宇宙向け半導体の市場拡大が続いている。宇宙用途のデバイスは、政府機関や伝統的な航空宇宙産業主導の超高信頼製品を要するオールドスペース向けと、スペースXのような新興企業や大手IT企業など民間主導のニュースペース向けで大きく分かれており、ニュースペースの台頭が市場の拡大を後押ししている。
ニュースペースによる宇宙産業が加速
ニュースペースの動きで目立つのが、宇宙データセンター(DC)の建設だ。米国のビッグテックではスペースXやGoogleが、スタートアップではStarcloudが宇宙DCの建設を計画している。スペースXの宇宙DCは、太陽光発電を用いて稼働するDCを低軌道上に大量に打ち上げるもので、AI DCの課題である電力を宇宙空間の強力な太陽光でまかなうことでコストを低減する。そのほか、国内では宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「宇宙戦略基金」に(株)SpaceBlastが採択された。軌道上DCの構築を進める。
ニュースペースでは、高度な試験をクリアした地上用の半導体や電子部品と宇宙用半導体を組み合わせて使用する動きが主流となっている。こういった製品群を加えて試算すると、半導体市場の成長規模と同様の形で宇宙用高信頼性部品の市場も少しずつ拡大していると考えられている。例えばSpaceBlastは、宇宙の厳しい環境に対し民生品を宇宙に転用することで高性能・高効率なコンピューターを開発する方針を示している。
関連して、スペースXは同社が建設予定の先端半導体工場「Terafab」で宇宙DC向けのAI半導体「D3」の製造も予定しており、最終的には8割程度が宇宙用になるとの見方を示している。
Starcloudの創設メンバー。左から最高技術責任者Ezra Feilden氏、最高経営責任者Philip Johnston氏、チーフエンジニアのAdi Oltean氏
そのほか、宇宙空間を利用した開発も進む。(株)レゾナックは、国際宇宙ステーション(ISS)で半導体封止材の評価実験を行うと発表しているほか、(株)BEAM Technologiesが2030年前後を目標に国際宇宙ステーション「きぼう」の後継機「日本モジュール」で化合物半導体の製造を目指している。また、宇宙・防衛関連技術を展開するイージスエアロスペース(米テキサス州)は、半導体基板を製造するユナイテッドセミコンダクターズと共同で低軌道衛星を用いた先端材料製造プラットフォーム「AMMP」を立ち上げ、宇宙空間での半導体生産に取り組むことを明らかにしている。
JAXAの研究開発も協業を実施
一方、オールドスペースの取り組みにも注目したい。基本的に宇宙で使用される半導体は、高信頼性かつ過酷な温度変化、機械振動による耐衝撃性、真空状態や宇宙放射線などといった特殊な環境に耐えられる仕様が必要となる。また、人工衛星では、地球上との通信や衛星の制御を担うため、高い信頼性と故障率が極めて低い半導体チップが必要とされる。
そのなかで、国のプロジェクトとしてJAXAらが開発するオールドスペース用途のミッションでは、低軌道かつ短期間のほか、高軌道かつミッション期間も数十カ月に及ぶ場合もある。そのためJAXAでは特に、計算機(演算能力、集積回路)および電力制御(パワーデバイス)に注力した開発を推進しており、これらの技術を有する地上の半導体メーカーとの共同開発にも取り組んでいる。
また、大電力化に対しては材料開発も進む。人工衛星においても大電力化が進んでおり、高耐圧な材料のニーズが高まっているという。そこで現在主流のSiから、より宇宙放射線に強い素材として、ワイドバンドギャップ半導体であるGaNやダイヤモンド半導体などの開発も推進されている。しかし一方で、これらの材料はデバイス化の際に課題が残り、技術開発の進展が必要となる。そのなかでJAXAは、(株)Power Diamond Systemsや佐賀大学らと共同研究を実施している。
そのほか企業との共同開発は積極的に進められており、車載や原子力発電、医療機器といった地上用途のデバイスの応用に向けた取り組みが進んでいる。JAXAが開発したデバイスの試作や製造について協力を要請する事例もあるそうだ。
オールドスペースでも民生デバイスの応用が進展
地上で使用されるデバイスは、高機能、高密度、小型軽量、低消費電力などの様々なニーズに対応した最新技術が搭載されている一方、宇宙用部品は使用する数量が少なく、環境や品質面、信頼性などの面で要求が厳しいため供給が衰退しているという現状がある。また、宇宙機器についてもAI機能やセキュリティー機能といった地上同等のニーズが出てきており、民生部品の宇宙転用は必須となってきている。
民生半導体技術をベースに開発されてきた宇宙用半導体部品は、開発期間などにより最新の民生半導体部品に対して2~3世代前の技術が採用されている。そのため、民生部品を宇宙転用として使いこなすことが重要となっており、地上で放射線耐性および信頼性の評価を十分に行った民生半導体部品を採用している。具体的には、宇宙転用可能な部品は、①高信頼性部品(海底ケーブル用部品、原子力用部品、航空機用部品、耐放射線性PEM部品など)、②自動車用部品(パワートレイン、ブレーキ、エアバッグなど(安全性に直接関与する))、③産業用部品(工場機器、インフラ用など)など。
実際に、現在はH3ロケットやイプシロンSロケットの電子機器には宇宙転用民生部品が採用されていて、フライトの実績を積み重ねている。
H3ロケットは、JAXAと三菱重工業が共同開発したロケットで、衛星システムなどの宇宙への輸送手段に用いられる。地球低軌道から地球脱出軌道まで、様々な軌道に向けて色々な大きさや重さの衛星を打ち上げることができる点が特徴だ。また、最大の特徴が、車載部品などを応用して生産できることで、実際に電子機器(アビオニクス)の部品の多くを自動車用や航空機用の民生部品に置き換えている。そして受注生産でなく一般のラインの生産に近づけて行っており、これにより打ち上げ費用の大幅な低減や設計の自由度向上などを実現している。
アビオニクスにはセンサーや計算機、通信機器などが含まれ、従来、直接ケーブルで機器の接続や伝送を行っていたが、H3ロケットでは各機器をネットワーク接続し、基本的にケーブル1本で接続されている。また、日本航空電子が開発した「慣性センサユニット」は、ロケットの誘導制御に必要な各種信号を出力する役割を持ち、駆動電気回路と一体化することでリングレーザージャイロを小型、軽量化している。さらに、センサー構成を1パッケージ化して工夫することで大幅な信頼性向上とコストダウンを実現した。
H3ロケットのシステムやエンジン回りは三菱重工業(株)が、センサー関連は日本航空電子工業(株)、ソフトウエア関連は三菱電機ソフトウエア(株)、ターボポンプはIHI(株)がキー技術の開発を担っている。
官民それぞれの立場から開発が加速化することで、宇宙産業向けの半導体や電子部品産業にもさらなる市場拡大が見込めると期待している。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 日下千穂