商業施設新聞
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第504回

東急不動産(株) インフラ・インダストリー事業ユニット インダストリー事業本部 開発企画部 統括部長 小林雅裕氏


産業団地・創エネなど新機軸
IC直結物流施設など整備加速

2025/11/11

東急不動産(株) インフラ・インダストリー事業ユニット インダストリー事業本部 開発企画部 統括部長 小林雅裕氏
 東急不動産(株)は、商業施設をはじめとする様々なアセットを開発してきた。インフラ・インダストリー事業では、物流や再生可能エネルギー(再エネ)などを手がけてきたが、新たな柱として産業まちづくり事業の推進を開始した。これにより、総合デベロッパーとして、より多角的な事業を展開するとともに、日本全国に新たな産業インフラを提供し、企業のサプライチェーンの強靭化をサポートする。同事業ユニットで、開発企画部を統括する小林雅裕氏に話を聞いた。

―― 事業の概要から。
 小林 当社は都市事業、住宅事業、ウェルネス事業があり、その中でもインフラ・インダストリー事業は最も新しいユニットで、再エネを扱う環境エネルギー事業本部と、産業不動産開発などを手がけるインダストリー事業本部からなる。

―― 再エネでは存在感を発揮しています。
 小林 国内再エネ事業者としては大手の一画を担っており、規模は全国で282事業、定格容量は約2.5GWに及ぶ(2025年6月末時点)。30年には太陽光、風力、バイオマス、水力、蓄電池などに領域を拡大する方針で、創エネに加え、売電も推進するために(株)リエネを設立した。さらには再エネ事業者のリニューアブル・ジャパン(株)もグループ化した。

―― 力を入れる背景は。
 小林 当社は電力を要するアセットを多数保有しており、物流施設は冷凍冷蔵倉庫が増加し、データセンター(DC)では安定した多くの電力が必要だ。このため創エネも行うが、リエネを通じて直接需要家へ売電が可能だ。今後は再エネ発電場の近くにDCなどの産業不動産を開発して、電力の地産地消も進めていく。

―― ご自身の役割は。
 小林 インダストリー事業本部・開発企画部を統括しており、土地を取得し建物を建て、営業統括部がテナントリーシング、運営を経て売却する流れとなる。主な分野として物流施設、産業団地開発、DC開発、食料事業開発を手がけ、主軸の物流施設「LOGI'Q」は、25年5月時点では全国で48件となった。JVによる物件もある。
 物流施設は地域によっては供給過剰にあり、リーシングに苦戦している施設もあると聞くが、当社は用地取得の検討、建物開発からリーシングの各種業務に専門部隊を設置することで、事業の確度を高めている。各種業務におけるスペシャリストが揃っていることが当社の強みだ。

―― 産業まちづくり事業は。
 小林 多彩な産業を集積させ、付加価値を創出したい。立地は高速道IC至近で、産業全体の自動化にもチャレンジし、我々の再エネ100%の電力を利用する事業とし、DX・GXに特化することで、次世代型の物流拠点とサービスを国内のサプライチェーンに提供したい。この事業の一環として、京都・城陽プロジェクトを立ち上げ、横浜・上瀬谷プロジェクトに共同事業者として参画した。いずれもIC直結の物流施設を開発している。同プロジェクトでは、高速道路の自動運転も目指す。

―― 産業まちづくり事業の今後の取り組みは。
サザン鳥栖クロスパークのイメージ
サザン鳥栖クロスパークのイメージ
 小林 物流、DC含めた産業用不動産全体で30年までに累計5800億円の投資を行う計画だ。佐賀県鳥栖市では約34haの産業団地「サザン鳥栖クロスパーク」を開発する。物流ゾーンのほかに約20haの工業団地を整備して様々なメーカーを誘致するとともに我々の再エネ電力を供給し、GX産業団地を創出していく。また、産業団地に近接する小郡鳥栖南スマートICは24年6月に供用開始しており、産業団地全体で自動運転トラックなどが利用できることを目指す。
 茨城県つくばみらい市の常磐道では、つくばみらいスマートICの開通に向けて工事が進められているが、IC直下の約60haを開発し、賑わい交流ゾーン、新産業ビジネスゾーン、次世代ロジゾーンを設定予定で、産業と商業の複合開発を検討している。スーパーなど商業事業者も複数興味を示してくれており、地域に貢献できる新たな街づくりを目指したい。
 将来的には横浜、九州、京都、茨城の各プロジェクトを自動運転でつなげることで、産業輸送の自動ネットワーク化を目指したい。

―― 食料事業開発は。
 小林 インフラを整備し農業を産業化し、食料自給率向上と食のコンテンツ化を目指すもので、第1弾として植物工場のテクノファームけいはんなを取得した。工場は日産3万株で、3tのレタスを毎日出荷する大規模高効率化した植物工場だ。完全閉鎖型のLEDによる水耕栽培で、我々の再エネ電力を供給している。
 もう1つは土地改良事業法を活用し、耕作放棄地を再生する。農地全体の3分の1を非農地化し、物流などの産業不動産を整備し、残り3分の2の農地を再生させる。埼玉県白岡市で約30haの農地のうち、約10haは当社が物流施設の開発を推進している。残り約20haについては農業法人サラダボウルとタッグを組み、通年採れる日本最大の業務用イチゴ栽培工場を整備する計画だ。
 さらに様々な果樹生産者と協業し、地域とも連携しながら大規模な観光農園を構想する。そこに当社が入ることで6次化してレストランの誘致など、農業を軸に観光や商業要素を掛け合わせる。ワイナリーと宿泊施設を組み合わせたアグリツーリズムが人気だが、当社には商業部門やホテルやリゾート部門もあるので食料事業はその領域と連携できる。

―― 最後に抱負を。
 小林 日本のインフラを支え社会課題を解決していきながら、行政、地権者・地域の方々、当社の三方良しの事業にしなければならない。産業領域は1社では解決できず、皆で一丸になって解決しないと日本の産業が強くならない。各産業がより強くなれるようにデベロッパーとして貢献していきたい。



(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2619号(2025年10月28日)(5面)

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