電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第85回

LIXILが提供する未来の住環境


~安心・安全・快適な家作りの研究が進む~

2015/2/27

 近未来の家が大きく変貌するかもしれない。外見は現在の住まいとそう変わらないが、そう遠くない時期に、安全・安心を提供したり、エネルギーをもっと効率的に利用したり、高齢者にもっと優しかったりする家が登場しそうだ。

 (株)LIXILグループ(東京都千代田区霞が関3-2-5、Tel.03-6273-3607)は、人やモノ、家が情報で結びついた「住生活の未来」を体感できる研究施設「U2-Home」(ユースクウェアホーム)を使って、将来の住まいのあり方を追いかけている。同社は総合住宅設備機器の最大手で、2011年にトステムやINAXなどが統合して誕生した。ホームセンター「ビバホーム」を展開する会社といったほうが分かりやすい人も多いはずだ。

IoTとの連携がポイントに

 その研究施設は、東武アーバンパークライン(野田線)の川間駅から徒歩数分の、閑静な住宅街の一角にある。研究施設とは思えない、ごく普通の2階建て住宅である。LIXILの研究者ら数名が毎日、屋外や屋内の温度や湿度をはじめ、風向き、照度、PM2.5、花粉・塵埃、紫外線、住生活者の移動などのデータ取りを行い、住生活者にとってより快適で健康に、安全に、そして楽しく生活できる家作りを日夜模索しているのだ。場合によっては泊まりがけでデータを取ることもあるという。

 この未来の住宅を実現するうえで、エレクトロニクス業界ではお馴染みのIoT(モノのインターネット)技術が不可欠となる。エネルギーの効率利用や住空間の快適性を提供する「スマートホーム」という呼び方も普及してきているが、その実現しようとしている住環境や実際の利用環境はなかなか理解しづらいものがある。しかし、着々とその未来の家のカタチが明らかになりつつある。

タブレットサイズのモニターにあらゆる情報が表示される
タブレットサイズのモニターに
あらゆる情報が表示される
 まだまだ実験段階の家作りだが、住宅内には大きな液晶ディスプレーが壁掛けになっており、あらゆる情報を表示することができる。また、玄関や浴槽、台所、トイレなどのいたるところにはタブレットクラスのディスプレーが埋め込まれ、人の来訪をはじめ、水や電気などの使用状況が把握できたり、異常事態を知らせる表示が瞬時に分かるようになっている。

 目の不自由な人や音が聞き取りにくい高齢者などに対してもしっかりと情報が伝達できる仕組みとして、音声や音、光、色などの組み合わせにより、的確に情報を伝達する手法やアイデアが取り入れられている。例えば、人の集まるリビングには有機ELのパネルも埋め込まれており、赤、青、黄色などの色による表示が可能だ。敷地内への不審者の侵入や、風呂場で気分が悪くなった場合など、屋内にいる人に対していち早く警告を発する時には、緊急事態として赤色表示を点滅させることで相手に気づかせる工夫をしてある。耳が聞こえない人でも一目瞭然というわけだ。また、音も併せて出すことで、目が不自由な人にも確実に事態を伝えることが可能になる。

エナジーハーベスティングも活躍

 さらに注目されるの点として住生活のゼロ・エネルギーを実現するため、エナジーハーベスティング技術などにも積極的に取り組んでおり、これにより省エネやCO2削減にも貢献していく。LIXILでは、「エンオーシャンアライアンス」と呼ばれるエナジーハーベスティングによる無線技術の国際的なコンソーシアムにも参画して、国内外の電子デバイスメーカーとの協業まで踏み込んでいるのだ。エナジーハーベスティング技術を利用したワイヤレスセンサー機器を使い、新たな価値やサービスにつなげたい考えだ。デバイスメーカーのロームや村田製作所と組んでいる。

