電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第102回

環境に優しい生体分解の電子回路の時代がやってきた


~体の中で溶けてしまうことは驚き、原料は砂糖きび、芋など多彩~

2015/6/26

 「折り曲げられるフレキシブルプリント回路は、今やスマートフォンの世界で大活躍している。何しろ半導体や電子部品などを実装する面積は非常に限られており、薄くて折り曲げられる電子回路基板がどうしても必要になる。このおかげで我が社の製品は、爆発的に伸びている。しかして問題は、現状のフレキシブルプリント回路の材料はほとんどがプラスチックであり、環境に優しくない」

 こう語るのは、日本メクトロンにあって執行役員を務める松本博文氏である。日本メクトロンは電子回路基板で世界チャンピオンの座にあり、3000億円の売り上げを誇っている。ちなみに、これを追いかけているのが韓国のYoung Poong Groupであり、台湾のUnimicron
も3位につけている。

性能抜群のSNF

日本メクトロン 執行役員 松本博文氏
日本メクトロン 執行役員 松本博文氏
 松本氏の言うことは誠にもっともだ。フレキシブルプリント回路の原材料は、石油から作るポリイミド、PEN、PET、LCPなどのプラスチックであり、生分解しにくい。つまりは、土の中に埋めても、そのまま残ってしまう。そこでメクトロンが大阪大学の能木研と共同開発したセルロースナノファイバー(SNF)が登場することになる。これは15nm径という超微細な原材料であり、麦わら、砂糖きび、芋、わかめ、麻などを原材料にし、そこから抽出した成分をフィルム化するということだ。もちろん、木材も使えるわけであり、原料は多彩で、しかも低価格が望めるのだ。

 「SNFは一種の透明な紙状のものであるが、これまでの概念をすべて変えてしまう。熱伝導率はPETの約5倍、吸収率も低く界面親和性も高い。また強度についてはアラミドとほぼ同じであり、要するに防弾チョッキ並みに強い。しかも熱分解温度は280℃であり、高耐熱性も持つ」(松本氏)

すでにサンプルデバイスも

 このSNFを使った体内溶解型のフレキシブルプリント回路も、すでに実験では出来上がっている。イリノイ大学のジョン・ロジャース教授が作った「体内溶解FPC」は、このSNFの基板の上に絹とマグネシウムを乗っけてLEDを光らせる。目的は、抗生物質でも死なない細菌をLEDの熱で殺す、ということになる。つまりは、体の中にこのFPCを入れて、細菌を殺した後に治療後は体内で生分解して無くなってしまう。まるでSF世界のようなことであるが、もはや実現可能なのだ。

 「このSNFを使ったフィルム上にインクジェットやスクリーン印刷で配線を形成すれば、どんなものでも乗っけられる。生体で分解するのであるから、まさに環境に優しく害もない。すべては使い捨てにできる。フレキシブルプリント回路を内蔵するカプセルを体内に埋め込む日も近づいてきた」(松本氏)

期待は社会インフラ市場

 ちなみに、スマートフォンが20億台を超えてくれば大型IT製品はほかに見当たらず、電子デバイスの受難の時代が来るともいわれている。スマートフォンに使われている電子部品のうち1兆円は何とフレキシブルプリント回路なのである。しかして、スマホの賞味期限が近づいている以上、自動車向けの用途開拓などを急がなければならない、と松本氏は強調する。

 確かに自動車も有力市場ではあるが、フレキシブルプリント回路の将来を大きく担うのは、やはりソーシャルデバイスという社会インフラに使われるものなのだ。IoTやM2Mの世界では、モノとモノが接続される数は500億を超えるといわれている。フレキシブル回路もこうした接続のセンサーとしてフル活用されていくだろう。そしてまた、いくつかの製品は環境に優しい生体分解の材料を使用していくことになるのだ。

電子デバイス産業新聞 特別編集委員 泉谷渉

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