが創出され、経済が大いに活性化されることが期待されている。新電力事業者の業種は通信、ガス、自動車など多岐にわたり、それぞれの業種と連携した、これまでにない充実したサービスが展開される見込みだ。電力自由化により新たに開放される市場は8420万件、市場規模は7兆5000億円とも見込まれている。

きっかけは1993年

 電力自由化は段階的に進められてきた。きっかけは、1993年に当時の総務庁がエネルギーに関する規制緩和を提言したこと。その後、電気事業審議会で審議を開始し、95年4月の電気事業法改正以後、3回の法改正が実施された。

 最大の焦点である小売事業においては、2000年から規制が順次撤廃されてきた。手始めとして、00年3月に2000kW以上への販売が対象となり、04年4月には500kW以上、05年4月に50kW以上と、その対象範囲は段階的に拡大されてきた。
 ただし、この段階では依然、電力企業のイニシアチブが強く、成功した新電力事業者は限定的だった。最大の理由は、新電力事業者が基本的に送電線を持たないことだ。そのため、電力企業の送電線を借りることになるが、そもそも電力企業と新電力事業者はカスタマーを奪い合う競合関係にあり、健全な事業競争は期待できない。新電力事業者の利用を制限し、自社の電力を優先して販売するケースが多かった。

大震災を機に送発電分離へ

 潮目が変わったのは2011年3月11日に発生した東日本大震災。同震災を契機に燃料価格は高騰し、一般家庭部門などにおける電気料金の平均単価は2割上昇したほか、工場、オフィスなどの電気料金の平均単価は3割上昇した。こうしたなか、14年6月11日に電力小売りを全面自由化する改正電気事業法が成立し、16年4月に50kW以下の一般家庭や事業者も電力企業を自由に選べることが決まった。

 加えて、20年をめどに電力企業の「発送電分離」を実施する。従来のように発電部門と送電部門が一体的に運営されれば、先述のように新電力事業者に対して送電部門が送電線の利用を制限することもあり得る。また、利用料を不当に高くすることも懸念される。この発送電分離により、送電線を所有しない新電力事業者も公平な送電線の利用が保証されるほか、発電や小売の市場競争が活性化することが期待される。現状、発送電分離に向けて電力企業は事業を再編している。例えば、東京電力は送配電事業、電力小売事業、燃料・火力発電事業、コーポレートなど、それぞれ分社化している。

 さらに、この発送電分離をより確実にすべく15年4月に誕生したのが「電力広域的運営推進機関(Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN)」だ。同機関の役割は、全国の送電線の整備・運用だ。これまでは電力企業各社がそれぞれの管内の送電線を管理していたが、それを一元的に管理することで電力小売の自由競争を促進する。加えて、東日本大震災では電力企業間の電力融通で手間取っていたが、同機関では全国の系統情報をベースに電力需給も行っていく。さらに、必要であれば送電網も構築していく。

 新電力事業の登録者数は13年11月時点で113社だったが、1年後の14年11月には412社まで増えた。今年7月17日現在では710社にまで拡大している。ただし、現状でサービスを具体化している企業は70社程度と少ない。そのなかでもユニークな戦略を打ち出している企業の一部を以下にレポートする。

ガス会社が事業本格化

 新電力事業最大手のエネットは、NTTファシリティーズ、東京ガス、大阪ガスの共同出資で設立された。日本全国に1万9000件を超える顧客を持ち、新電力事業におけるシェアは50%以上に達する。東京ガスは、家庭向けを含めた小売りにも参入する方針を示しており、都市ガスとのセット販売なども検討している。大阪ガスもセット販売する見込みだ。同社は国内外に天然ガス発電所、太陽光発電所、風力発電所などの電源を保有し、その合計出力は290万kW(国内180万kW、海外110万kW)に達する。今後、新電力事業が本格化するなかで、電源を600万kWに倍増していく考えだ。

ソフトバンクグループも参入

 ソフトバンクグループ100%出資のSBパワーは、再生可能エネルギーで発電した電力を販売するのが最大の特徴。具体的には、再エネ発電所の建設・運営を行うSBエナジー(ソフトバンク出資)や再エネ発電事業者などから電力を調達し、高圧需要家を中心に販売する計画だ。ソフトバンクは、携帯電話で3700万件以上(14年9月末時点)の契約数を持つが、今後、セット割引などの携帯電話と連携したサービスを展開する見込みだ。

地域密着でも展開

 「地域密着型」を売りにする企業もある。例えば、スマートテックとフットボールクラブ水戸ホーリーホック共同出資の水戸電力(株)は、水戸市を含めた近隣市町村を対象とした新電力事業を展開する。具体的には、地域発電事業者を中心に電力を購入し、水戸市内の法人企業、集合住宅、店舗、学校、商業施設などに販売する。今までの電力会社から地域発電事業者に切り替えることで地域経済活性化に寄与する。これにより、地域内企業の事業拡大につながるほか、水戸電力が事業収益の一部をエネルギーインフラ産業に投資する。これにより、雇用創出や企業誘致などにつながるとしている。

電力会社も前向き

 一方、電力企業も指を咥えて見ているわけではない。東京電力は100%子会社であるテプコカスタマーサービス(TCS)を新電力事業者として登録している。東京電力から受託している電気料金の計算・請求業務などで培ったノウハウを活かし、TCSはエネルギーコストを最小化できる新電力として活動していく考えで、東京電力グループは、関東周辺地域以外での売上高として17年ごろに340億円、24年ごろに1700億円を目指す。

 中部電力は、13年10月に三菱商事の子会社で、電力の販売を手がけるダイヤモンドパワーの株式80%分を取得した。また、三菱商事および日本製紙と共同で、10万kW級の石炭火力発電設備を建設・運営する発電事業企業の展開を進めている。現在、静岡県富士市に発電設備の整備を進めており、16年5月に運転を開始する予定。ダイヤモンドパワーは、この合弁企業から仕入れた電力をベースに50kW以下の市場でも展開を加速させていく。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

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