 エナジーハーベスティングとは、モノが動く力や光、温度などから発電する技術で、電池レスでセンサーを駆動させることができる究極の省エネ技術である。現状では発電量が少量であるため、せいぜい信号の発信程度にしか利用は進んでいない。しかし、引き戸などの建材に埋め込んで、開け閉めの時の検知モジュールとして利用が始まっている。

 同技術は、ドイツのエンオーシャン社の専用ICを使い、中心周波数は315MHzで、928MHzまで対応可能だ。独自の圧電技術を使い、引き戸の動作で発電させる。戸の開閉状態を無線で送信し、見守りや部屋の温度管理などに利用しようというものだ。同検知モジュールは村田製作所が提供する。

 ほかにも村田製作所は、押した力で機器のオン・オフ情報を無線で送信する自己発電スイッチを開発。さらに、50lx(ルクス)程度の薄暗い低照度の明るさでも発電が可能な光発電デバイスも開発済みだ。樹脂基板を使い、薄型で軽量なデバイスに仕上げている。また、100℃以上の高温度差が可能な積層一体型熱電変換素子も提供する。温度差10℃で約100μWの発電を可能にした。

 ロームも天井や壁などにつけられる人感センサー(光発電)など様々なデバイスを提供する。導入例としては、開閉情報や着座情報などから、屋内の照明と連動させたり、部屋の隅々に配置されているタブレット画面などに音声を含めた表示が可能になるとしている。

 新たな住環境で電機・電子デバイス業界の果たす役割が従来以上に大きくなっていることは間違いない。ということは、大きな潜在的市場がそこにあるということなのだ。今後の新たな成長市場の発掘に期待したい。

未来の安全・安心の住まい

 また、安全・安心対応としては、「全周囲立体モニタシステム」(OMNIVIEW)を開発している。一連のシステムは富士通が提供する。住宅の四方の外壁に取り付けた4つのカメラから映像を合成して、真上から家の周囲360度が見渡せるようにしている。さらに、1方向のみならず、自由に視点を変えてリアルタイムでモニタリングできるのが特徴だ。将来的にはクラウドとの連携により、外出先からでも住宅周囲の状況を把握できるシステムにもつなげたい考えだ。

 例えば、外から侵入者や不審者が敷地内に入り込もうとした場合、敷地内に埋め込まれたセンサーなどと連動して、屋内にいる人に対してリアルタイムで警告を発するとともに、自動で雨戸を閉じたり、玄関の戸締りを遠隔操作できるのだ。将来的に警備保障会社などと組めば、自動的に警備員の派遣や連絡を可能にして、一人暮らしや高齢者が安心・安全な住環境の実現につながることも考えられる。

不審者の侵入などを素早く確認できる
不審者の侵入などを素早く確認できる

敷地内に埋め込まれた人感センサー
敷地内に埋め込まれた人感センサー

将来はコミュニケーションロボットとも連携して住環境の制御も可能に
将来はコミュニケーションロボットとも連携して
住環境の制御も可能に

 この「住生活の未来」を体感できる研究施設「U2-Home」(ユースクウェアホーム)は、2014年に初めて限定公開して以来、IoTやスマート社会における1つの家のイメージを確実に発信してきていると言える。前述のとおり、情報通信、電機、エネルギー、健康、介護、防犯といったあらゆるジャンルの企業、団体、専門家、大学・研究機関、海外を含めて大きな反響があったという。今後とも社内外の専門家などと共同開発を進めながら、さらに最新技術の導入をはじめ、スマートホームのイメージの共有を積極的に図りたいとしている。

 現段階では、何もそこまでしなくても、というアイデアやサービスが中にはあるが、まだまだ研究・開発段階であり、試行錯誤の中にあることは間違いない。その意味で同社では、幅広いジャンルや業種との共同開発を今後とも続けたいとしている。様々な可能性を追求すべく、同社では異業種の企業・研究機関などと連携を密にして、豊かで快適な住生活の未来を実現していく。

電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

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