電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第147回

「半導体立国」熊本県でも製品出荷額トップは自動車関連になった!!


~しかして企業誘致はやはり半導体関連が首位、セミコンフォレストの誇り守る~

2015/8/28

半導体立国「熊本」はセミコンフォレストという拡大運動を続けている!!(OGICの金森社長のあいさつ)
半導体立国「熊本」はセミコンフォレストという拡大運動を続けている!!(OGICの金森社長のあいさつ)
 九州・熊本は「火の国」である。阿蘇山といえば、怪獣ラドンの出てきたところであるが、大島出身のゴジラに比べてはいまいち知名度が低い。そしてまた熊本は半導体立国としても知られており、九州シリコンアイランドの中でもトップ、県別でいえば半導体生産日本一なのである。武器は何といっても「きれいで品質のよい阿蘇の伏流水」であり、しかも豊富にある。熊本市内70万人の人たちは、水道をひねればみんなこの地下水を飲んでおり、ただでミネラルウォーターが毎日飲めるところなのだ。

 半導体産業はクリーン産業であり、何としても豊富な水、しかもきれいな水のあるところを求めて各企業は立地を決める。オペレーターとしての労働力も多く持っていた九州は、水が良いこともあって、日本の半導体生産の40%を占めるシリコンアイランドを形成していったのだ。熊本県はその頂点に立つ県であり、三菱電機熊本、九州日本電気(現在はルネサス)、ソニー熊本など多くの半導体企業が集積する輝かしい歴史を積み重ねてきた。

 「ところが、平成25年における熊本県製品出荷額を見れば、自動車関連を中心とする輸送用機器が3775億円(構成比15.8%)で最も多く、次いで食料品13.4%、半導体などの電子部門は12.3%で3位に後退している。自動車関連の躍進は、やはり北部九州におけるトヨタ、日産、ダイハツなどの大型工場の貼り付きで、この協力企業が多数進出してきたことが大きい」

 こう語るのは、熊本県商工観光労働部にあって部長の任にある高口義卓氏である。熊本県下においても本田技研工業、アイシン九州、三光などの自動車企業が進出しており、最近でもTier2のヒサダ、中央製作所などの企業が新立地しているのだ。ただ、高口部長によれば、現在熊本で頑張る半導体メーカーはいずれも優秀だとしている。すなわち、CMOSセンサー世界トップのソニー、車載マイコン世界トップのルネサス、パワー半導体世界トップの三菱電機が相変わらず盛況を極めており、設備増強も活発だというのだ。

 製品出荷額で見れば、三番手に下がった半導体関連であるが、企業誘致という観点で見れば、別の姿が浮かび上がる。2014年度の立地件数35件のうち何と11件(全体の31%)は半導体関連で業種別トップになっている。2013年度も半導体関連は全体の24%で食品関連に次ぐ2位、2012年度についても半導体関連はトップの11件、全体の37%を占めている。

 「企業立地にかかわる先輩たちの活躍が今、モノをいっている。IT産業の成熟化、ニッポン半導体の後退が叫ばれるなかで、熊本に立地していただいた半導体企業はみな頑張って増強を重ねておられる。また、液晶フィルムで世界トップを行く富士フイルムの熊本工場も順調であり、決してエレクトロニクス関連がダメになったわけではないのだ」

 力強くこう語るのは、熊本県企業立地課の寺野慎吾課長である。すなわち、九州シリコンアイランドは死なず、そしてまた半導体立国熊本の勢いも決して衰えていない、と言いたいのだ。半導体では、セミコンフォレストという独自の拡大策を持ち、多くの企業のネットワークづくり、勉強会なども活発に開催している。ただ一方で半導体だけの一本足打法ではダメであり、自動車、食料、医療などの企業誘致もしっかりと進めていきたいとの決意も明らかにしている。

 半導体で地位を築いてきた地元企業も微妙に変化してきた。半導体ベンチャーとして知られるプレシードは、最近になって「グラノラ」という健康食品を出している。これは、食物繊維たっぷり、コレステロールも取れるというものであり、「カラダの中からキレイもスッキリも」がキャッチフレーズになっている。熊本防錆工業もフェルハピネス事業部を作り、何と新たな化粧品分野に進出している。無電解めっきなど表面処理に強く、パワー半導体関連に実績を持つOGICもまた、ケミカル本格志向を打ち出し、「サクラン」という新材料を開発して医療、化粧品などへの展開を狙っている。

 思えば九州は、明治の産業革命においては八幡製鉄を中心に「鉄」をコアに生きてきた。石炭産業が盛んなころには、ひたすら炭鉱で繁栄を築いてきた。「鉄」と「炭」のあとに来たシリコン(ケイ石)では半導体という世界で「石」の文化を作り上げ成功してきた。その次に来たのは自動車産業のラッシュであり、九州は常に時代にあわせて変貌を遂げてきた。熊本もまたその例外ではなく、時代に合わせて変化を続け「セミコンフォレスト」という半導体の運動論をしっかりと維持しながらも新エネルギー、医療、食料品、車載などを取り込み次の発展を狙っている。

 熊本の繁華街の下通りで酔いしれて、となりのお姉さまに「人生は空しい。人も物も企業もみんな変化していくのだ」とくだをまいていたら、艶然と笑いかけられ、こう言われてしまった。
「あら、私たちの美しさは変わらないわ。熊本美人は永遠に不滅なのよ。でも、火の国の女だから裏切ったらこわいわよ!!」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索