電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第99回

「CES Asia 2015」が上海で開催


世界最大のエレクトロニクスショーが中国で初開催

2015/6/5

 毎年、年初に次世代の革新的な新技術や新製品が発表されるエレクトロニクスショー「International CES」が米ラスベガスで開催されている。今年(2015年)は、IoT(モノのインターネット)技術や4K・8Kテレビ、新型スマートフォン(スマホ)、スマートカーの自動走行技術、各種センシングデバイスなどがテンコ盛りで展示された。世界中から3500社が出展し、15万人が見学にやって来るという文字どおりの世界最大のエレクトロニクスショーだ。「CES」を主催する米コンシューマー・エレクトロニクス協会(CEA)は、今後は中国のコンシューマー(消費者向け)エレクトロニクス市場や中国メーカーのハイテク技術シフトが加速的に発展すると見ており、5月25~27日に上海市で中国初開催となる「CES Asia 2015」を中国で初めて開催した。

巨大市場と潜在市場の狭間の中国

 米国の消費者向けエレクトロニクス製品の市場は2080億ドル(約25.6兆円)の規模があり、世界最大のマーケットだ。その一方、中国は1544億ドル(約19兆円)で、米国市場の75%ほどの規模に急拡大している。しかしながら、人口1人あたりでみると、米中間には6倍弱の開きがある。中国市場はまだまだとみるか、今後のマーケットとしての潜在力が大きいとみるかは、人によって意見が分かれるところだろう。

「CES Asia」の初回開催は小さめの規模でスタートした
「CES Asia」の初回開催は
小さめの規模でスタートした
 先日開催された「CES Asia 2015」を見学した時も、この中国の二面性を垣間見た気がした。「大国化しつつある巨大市場」という見方がある一方で、現実は「独自のイノベーション技術は未成熟」というアンバランスな存在だ。「あのCESが上海で開催された」と期待して見に行ったが、中国企業の次世代技術の展示が全然パッとしなくて、ガッカリの結果に終わってしまった。展示スペースも1館と半分くらいしかなく、「第1回というよりは、予行演習という感じ」(展示会を見学に来た中国企業マーケティング担当)で、とりあえず中国を代表するコンシューマー・エレクトロニクス分野の展示会として、CEAが中国での開催に唾をつけておいたというような印象だった。

米IoT企業が目玉展示を中国へ

エンジン音もなく、ハンドルも握らないベンツの「F015ラグジュアリー・イン・モーション」
エンジン音もなく、ハンドルも握らないベンツの「F015ラグジュアリー・イン・モーション」
 「CES Asia 2015」は、スマートカーやウエアラブル端末、スマートホーム、各種センサーや、3D印刷機、ロボットなどの今年の人気キーワードを押さえた展示内容を一応は網羅していた。しかし、人だかりができていた目玉の展示はどれも、インテルやIBM、マイクロソフト、フォードなどの米系企業ばかりだった。本場のラスベガスの「CES」で1月に発表された独メルセデス・ベンツの「コネクテッド・カー」(車にネット機能を搭載)も上海の展示会に登場した。「F015ラグジュアリー・イン・モーション」というコンセプトカーは車内シートが4席対向で設置されていて、今まで見たことのない近未来カーのようで話題を呼んだ。インテルは、IoT対応機器の開発を簡単にするAtom搭載の超小型コンピューター「Edison」を展示した。しかし、欧米企業の展示はいずれも以前に発表済みのものばかりで、世界で初めて新技術がお披露目されるインパクトはなかった。

中国企業展示(1)「ドローンや電動立ち乗り二輪車」

中国のドローンメーカーば倍々ゲームで売り上げを拡大している
中国のドローンメーカーは
倍々ゲームで売り上げを拡大している
 中国企業の展示では、ドローン(小型無人飛行機)と電動立ち乗り二輪車の展示が目立った。ドローン製造のユニーク(Yuneec、翔昇電子技術、香港)は、4Kカメラ搭載対応ドローン「TYPHOON Q500」の実機を展示した。会場内で実際にラジコン操作でドローンを飛行させるデモンストレーションを披露した。ワルケラ(Walkera、華科尓科技、広東省広州市)も多数のドローン(「VOYGER3」や「QR X350PRO」、「Scout X4」)を展示した。ワルケラのドローンの販売価格帯は3999~13599元(約7.9万~26.9万円)。今春、日本の首相官邸で発見されたドローンも中国製だったのは記憶に新しい。実に世界の60%以上のドローンが中国で生産されているといわれ、ドローン製造で中国は世界の先端を進んでいる。

