次世代自動車はIoT技術の集大成
エンジン音もなく、ハンドルも握らないベンツの「F015ラグジュアリー・イン・モーション」
ITやスマート技術を駆使する次世代自動車の開発で、日本は米国に先んじられている感がある。これらの技術導入により安全、快適、省エネを実現するスマートカーの開発で、日本と米国では根本的な ところが違うように感じる。日本はトヨタやホンダなどの自動車メーカーが主体になっていて、「車を運転する」ことをベースにしているように思う。米国はグーグルやアップルなどのネット・IT企業が、次の時代の「車社会を作る」ことを主眼に置いているように見える。
・高度道路交通システム(ITS)との連動による車間距離走行や車線逸脱の検出
・歩行者や障害物など対物接近によるブレーキ作動
・道路交通情報のリアルタイム取得
・高知能化したカーナビによる運転者へのアシスト
そして、これらの技術の集大成となるのが、自動車の「自動運転」システムだろう。
中国のスマートカー開発も百花繚乱
中国版グーグルといわれるネット検索・地図サイトのバイドゥ(百度)は、独BMWと中国で自動車の自動運転技術を開発している。中国の地図情報データベースを握っている強みから、BMW以外の自動車メーカー多数もバイドゥと開発契約を結んでいる。
ZTEが開発した
テレマティックスシステムを搭載したデモカー
通信キャリア設備2位(スマホも製造)のZTE(中興通信)もテレマティクスシステムを開発している。音声入力で地図検索する機能を備えたカーナビを開発し、スマホとデータ連携させ高付加価値サービスを提供する考えだ。
チャイナモバイル(中国移動通信)もLTE通信による音声認識で地図情報や交通情報、気象情報にアクセスするナビゲーションシステムを開発した。米国の自動車や電子部品メーカーが中心となる車載用電子部品の信頼性や規格化の業界団体(AEC)の規格にも準拠した。中国の自動車大手の東風汽車が2014年末に発売したSUVの「風神AX7」にファーウェイが開発した車載システム「Windlink」が搭載された。
上海汽車は、中国EC最大手のアリババ(阿里巴巴)と2016年にテレマティクスサービスを開始する。アリババは地図情報サイトの高徳AutoNaviを買収して、弱点だった地図情報分野を強化している。
奇瑞汽車は、車載向けITソリューションの上海博泰悦臻電子設備製造とネットを使ったハイヤー手配サービス「易到用車」を運営する東方車雲信息技術(北京市)と共同で、スマートカーのシステムを開発している。
楽視やシャオミーも虎視眈々!
ネット動画配信・スマートTVとスマホ販売の楽視網は、15年1月にスマートカー事業に参入した。日産の海外高級ブランド車「インフィニティ」の中国事業の元責任者(呂征宇氏)を引き抜いて、米シリコンバレーで260人体制の開発部門を発足した。楽視網はスマホ用カスタムOSも開発しており、これに応用可能なスマートカーシステム「Seeプラン」を開発している。
上海登録の自動車保有台数は
14年に20万台増加して300万台を超えた
シャオミーも以前からスマートカー事業に参入の噂がある。2014年末には「80万円のスマートカーを販売するのではないか」という憶測情報まで流れた。シャオミーはスマホのハード、OS、アプリ事業を中核に、スマートホーム、ヘルスケア、スマートカーなどへとアップルのような事業展開を計画している。2015年夏には、シャオミーが巡航速度走行、エネルギー補充、車両コントロール、カーナビ、運転アシスト、自動ブレーキ予測など十数件の特許申請をしていたことが報じられた。
中国のスマートカーの技術開発は米国や日本と比べて大きく出遅れていたが、欧州企業との技術提携や中国ネット企業の本気ぶり、中国政府の「インターネット・プラス(互聯網加)」政策をテコに、今後はスマートカー開発で中国がキャッチアップしてくるかもしれない。
電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善