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第113回

PVJapan2015に見るPV技術最新トレンド


結晶Siの高効率化技術加速

2015/9/18

PVJapan2015会場風景
PVJapan2015会場風景
 太陽光発電協会(JPEA)が主催する「PVJapan2015」が2015年7月29~31日の3日間、東京ビッグサイトで開催された。08年の第1回開催以来、8回目となる今回の展示会だが、出展社数(大学などの研究機関含む)は昨年(14年)の160社、一昨年(13年)の186社と比較すると、今回は153社と伸び悩むかたちとなった。バックシート、封止材、ガラスといったモジュールの主要構成部材の出展ブースは姿を消し、太陽電池(PV)メーカー大手の京セラも出展を見送った。来場者数も前年比1割減の3万7402人(同時開催の再生可能エネルギー世界展示会含む)にとどまった。
 規模縮小の感が否めない今回の展示会だったが、出展企業は積極的に高効率化技術やPVを中心としたエネルギーソリューションを提案した。

ACモジュール提案

 会場で目を引いたのがSunPower(米国)と東芝が展示したACモジュールである。PVモジュールを直列に接続する通常のPVシステムでは、1枚のモジュールに影がかかると他のモジュールの出力も低下するといった問題が発生する。また、小規模なシステムでも大型のパワコンが必要になるなど、設置上の制約も多い。
 一方、マイクロインバーターをモジュールに組み込んだACモジュールでは、モジュール単位で発電量を最大化できるという利点がある。さらに、パワコンが不要のため、狭い場所でもPVシステムの導入が可能になる。
 ACモジュールは10年にインバーターメーカーのSolarBridge(米テキサス州)が市場投入を発表したが、14年にSunPowerが同社を買収し傘下に収めた。

ACモジュール(SunPower)
ACモジュール(SunPower)
 今回、SunPowerは子会社のSolarBridgeが製造するマイクロインバーターを一体化したオールインワンのACモジュールを発表した。PVモジュールとパワコンを一体化することで、自由度の高い設置、堅牢で信頼性の高いシステム設計が可能と説明している。出力、製品のいずれも25年間の保証がついている。ACモジュールは50kW未満のシステム(住宅含む)に最適とし、北米市場では市場投入済みだが、今後、日本市場でも販売を開始する。

ACモジュール(東芝)
ACモジュール(東芝)
 東芝もSunPower社のSシリーズモジュール(出力250W)と組み合わせたACモジュールを提案した。自社製のマイクロインバーターは電解コンデンサーを使用しないことで長寿命化を実現している。通信方式に920MHz帯を使用することで、スマートコミュニティにも対応している。
 ACモジュールでは、影による出力低下の影響が少ないため、様々な場所にPVシステムが設置できるようになる。東芝は住宅だけでなく、公園、学校、鉄道駅、バス停、高速道路、スタジアムなどへのPV導入を提案している。

PERC技術の採用相次ぐ

 REC Solar(ノルウェー)、SolarWorld(ドイツ)の欧州勢はPERC構造を採用した高性能結晶SiモジュールをPRした。PERC(Passivated Emitter and Rear Cell)は、セル裏面側にSiO2やAl2O3などのパッシベーション膜を挿入したもので、セル裏面での再結合が抑制できるため、変換効率の改善が期待できる。すでに、韓国のHanwha Q-Cells、中国のTrina Solar、JA SolarなどがPERCセルの市場投入を開始しており、Suntech(中国)も15年に1GWのPERCセルの生産体制を確立することを明らかにしている。そして、Trina SolarはPERC構造を採用した新型セル(5本バスバー)を用いた小型&高出力モジュール(48セル、モジュール効率17.4%、出力230W)を日本の住宅向けに投入することを発表している。

 調査会社のLuxResearchも結晶Siの高効率化技術としてPERCが有望としている。同社は結晶Siの高効率化技術として、PERC、MWT、Bifacialの3つを挙げているが、高効率化技術の中では投資負担が少ないPERC技術は、今後採用が増えると予測。ちなみに、PERCなどの高効率化技術を導入することで、20年までにモジュール効率は24%に達し、W単価は0.48ドルまで低下すると指摘している。

