電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第111回

来るか? 未完の大器、「部品内蔵技術」


~IoT時代のセンサー需要に期待~

2015/9/4

もたつくシステムへの採用

 部品内蔵基板技術が提唱されてから、かなりの時間が経つと思うが、なかなか普及していない。ランナー用時計に半導体を内蔵したり、携帯電話のメーン基板内にコンデンサーなど多数の受動部品を内蔵したりする散発的な動きはあったものの、すべて一過性に終わってしまっている。

スマホ用メーンボードとして採用された大日本印刷の部品内蔵基板
スマホ用メーンボードとして採用された
大日本印刷の部品内蔵基板
 小型で高機能なシステムを実現しようとすると、高密度実装技術が必須になるが、その究極ともいえるのが部品内蔵技術だ。今後の高密度実装分野で主役を張ることは間違いない、未完の大器の技術であることは衆目の一致するところだが、その採用の動きは鈍い。
 その理由としてよく挙げられるのが、コストの問題だ。数が出ない分、当然製造コストが高くつく。部品を埋め込んだ後に何か不具合があってもリワークができない。要は製造リスクが高すぎるのだ。

 品質保証の問題もよく指摘される。何かあった時の保証体制がどうなるのか、万が一の責任はどこが取るのか。このため、半導体などのKGD(known Good Die)が必須となるが、どこもベアチップで保証してくれるところがないのだ。こうした様々な足かせやしがらみがあって、なかなか普及してこなかったのが実態だ。しかし、何もベアチップにこだわる必要はない。確かに極限まで薄くできるメリットは魅力的だが、普及しなければ元も子もない。

 こうした半導体などのアクティブ部品の内蔵は肝になる部分であるが、その場合の解決策としてWLP(Wafer Level Package)技術を積極的に活用しようという手法はかなり合理的だ。恐らくKGDの問題をクリアする突破口になるだろう。
 さらに普及の足かせになっている大きな理由として、アプリケーションの問題がある。部品内蔵を牽引するキラーアプリが不在なのだ。

JIEPがキラーアプリの一端を紹介

 こうしたなか、エレクトロニクス実装学会(JIEP、佐相秀幸会長:(株)富士通研究所社長)の部品内蔵技術委員会のロードマップWGがまとめた「部品内蔵技術ロードマップ」(2015年度版)が意欲的な報告書に仕上がっているので、簡単に紹介したい。

 同報告書は、部品内蔵基板の製造技術はもちろん、検査・試験、設計、国際規格や環境規制など多面的な構成でまとめられている。冒頭に述べたような1つ1つの課題に真摯に向き合い、いまだ量産技術として確立されていない難しい技術であることを認めつつも、今後の普及活動を積極的に推進する意欲が感じられる。

 特に注目したいのが、部品内蔵技術を適用するアプリケーションだ。同報告書では、IoT(Internet of Things)時代を踏まえて、IoT技術に必須のセンサーに着目する。
 IoT社会では「トリリオンセンサー」に代表されるように様々なセンサーが、街中に溢れひしめくことになる。1つ1つの機能の高性能化と高度化はもちろんのことだが、IoT時代にはこれらのセンサーが互いにつながったり、ホストと通信することが求められてくる。さらに、極限まで小型化されたセンサーモジュールの実用化が待たれる。ここには部品内蔵技術をもってほかにないというのだ。

 同報告書によれば、様々なデバイスニーズが立ち上がるとしている。少しSF的な要素もあるが、あながちありえないことでもないので、その具体的な事例を表に挙げておく。


 
個人的にはカプセル内視鏡に期待

 正直、実現するまでには少し時間を要するセンサーや機能があることは否めない。しかし、意外と早く部品内蔵技術の時代が本格到来するかもしれない。
 筆者が大いに期待するのは、カプセル型の超小型内視鏡カメラだ。現在のところ口や鼻から専用器具を挿入してリアルタイムチェックできるのは良いのだが、恐らく今の内視鏡検査に満足している人は少数派だと思う。いくら小型化したとはいえ、検査にはかなりの苦痛や不快感が伴うからだ。これをカプセル内視鏡に代替すれば結構な潜在需要を開拓でき、大きな市場が広がると思う。CCD/CMOSイメージセンサーをはじめ、LED、メモリー、コントローラーIC、RF回路、電源など主要デバイスの塊となる。
 超小型のカプセル状にこれらのデバイスを詰め込むためには部品内蔵は必須の技術となるだろう。しかも、感染症予防や衛生面などの観点から使い捨てが原則となる。既存の内視鏡ですら使用後の洗浄などに相当の負荷や時間を要しているのだ。つまり大量のカプセル内視鏡が必要になるというわけだ。これは大変有望なアプリケーションになりえると見る。

「Tumiki Block」を提唱

 未来の生活はこうしたIoT技術やAI(人工知能)と融合してエレクトロニクス技術がますます発展する。1つ1つ開発していては時間ももったいないし、コストもかかるだろう。そこでより複雑な機能であっても、あらかじめ最低限必要な機能などをモジュールで作り置きしておいて、自由に簡単につなげたり、組み合わせることで、手早くスムーズに必要なシステムを実現することが重要になるとしている。
 同ロードマップの報告書では、これを「Tumiki Block」(積み木)と名づけて自由に組み合わせることが大事としている。将来の実装技術のあるべき姿の1つの事例としてユニークな提言といえる。

 一般的なTumiki Blockを構成する要素としては、各種センサーにマイコン、電源、RF回路などが主なチップとなる。マイコンや電源は基板内に内蔵して、他のTumiki Blockと組み合わせて通信させる必要があるため、無線技術も進化させる必要があるという。

JIEPの部品内蔵技術委員会 ロードマップWGが開催したセミナーでは積極的に情報発信も
JIEPの部品内蔵技術委員会
ロードマップWGが開催したセミナーでは
積極的に情報発信も
 最近、国内では部品内蔵技術に関して、開発事例の紹介や発表が行われている。東芝も開発した高速伝送通信モジュールのTransferJet規格対応製品で専用チップなどの半導体を埋め込んだ製品を開発済みだ。また、太陽誘電などはスマホ向けのカメラモジュールや電源モジュール向けに部品内蔵基板技術「EOMIN」(イオミン)の積極展開を検討する。徐々にそのアプリケーションや製造技術が広まっていることは間違いない。
 決して未完の大器の技術として終わらせるのではなく、より安全・安心、便利で快適な社会に大いに貢献するエレクトロニクスのコア技術として開花することを願う。

 同委員会では定期的に今回のロードマップの改定を行っていく予定である。ぜひ、日本のこうした新たな取り組みや開発事例などを世界に向けて継続して情報発信していってほしいと思う。

電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

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