電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第106回

大丈夫? 下期のデバイス市況


台湾メーカーの月次業績から探る

2015/7/24

 旺盛な需要を背景に拡大を続けてきた電子デバイス市場だが、取材を通じて「踊り場にさしかかっているのでは」と感じるようになってきた。背景にあるのは、年初の予測を下回るセット機器の販売不振。1~3月期に中国のスマートフォン(スマホ)市場が前年割れしたことが話題となり、液晶テレビも下期は当初の出荷見通しを下回ることが確実視されている。パソコン市場が不振であることは、Intelの業績を見ても明らか。昨年はWindows XPの更新需要があり、その反動で落ち込みが大きくなっているという側面はあるものの、Windows10の発売を前にした買い控えだと捉える人は少ない。

 セット機器が売れにくくなってきた最大の要因として、ドルの独歩高がある。ブラジルのレアルやロシアのルーブルに見るように、ドル高の影響で新興国が軒並み通貨安に陥り、春から輸入製品の価格が値上がりし始めた。これが購買意欲や買い替え需要に影響するとみられ、年初に描いたセット機器の販売計画を狂わせ始めている。日本のデバイスメーカーは14年度、過度な円高の是正、それに続く円安ドル高基調の安定で収益を大きく回復・拡大させたが、現在の新興国市場にドル高を跳ね返すほどの成長余力はない。中国の株式市場の急落やギリシャ問題など、世界経済の先行きを不安視させる事案も噴出しており、マインド的にも強気になりにくい。

 大手調査会社のGartnerは、先ごろ発表した2015年の半導体市場予測を、年初に発表した5.4%成長から2.2%成長に引き下げた。日ごろの取材では「足元の市況は決して強くはないが、年末に向けて上がってくる」と多くの方が言う。それもそのはずで、近年の半導体業界は4~9月に売り上げがピークを迎え、10~3月は下落のタームという流れが定着しており、かつてに比べてピークが3カ月程度、前倒しになっている。これはファンドリーの稼働率に如実に表れており、4~9月に年間稼働率のピークを迎えている。


 果たして、15年にも例年どおりのサイクルが当てはまり、下期に一気上昇というシナリオが描けるのだろうか。月次で業績を発表している台湾の主要メーカーの状況を、前年同月比というかたちで見ながら、今後を少し展望してみたい。

LSI / IC

 グラフは、主要7社の1~6月の売上高を前年同月比で折れ線にしたものだ。1~3月期に比べ、4~6月期は前年同月実績を下回るメーカーがぐっと増え、6月だけに限れば、Macronixを除く6社が前年同月実績を割り込んだ。TSMCは、1月が前年同月比69%増と好調だったが、おそらくAppleのiPhone向けプロセッサーの生産が一段落した影響だろう、6月には同0.6%のマイナスに転じた。やはり下期にはApple向けの生産が伸びてくるだろうが、主要顧客の1つであるイメージセンサーメーカーのOmniVisionが中国の投資家集団からの買収提案を受け入れそうなことを考慮すると、ファンドリー委託先がTSMCから中国系へ今後シフトする可能性もあり、14年の売り上げ水準を維持するのが難しくなるかもしれない。


OSAT / Subcontractor

 1~3月期に比べ、4~6月期は前年同月実績を下回るメーカーがぐっと増えたのはLSI / ICと同様。そのなかでASEだけが別格で、依然として前年同月実績を上回り続けている。Apple Watchの生産を一手に引き受けているといわれており、これだけが好調の理由ではないだろうが、前年同月比で2桁成長を継続中。他の5社は5月、6月と前年同月実績を下回っている。


化合物 / LED

 LEDはどしゃ降りの状況。6社のうち3社が15年に入ってからずっと前年同月実績を下回っており、その下落幅もきわめて大きい。Formosa EpitaxyやTSMC SSLといった同業を買収した最大手のEpistarですら、6月の業績は前年同月比32%減と不振だ。台湾LEDメーカーは、どちらかと言えば照明用よりも液晶バックライト用に強いが、パソコンやテレビなど液晶パネル搭載製品の販売不振を象徴しているのだろうか。

 一方、GaAs ICのエピウエハーやファンドリーを手がけるWin SemiconductorとVPECは好調を維持。いずれも前年同月比で2桁増を維持している。もっとも、この2社は14年上期の業績が不振だった。一時的にCMOSパワーアンプ(PA)が脚光を浴びたこともあってか、Winは14年上期の売上高が前年同期比32%減、営業利益が同44%減ときわめて悪く、下期に一気に巻き返したため、15年上期は対前年で増収ペースを維持しやすいのかもしれない。とはいえ、スマホ用のGaAsスイッチICやGaAs PAが堅調なことに加え、最近では5GHz帯だけを用いるIEEE 802.11acが世界的に普及してきたことも、化合物半導体ICの需要を支えているようだ。


FPD

 1月は4社ともに前年同月実績を上回ったが、旧正月が明けると失速。4月以降は4社すべてが前年同月実績を割り込んでいる。14年はパネル価格がきわめて安定的に推移したが、ここにきてパネル価格がずっと緩やかに下落していることに加え、セットメーカーにおけるパネル在庫の過剰感、さらに、年初予測を下回る液晶テレビやパソコンといったFPD搭載製品の下ぶれがボディブローのように効いてきているようだ。年末にかけて中国で大型パネル工場・ラインの新設稼働が相次ぐため、16年には供給過剰感がさらに強まると目されており、多くのメーカーが再び赤字に転じると見る識者もいる。頼みの4Kテレビが思うように売れず、スマホの買い替え需要も鈍化するとなると、他のデバイスよりも早く冬に突入しそうだ。


PWB

 プリント配線板は、メーカーごとに得意とする分野やアプリが異なるため、一概に好不調を判断しづらい。主要8社のなかではCompeqが絶好調。Appleのスマホ向けHDI基板のサプライヤーといわれており、15年に入ってからも前年同月比2桁増が続いている。車載用に強いChin-Poonも堅調で、プラス基調を維持している。一方で、パソコン系が主力とされるHannstar Boardは不振。妙に共通しているのは、5月に対して6月は全社が上向きな点だ。


 日本企業は確かに、ここ1年強のあいだ、円高ドル安の恩恵を受けてきたが、「米国経済だけが堅調」「Appleだけが勝ち組」という流れが、徐々にデバイス市場全体を締め付けにかかっているような気がしてならない。日本のセットメーカーからも、世界をあっと驚かせるようなセット製品が登場することを、引き続き期待したい。

 「不況」という言葉を用いるには早すぎるが、15年は14年のような成長を望むのが難しく、デバイスによっては前年割れを覚悟する必要がありそうだ。これから4~6月期の決算発表が相次ぐ。そこで各社の経営陣が何を語るのか、注意深く耳を傾けたい。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村明宏

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