かつてのSMAPの代表であり、好感度ナンバーワンと言われた中居正広氏にかかわる問題についてのフジテレビの10時間会見を観ていて、驚き、呆れ、失望するばかりであった。だいたいが中居氏は示談金(9000万円とも言われるが、そもそもこれが疑わしい)を支払って解決済みなのである。ところがどっこい、示談金を受け取った方からこのことをメディアにばらしてしまう、ということ自体がルール違反なのである。
それはともかく、こうした事実を隠匿し、公に出さず、小さなこととして片付けようとしたフジテレビの首脳陣がボコボコにされていった。一回の記者会見では飽き足らず、二回目では400人を超えるジャーナリストが集結し、10時間以上に及ぶ記録的な記者会見となった。
この会見は、大手メディアだけではなく、業界紙、専門誌、ユーチューバーなどが入り乱れてのとんでもない会見となったのだ。
筆者はこの様子を飽きもせず、じっと見ていたが、そのあまりの馬鹿馬鹿しさに開いた口がふさがらなかった。「ああ言えば、こう言う」「こう言えば、ああ言う」といった人の揚げ足を取る記者たちの姿には、インテリジェンスの欠片さえ見ることが出来なかった。意味の無い怒号、大きなヤジ、そしてふざけた笑いがあるばかりの記者会見会場はそれこそ、空疎なものであったのだ。
だいたいがメディアの役割というのは政府や行政さらには民間の考えていることを正確に報道し、その意義と意味を解き明かすことにある。ただ、あの会見ではひたすらフジテレビを叩くことに集中し、それ以上の広がりは全くなかった。筆者はこの様子を見ていて、メディアの貧困さと日本人の民度の低さを考えざるを得なかった。
10時間に及ぶ記者会見をやるならば、日本の国家戦略である半導体産業の徹底強化についての特番を組むべきなのだ。NHKから民放に至るまで、日本の行くべき方向性の中に、半導体が重要な役割を果たすことをもっとわかりやすく解き明かし、有識者、評論家、学者、さらには一般の主婦、OL、サラリーマンに至るまでの人たちの意見を吸い上げ、それこそオピニオンリードしていくことが大切なのだ。
10時間に及ぶ記者会見をやるならば、日本の半導体産業の徹底強化についての特番を組むべき(写真:ラピダスの2nmウエハー)
時あたかも、石破茂首相は「半導体による国起こし」を提唱し、それを地方創生の柱とするという明確な戦略が出されている。AI・半導体に毎年10兆円という巨額を投入し、ニッポン半導体の復活を図るという壮大な政府の姿勢をなぜもっと報道しないのだ。
メディアも政治家も「103万円の壁」「高校授業費無償化」さらには「米価格の引き下げ」などにひたすら集中しての議論と報道に明け暮れている。
一流の政治家の責務というものは国難に遭った時に、国家百年の大計に立って明確な戦略を示すことにある。1920年代に勃発した世界大恐慌の時には、米国のルーズベルト大統領がニューディール政策を打ち出した。暗殺の銃弾に倒れたジョン・F・ケネディ氏もまた、これまでの政治を変えようとの意味で「ANYHOW LETS BEGIN」(とにかく始めよう)という呼びかけを全国民に示した。
何かと評判の悪いトランプ大統領ですら「強いアメリカの復活」をスローガンにしてぶっちぎりの勝利をもぎ取った。日本国民の民度が高いとよく言われるが、こと政治や行政に限ってはビジョンを示せないだけに二流であると言ってよいだろう。その国の政治が悪いのは、その国の国民の程度が低いことを意味するのは、古今東西共通していることなのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。