電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第101回

サムスンの新工場は政権への「配慮」か


2015/6/19

 サムスン電子は、ソウルから車で1時間余りの平澤(ピョンテク)市に「サムスン半導体クラスター(集積地)」を建設する。同社にとって単一の半導体生産ラインとして最高額となる15兆6000億ウォン(約1兆7330億円)を投じる方針で、業界最大規模の先端製造拠点を目指す。

41兆ウォンの経済効果を期待

 2017年をめどに、サッカー場400個分に相当する広さ289万m²の敷地内に、第1弾の生産ラインが完成する予定だ。製造装置や材料メーカーなど周辺産業への恩恵も大きい。インフラ整備なども合わせると、クラスター全体での投資金額は総額100兆ウォン(約11兆1100億円)に達するとの予測もある。

平澤工場の起工式には朴大統領も出席した
平澤工場の起工式には朴大統領も出席した
 2015年5月7日の起工式に駆けつけた朴槿恵(パク・クネ)大統領は「サムスン電子は半導体メモリートップの座に安住せず、競争力のさらなる強化に向けて投資する企業家精神を示してくれた。クラスターが、名実ともに半導体生産の中心基地に育つことを期待する」とエールを送った。


 しかし、今回の投資は、国内投資を促す朴政権の「経済革新3カ年計画」に盛り込まれた地域活性化策に合わせ、当初計画を1年以上前倒しして実行された経緯がある。政権にすり寄る姿勢が透けて見えるため、「ビジネス的な判断が欠けている」との指摘もある。韓国政府とサムスン電子はクラスターの新設により41兆ウォン(約4兆5500億円)規模の経済効果と15万人の雇用創出効果を期待するが、額面どおりの効果を生み出すことはできるだろうか。

IoT向け非メモリーも生産

 平澤工場は、サムスン電子のICT研究センターとディスプレー生産団地のある天安・湯井地域を軸に、韓国首都圏と忠清圏をつなぐビッグICTバレーの要となる。
 同社は、平澤工場に、最先端のDRAM生産のほか、次世代のモノのインターネット(IoT)市場が先取りできるシステム半導体(非メモリー半導体)ラインも構築する計画だ。いまやIoT向け半導体市場では、熾烈な主導権争いが展開されている。

 世界半導体業界2位にランクするサムスン電子は、14年8月、IoTソリューション専業メーカーの米スマートシングス社を買収し、15年に入ってからはIoT市場を狙った「ARTIK」という新しい半導体モジュールを米国市場で公開した。



 また、世界半導体業界トップのインテルは、15年6月2日(米現地時間)、サムスン電子をさらに突き放し、IoT市場を先占するための巨額投資を発表した。インテルは半導体チップメーカーのアルテラ社を167億ドル(約2兆540億円)で買収する。47年のインテルの歴史上、最高額のM&Aである。

 他方、サムスン電子はDRAMの場合、現状では20nm級プロセスに素早く転換しつつ、17年以降には10nm級の製造プロセスに移行する可能性が高い。また、非メモリーの場合、16年末から10nm級(FinFET工程)を量産する計画であり、17年にはそれより進んだプロセスの導入を検討するとみられる。

半導体エコシステムも成長できるか

 今回、サムスン電子の投資発表によって平澤を舞台として、韓国半導体関連企業は世界的な装置・材料メーカーに飛躍できるチャンスを模索しようとしている。半導体生産における前方、つまりチップ産業だけでなく、装置・材料といった後方産業を網羅する半導体生態系(エコシステム)もサムスンとともに成長が可能と期待されている。京畿道器興(キフン)と華城(ファスン)団地と連係したサムスン電子の半導体協力会社の活動エリアが平澤まで広がり、新しい事業拡大につながると見込まれるためだ。インフラを含めた投資総額が100兆ウォンに迫るのではという、少々ポジティブすぎる予測は、それだけ期待値が大きいとの裏返しでもあるのだ。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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