電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第107回

FIT背景に注目高まる木質バイオマス発電


高い調達価格、低環境負荷が追い風

2015/7/31

 2012年からスタートした再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)を契機に、再生可能エネルギーへの投資が活発化している。これまでは太陽光発電(PV)が中心を占めていたが、最近では木質バイオマス発電への投資が目立つ。その大きな理由の1つが高い調達価格だ。PVなどが下がっているのに対し、木質バイオマス発電は最大で40円/kWh(2MW未満)だ。これはFIT調達価格で最も高い。国内における木質バイオマス発電の投資動向を探ってみた。

エネルギー源は年間600万m3

 経済産業省 資源エネルギー庁によると、14年11月時点におけるバイオマス発電の設備容量は252万kW。このうち、RPS(Renewables Portfolio Standard、電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)が127万kW、FITが124万kW。日本政府は、バイオマス発電のエネルギー源を600万m3/年と試算しており、バイオマス発電導入容量は20年に約381万kW(約267億kWh)、30年に約408万kW(約286億kWh)と予測している。

 木質バイオマス発電への投資が活発化する大きな理由の1つが高い調達価格だ。具体的には間伐材由来で2MW未満が40円/kWh、2MW以上が32円/kWh、一般木質バイオマス・農業残渣で24円/kWh、建設資材廃棄物で13円/kWhとなっている。また、国土保全や水源かん養の役割を保つために間伐などの適切な森林整備が不可欠な点、年間約2000m3の未利用材の処理など、未利用材活用の観点からも意義がある。さらに、バイオマス燃料はカーボンニュートラル材料であるため、大気中のCO2濃度にも影響しない。

発電方式は2つ

 木質バイオマス発電は、直接燃焼方式とガス化方式の2つに大別できる。前者は燃焼・熱交換し、蒸気タービンを稼働させることで発電する。5MW以上の大規模発電向けが中心で、発電効率は10MW機で12%程度だ。基本的に規模が大きくなるほど発電効率は上がる。
 後者はバイオマスからガスを取り出し、ガスエンジンで発電するもの。5MW未満が中心だ。発電効率は25%前後を達成する。また、直接燃焼方式が熱電併給として利用するケースが全体的に少ないのに対し、ガス化方式はバイオマスボイラーと組み合わせて熱を有効利用することが多い。

 直接燃焼方式でも熱電併給に有効な有機ランキンサイクル(Organic Rankine Cycle:ORC)システムが注目されている。これは熱媒体として水の代わりに炭化水素系の有機媒体を使い、蒸気タービンを稼働させるもの。発電効率は600kW機で20%程度を実現するほか、排熱は90℃程度の温水として回収できる。熱電トータルのエネルギー効率は90%以上にも達する。

課題は燃料調達

 一方、木質バイオマスに対する課題も指摘されている。最も顕著なのが木質燃料の調達だ。1つの森林組合では足りず、複数と契約している発電所も珍しくない。複数の県をまたいでいるケースもある。当然、燃料価格の高騰化も懸念されている。こうしたことから木質バイオマスへの投資を疑問視する人も多い。

 また、ガス化方式においてはタール発生が懸念要素として挙げられている。これは木質燃料を燃焼させた時に生成する可燃性の高い高分子炭化水素。常温で液体または液体として炉内に存在し、安全運転を妨げる。ガス化は90年代から実用化が検討されてきたが、計画どおりに進まなかったのはタール発生の影響が大きい。ただし、最近のシステムはタール分解設備や独自プロセスにより大幅に抑えられている。

大規模プロジェクトも発足

 最近の主な木質バイオマス発電プロジェクトを表に示す。直接燃焼方式では丸紅(株)が出資する敦賀グリーンパワー(株)による福井県敦賀市のプロジェクトが比較的大規模だ。同プロジェクトは、東洋紡(株)の敦賀事業所第二事業所の敷地約2万2000m²を賃借し、出力37MW、年間発電量一般家庭約7万世帯分に対応するバイオマス発電所を建設するもの。15年11月に着工し、17年夏の商業運転開始を目指す。燃料は国内外の未利用の木質チップ。発電した電力は丸紅が行う電力小売り事業に供給する。




 一方、ガス化方式ではエア・ウォーター(株)が「安曇野 木質バイオマスエネルギーセンター」の建設を計画している。同プロジェクトは、同社のグループ企業であるエア・ウォーター農園の安曇野菜園(長野県安曇野)の野菜栽培に熱および電力を供給するもの。出力は熱が3800kW、電力が1900kW。燃料は未利用材を利用する。8月に着工し、16年3月に完成する予定。電力を売電することでチップ購入費用に利用する。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東 哲也

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