TWIN PEAK(REC Solar)
TWIN PEAK(REC Solar)
 REC Solarは、3本バスバーのセルを用いた「PEAK ENERGY(60セル)」と、PERC構造、4本バスバーのセルを半分に分割した「ハーフカットセル」を用いた「TWIN PEAK(120セル)」の2種類の多結晶Siモジュールを展開している。
 最高出力は「PEAK ENERGY」が265W、「TWIN PEAK」が280Wだが、「PEAK ENERGY」は、72セルの大型モジュール(出力315W)やZEPフレームに準拠した「Z-LINK」もラインアップしている。また、ハーフカットセルを用いたWガラスモジュールも参考出品した。

Sunmodule Plus(Solar World)
Sunmodule Plus(Solar World)
 Solar Worldは、Wガラスを用いた両面受光型モジュール「Sunmodule Protect」とPERC構造、5本バスバーの高性能単結晶Siセルを用いた新型モジュール「Sunmodule Plus」を展示した。「Sunmodule Protect」は2mm厚のガラスを2枚使用し、表面の出力275W、裏面を含めた合計出力は337Wになる。

 「Sunmodule Plus」はPERC構造のp型単結晶Si、5本バスバー電極を採用し、セル効率は21.5%、モジュール出力は300W(60セル)となっている。ちなみに、PERCセルの最高効率は21.7%を達成(15年7月)済み。すでに既存のセル生産ライン(800MW)をPERC用に改造済みで、15年秋から市場投入を開始する予定。需要動向を見ながら、さらなる生産拡大も検討する。また、SolarWorld主導の研究開発プロジェクト「HELENE」では、17年末までにp型単結晶Siを用いたPERCセルで効率22.5%を目指している。

 PERC技術の導入加速が期待される一方で、PERC用製造設備の供給不足といった懸念も指摘されている。PV用製造装置メーカー大手のMeyer Burgerでは、アジアのPVメーカーからPERC用製造ラインの引き合いが増えているらしいが、いずれにしても、製造ラインの安定供給がPERC技術の普及のカギを握りそうだ。

ヘテロ、IBCも続々参入

 国内勢では、シャープ、パナソニック、カネカがIBC(バックコンタクト)やヘテロ接合といった高効率結晶Si太陽電池、さらには、ソーラーフロンティアがフレキシブル基板を用いた新型CIGSを紹介した。
 表面電極による入射光ロスを根本的に解消できるIBC、結晶Si上にアモルファスシリコン(a-Si)層を成膜することで高いパッシベーション効果が期待できるヘテロ接合はいずれも、結晶Si太陽電池の高効率化技術として世界中で開発が進んでいる。

HBCセル(シャープ)
HBCセル(シャープ)
 IBCは、SunPowerとシャープが量産中で、SunPowerは14年にセル効率25%を実現したが、ライフタイムの制御、裏面反射ロスやエッジロスの低減などで26%超の効率が狙えるとしている。シャープのIBCはセル効率22.1%だが、ヘテロ接合を組み合わせたHBCセルで、25.1%(セル面積3.72cm²)を実現している。

ソーラーカーレースで優勝したOSUチーム(Trina SolarのIBCセルを採用)
ソーラーカーレースで優勝したOSUチーム
(Trina SolarのIBCセルを採用)
 中国のPVメーカーではTrina SolarがIBCセルで24.4%(量産レベルで22~23%)を実現している。8月1日に開催された「FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP ソーラーカーレース鈴鹿」では、Trina SolarのIBCセル(セル枚数565枚)を採用した大阪産業大学(OSU)のソーラーカー「OSU-Module-S」が、5時間で66周を走行し、後続車に3周の差をつけて総合優勝を果たした。

新型HIT(パナソニック)
新型HIT(パナソニック)
 ヘテロ接合は、パナソニックが1997年からHIT太陽電池の名称で量産を開始しており、R&Dで24.7%(ウエハー厚98μm)、量産セルで22.5%の効率を達成している。14年には、IBCを組み合わせたHBCセルで25.6%を達成するなど、実用サイズ(セル面積143cm²、150μm)では、世界で初めて25%の壁を突破した。
 今回の展示会では、出力250W、モジュール効率19.5%の新型モジュール「P250αPlus」を出展したが、出力270W、モジュール効率22.5%の高出力モジュール(72セル)の試作にも成功しているという。

