電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第91回

電子部品、国内リーディング産業の座に


~躍進のアジア勢と競う日本陣営の力量~

2015/4/10

 誰がこんな時代の到来を予測できたであろうか。エレクトロニクス分野において、世界のリーディング産業は、今も半導体である。しかし、日本国内に目を向けると、2012年度を境に、電子部品業界が国内リーディング産業の座に着いた。

 世界の電子部品市場21.5兆円のうち、約38%のシェアを握る日本陣営。しかし、安穏とはしていられない。中国系・台湾系EMS(受託生産サービス)がセット機器の市場を制し、電子部品メーカーも中国系・台湾系・韓国系が追随、シェアを伸ばしつつある。セット市場の変化とアジア部品メーカー躍進の狭間で、国内リーディング産業の座に着いた電子部品陣営の力量が問われようとしている。

2012年度に電子部品業界が躍り出る

 国内電子部品メーカー大手10社の売上高合計と、国内半導体メーカー大手11社の売上高合計を年度ごとに比較すると、その差は縮小傾向にあった。2009年度は半導体優位で8554億円の差、10年度は同じく7185億円の差、それが11年度は3873億円まで縮まり、12年度においてついに形勢は逆転。電子部品業界が968億円の差をつけて、エレクトロニクス分野における国内リーディング産業の座に着いた。

 しかも、それは一時的なものではなく、翌13年度にその格差は1173億円へと膨れ上がり、14年度計画では1440億円にまで広がる見込みである。当社発刊の『半導体産業計画総覧2014-2015』によれば、13年度国内半導体メーカー31社の売上高合計は4兆4313億円。31社の総力をもってしても、国内電子部品メーカー大手10社の売上高合計(4兆3301億円)と、ほぼ肩を並べるに過ぎないことになる。

 国内電子部品業界全体の実力は、電子情報技術産業協会の調べでは、13年度実績が7.5兆円、14年度は8.2兆円の見込み。15年度は8.5兆円規模に挑むことになる。実に、国内半導体業界のざっくり2倍近いマーケットを有しており、国内電子デバイス業界のリーディング産業は、名実ともに、電子部品業界が握ったと明言しても過言ではない。




日本半導体メーカーの再挑戦に期待

 かつて日本においては、総合電機メーカーの一事業部であった半導体ビジネス。一事業部でありながら、不況時には、巨象のような総合電機メーカー全体を支えるだけの逞しさがあった。しかし、その成功体験が分社化の判断に戸惑いを見せたのも事実。また、大手企業の一事業部であったために、半導体特有のダイナミックな戦略を打てなかったのも事実である。「敵は競合他社ではなく役員会」と言い放った事業部長の一言に、業界体質のすべてが象徴されているように思う。

 おそらく2001年のITバブル崩壊で、日本半導体業界は土台を揺さぶられ、08年のリーマンショックがさらに追い打ちを掛けたと想像する。09年以降、円高を背景に海外企業の買収などに走ったが、結果的には、それが収益改善に貢献することはなかった。

 従来の企業体質とは袂を分かち、アプリ分野と生産デバイスに専門性を持つ、新生日本半導体業界の再度の復活に期待したい。

日本電子部品陣営はこれからが正念場

 一方の日本電子部品業界、その躍進のカギは、材料や製造装置の独自開発とともに、量産ライン全体をブラックボックス化したことである。国内外の競合他社へのノウハウ流出に、徹底的に歯止めを掛け続けた。

 また、生産体制の構築も有効に機能している。最先端品や高付加価値品は国内生産に特化。汎用品は電子機器メーカーの海外進出に歩調を合わせ、よりセットに近いところで量産を行う、グローバル生産体制を展開した。そして最大のポイントとなるのが、意思決定の迅速さである。次なる一手の素早い判断、これこそがアグレッシブな事業推進とタイトな戦略を遂行する要となる。

 ただ、安穏とはしていられない。電子機器のデジタル化や実装基板のプラットフォーム化に伴い、同分野への参入が容易になってきている。中国系、台湾系によるEMSの台頭だ。電子部品業界にとって、EMSが最大の顧客対象となる以上、電子機器の設計や生産、購買の権限は、市場的には中国系および台湾系が握ることになる。当然、これまでの日本の電子機器メーカーと違い、搭載部品の選択基準や要求の度合いも、中国系・台湾系の尺度や思想に依存することになる。

 世界の電子部品市場21.5兆円のうち、日本陣営は約38%のシェアを握る。しかし、中国系・台湾系EMSの台頭により、中国系・台湾系の電子部品メーカーがシェアを伸ばし、日本陣営がじりじりと後退を余儀なくされているのも、また事実である。

 セット機器の生産環境の変化を背景に、日本電子部品業界は中国系・台湾系、さらには韓国系の部品メーカーとも競合しつつ、なおかつアジア勢EMSのニーズにも応える戦略を強いられることになる。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

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