ナインボットは、米企業買収で商圏と特許を取り組む
ナインボットは、米企業買収で
商圏と特許を取り組む
 米セグウェイを10億ドル(約1230億円)で買収したナインボット(納恩博科技、北京市)は、電動立ち乗り二輪車を展示した。中国スマホメーカーのシャオミーから8000万ドル(98.4億円)の出資を受け入れたことでも最近特に話題になっている。ファストホイール(快輪智能科技、FASTWHEEL、南京市)は電動立ち乗り一輪車(重さ6kg)を展示し、見学者向けに体験走行コーナーを設けた。ファストホイールは14年設立のベンチャーで、14年8月にベンチャーキャピタルから数百万元(数千億円)の投資を受けて事業を拡大している。

中国企業展示(2)「スマート家具、ウエアラブル端末」

指紋認証、4桁パスワード、スマホ連動により開閉可能なオービーボのドアノブ
指紋認証、4桁パスワード、スマホ連動により
開閉可能なオービーボのドアノブ
 スマート家具では、オービーボ(ORVIBO、欧博電子、広東省深セン市)が指紋認証機能付きのドアノブやWi-Fi対応コンセント、Wi-Fi対応ガス漏れ検知器を展示した。指紋認証機能付きドアノブは14年からすでに販売している。ただし、一般向け販売はせず、内装などの施工業者にB2B販売している。スマホからWi-Fiでスイッチのオン・オフやタイマー設定が可能な後付け式のコンセントも販売している。「アップルがiPhoneのiOSの次期規格でホームキットというスマートホーム対応を今年中ごろから導入してくる。これをきっかけにスマート家具への関心が高まる」とオービーボの開発マネージャーはみている。CEI(長恩実業、深セン市)もスマホのパスワード機能でドアを開閉するドアノブを展示した。

コンシューマーだけでなく、産業用途にも期待されるアルトテックのスマートグラス
コンシューマーだけでなく、産業用途にも
期待されるアルトテックのスマートグラス
 ウエアラブル端末ではアルトテック(AltoTech、北京市)がスマートグラスを発表した。グーグルグラスと同じような外観と機能で、15年夏に製品を上市する。カメラや映像撮影や音声メッセージ、GPSによるナビゲーション機能などを搭載する。同社は米シリコンバレーにも開発拠点がある。ガーミン(GARMIN、佳明航電、上海市)は曲面OLED(単色発光)搭載のスマートブレスレットを展示した。GPS機能と連動して移動距離や消費カロリー計算、睡眠状態などのライフデータをスマホに記録させることができる。

中国企業展示(3)スマホ用AP、裸眼3Dフィルム

上海を代表するスマホ用AP・BBファブレスのスプレッドトラム
上海を代表するスマホ用
AP・BBファブレスのスプレッドトラム
 デバイス分野では、スマホ用アプリケーションプロセッサー(AP)の中国大手ファブレスのスプレッドトラム(Spreadtrum、展訊通信、上海市)が4コアAPの「SC9830」を展示した。「SC9830」は28nmノードのHPMプロセスで製造されている。中国レノボ(聯想)のスマホ「Angus」やクールパッド(酷派)の「8105」などのLTE(4G)通信対応スマホに採用されている。

 化学フィルム大手のKDX(康得新複合材料、北京市)は、江蘇省張家港市の工場で開発している裸眼3Dパネル用フィルムを展示した。FHD解像度に対応したスマホやタブレット端末などに裸眼3Dパネルを搭載したデモ機を公開した。KDXはITO(透明伝導性フィルム)などの開発に参入してきた電子フィルム部材のニューフェースだ。


 今回の中国企業の展示がそのまま中国のエレクトロニクス企業の実力を反映しているわけではもちろんないが、業界の未来を見通す新技術の提案があったとは言い難い。「CES Asia」展示会も中国のエレクトロニクス企業のハイテク技術の発展もまだ序の口ということだろう。これから進撃が始まるという期待だけは十分に感じることができたのは儲け物だった。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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