量産を始めたヘテロ接合型PVモジュール(カネカ)
量産を始めた
ヘテロ接合型PVモジュール(カネカ)
 カネカは、従来のa-Siに加えて、15年からヘテロ接合セルを用いた新型モジュール(54セル)の量産を開始している。セル効率は23.6%、出力は260Wで、16年以降、ハウスメーカーなどと協業して販売を本格化する計画だ。

 ヘテロ接合型については、スイスの太陽電池メーカーのEcoSolifer AG(拠点:ハンガリー・ブタペスト)が量産に乗り出すことを発表している。装置メーカーのMeyer Burger社の生産ラインを導入し、16年から生産・出荷を開始する計画だ。
 生産ラインはハンガリーの北西部に位置するジェール・モション・ショプロン県のチョルナ(Csorna)に建設する。15年中に設備を導入し、16年第1四半期(1~3月)中の生産および出荷を予定している。セル生産能力は500MWを計画しているが、当面は年産90~100MW規模で生産を行う。
 さらに同社はブラジルにPVモジュールの生産工場を建設する計画も明らかにしている。生産能力は80MWで、ハンガリーで生産したセルを用いた高出力モジュールを生産する。稼働は16年4月を予定しているが、将来的には、ブラジル国内でセルの生産を行う計画も持っている。

ソーラーフロンティアが新型CIGS

稼働を開始した東北工場(ソーラーフロンティア)
稼働を開始した東北工場(ソーラーフロンティア)
 薄膜太陽電池では、CIGSを展開するソーラーフロンティアが高出力モジュールと軽量&フレキシブル新型モジュールを展示した。
 同社は現在、主力の国富工場(宮崎)で出力170Wの大型モジュール(モジュール効率13.8%)を量産しているが、15年4月に稼働を開始した東北工場(宮城)では180Wの新型モジュール(同15%超)を生産する。

フレキシブルCIGS(ソーラーフロンティア)
フレキシブルCIGS(ソーラーフロンティア)
 一方、用途開発の一環として、薄い金属基板と高機能の樹脂製カバーフィルムを使用した軽量&フレキシブルCIGSを開発した。モジュールの厚さは1.5mmで、ガラスおよびフレームを使用しないことで、モジュール重量を従来の3分の1まで軽量化(4kg/m²)することができた。変換効率も従来型と同等の数値を実現しているという。

 すでに、シンガポールの空港で実証試験を開始しているが、超軽量、薄い、曲がる、といった利点を生かして、CIGS太陽電池の用途開発、さらには新市場の創出を目指している。

 CIGSは日本、米国、ドイツのベンチャー企業が相次ぎ市場参入したが、その多くが破綻もしくは事業撤退、事業売却に追い込まれている。今のところ、ソーラーフロンティアが唯一、年産1GWの生産能力を誇っている。

 Hanergy(中国)はGlobal Solar Energy(米国)、Miasole(米国)、Solibro(ドイツ)といった欧米のCIGSメーカーを相次ぎ買収し、その技術を取得することで、同事業への本格参入を図ったが、最近では、2000人の人員削減を発表するなど、事業の立て直しに迫られている。

 また、Ascent Solar(米コロラド州)は、中国・江蘇省の宿遷市で計画していたCIGS太陽電池の工場建設を断念し、同市と設立したJVも15年8月に解消したほか、TSMC(台湾)の100%子会社のTSMC Solarも15年8月末でCIGS太陽電池の生産を停止し、同事業から撤退した。
 TSMC Solarは09年の設立で、10年にはSTION(米国)と技術提携し同社からCIGSの技術を取得。12年に台中科学工業園区内に工場を建設し、量産出荷を開始した。生産能力は100MWで、最終的には1GW規模まで拡大する計画を打ち出していたが、コスト低減が進まず、これ以上の事業継続は困難と判断し、事業撤退を決めたという。

 一方、STIONはCIGSの生産能力を現在の60MWから120MWに倍増する計画を打ち出している。協業するAVACO(韓国)と580万ドルで製造装置の供給契約を締結しており、熱プロセス反応炉やTCO成膜装置を新たに導入する計画だ。

 事業撤退が相次ぐCIGSだが、台湾のHulk Energy Technology(HULKet)は積極的な事業展開を進めている。同社は10年の設立で、直動部品(ボールねじ、リニアモーターなど)世界2位のHIWINが筆頭株主になっている。12年から50MWの量産ラインが稼働している。

 HULKet のCIGSは1235mm×1901mmという大型モジュールが特徴で、3つのサブモジュールを連結した構造になっている。バッファー層はCdフリーのZnO系を採用しており、モジュール効率は14%だが、15年7月には量産のCIGSモジュールとしては世界最高出力となる324Wを実現した。
 販売も好調で、50MWの製造ラインはフル稼働状態が続いているという。今後もCIGSは欧米市場での需要拡大が期待できることから、200MWのライン増設を計画しているという。

福島で開発が進む次世代PV

FREA外観
FREA外観
 PVJapan2015と同時開催の「第10回再生可能エネルギー世界展示会2015」では、産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所(AIST-FREA)が薄型結晶Si太陽電池の開発状況を紹介した。

 薄型結晶Si太陽電池は太陽光チーム(高遠秀尚チーム長)が中心となって開発に取り組んでおり、被災地企業のシーズ支援プログラム(6社)や次世代結晶Si太陽電池コンソーシアム(23社)と共同で開発を進めている。
 具体的には、Siウエハーの薄型化、セルの高効率化、軽量Wガラスモジュールの開発を目指しており、Siウエハーは現在の180μmから80μmまで薄型化する。
 高効率セルはPERC構造および両面受光型で20%超、さらにはバックコンタクト型やイオン注入技術の採用で25%超を目指す。軽量モジュールでは、重量を半減しつつ、25年の耐久性を確保する。

 14年度には、高品質Siインゴットと薄型Siウエハーのスライス技術、FREA標準セル作製プロセスの確立、スマートスタック技術、新規モジュール評価方法の開発などに取り組んだ。高品質SiインゴットはFTB研究所、東北大学と共同で開発している。FTB研究所製の石英るつぼは溶融Siと反応しないため、不純物の混入が少なく、一般的なp型Siインゴットに対し、2~3倍のキャリアライフタイムがある。

超薄型結晶Siセル(FREA)
超薄型結晶Siセル(FREA)
 スライス技術については、芯径100μmのダイヤモンドワイヤー(ダイヤ砥粒9.8μm)を用いて、120μm厚のウエハーを99.8%の歩留まりで切り出すことに成功している。20cm長のインゴットから取れるウエハーの枚数は従来の600枚から900枚に増えた。
FREA標準セル(p型Si、アルミBSF)のプロセスでは、180μm厚で変換効率19%前後のセルを量産規模(セル生産能力200枚/時)で製造できるようになった。

 一方、高効率化技術として、両面受光型や極薄セルの開発に取り組んでいる。両面受光型(180μm厚)は表面側で19.4%、裏面側で16.1%、極薄セルでは100μm厚手効率16.5%を実現している。
 n型ウエハーの拡散技術としてイオン注入技術を検討している。テクスチャー表面でも深さが均一な拡散層が形成できるとし、セル効率18.7%を達成している。イオン注入による拡散プロセスは装置コストが高いが、セル工程数が半減できるという利点がある。

 低コストの多接合技術として、Pdナノ粒子を用いたスマートスタック技術を開発した。室温かつ常圧で、大面積の接合が可能で、これまでに、GaAs/InP系4接合セルで31.6%の効率を実現している。ボトムセルに薄型結晶Siを適用すれば、高効率と低コストが両立できるという。
 モジュールの新規評価手法として、絶対EL法を開発した。同方法では、モジュール内の各セルの電圧を個別に評価できるため、非破壊で故障個所の同定が可能になる。

 15年度には、薄型でも割れにくいウエハーの作製技術やSi系スマートスタック技術、PERC型やIBCのセル開発に取り組む。IBCでは、イオン注入技術を用いたプロセスの低コスト化を目指す。
 そして、10月には新たなコンソーシアムを立ち上げる。新コンソーシアムでは、0.55mm厚の超薄型ガラスを用いた超軽量Wガラスモジュール(従来比3分の1の重量)を開発する。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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