電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第586回

月面探査で活躍するロボット


25年は民間企業の挑戦も

2025/1/17

 2025年は、筆者が愛読している漫画『宇宙兄弟』の物語のはじまりの年である。主人公の南波六太が、弟で宇宙飛行士である南波日々人の計らいで宇宙飛行士選抜試験を受けた年にあたる。漫画の発売は08年、アニメが放送されたのは12年からで、筆者は当時アニメで宇宙兄弟を知った。そのころはずいぶんと未来の物語のように感じていたが、ついにその時代に追いついた。

 今回は、主人公の南波兄弟が目指した月面探査について24年の振り返りと25年の計画に触れ、月面着陸から探査に使用される様々なロボットについて紹介したい。

24年は日本の小型月着陸実証機(SLIM)が月面着陸

 24年は、1月にJAXA(宇宙航空研究開発機構)の小型月着陸実証機(SLIM)が月面着陸した。これまでの月面着陸の成果から、今後は特定地点の岩石の分析や日照時間が長い領域を狙って降りる技術が重要だとしており、SLIMは「ピンポイント着地の技術実証」を目指した。また、軽量な月惑星探査システムの実現により、月惑星探査の高頻度化に貢献するため「軽量な月惑星探査機システムの実現」を目的とした。SLIMの設計、製造、試験は三菱電機(株)が担当した。

 月ではGPSで位置を計測できないため、ピンポイントの着地には「画像航法」と「自律的な航法誘導制御」を用いる。航法誘導制御系も三菱電機が開発。航法誘導制御系は、カメラ、レーダーなどのセンサー類、計算機およびその搭載ソフトウエアによって構成される。これらを組み合わせることで、自律的に位置・姿勢を推定し、飛行軌道や姿勢を修正する。また、「航法誘導制御系」にはJAXAの開発した画像航法技術が実装されている。

SLIMのイメージ図
SLIMのイメージ図
 画像航法は、撮影した画像を処理してクレーターを抽出し、探査機が持つクレーターの地図を比較することで一致する場所を特定する仕組み。現状の宇宙用CPUは、地上用と比べておよそ1/100程度の能力しかないため、宇宙用FPGA上でも数秒の処理時間で済む専用の計算効率の高い画像処理アルゴリズムを開発した。

 また、メーンエンジンを含む推進システムの周辺には、着陸レーダー(計測範囲:20~4500m程度)とレーザー距離計(計測範囲:3~10m程度)のセンサーが配置されている。各センサーは異なる視野角を有している。着陸レーダーは半頂角が広く、付近に物体があった場合には検出されやすい仕組みになっている。

 着陸後、月上の岩石は、マルチバンド分光カメラで撮影を予定した。750~1650nmの波長帯を10バンド、10mの距離で0.13cm/ピクセルの高解像度で観測できる。月の岩石を撮影することで、月の起源の解明に貢献する。実際に、予定していた10バンド分光観測を順調に終えた。

マルチバンド分光カメラによる月面スキャン撮像モザイク画像
マルチバンド分光カメラによる月面スキャン撮像モザイク画像

 そのほかSLIMにはシャープ(株)の化合物薄膜太陽電池(PV)が搭載され、正常に稼働した。SLIMは逆立ち状態で着陸したため一時は発電が行えなかったものの、その後PVに太陽光が当たったことで発電に成功した。SLIMに搭載された化合物薄膜PVは、薄いフィルムでPVセルを封止した構造のため、軽量かつフレキシブルで高効率という特徴を有している。モジュールサイズは、縦297mm、横271mm厚さ0.25mmで、重量は約41g。出力は20.9Wで、合計26枚のモジュールが搭載された。

月面探査に変形ロボットが活躍

 SLIMには、月面探査ロボットLEV-1(Lunar Excursion Vehicle 1、超小型月面探査ローバー)とLEV-2(Lunar Excursion Vehicle 2、変形型月面ロボット)が搭載された。SLIMの着陸直前に分離され、月面探査を行った。2機のロボはそれぞれ2台の広角可視光カメラを搭載しており、自律的に移動し,SLIMの着陸状況や周囲を撮像して良質な画像を自動で選別してLEV-1から直接地球に送信した。

 LEV-1は月面を跳躍しながら移動探査した。シチズンマイクロ(株)製ブラシ付きモーターが搭載されており、跳躍移動における車輪の回転、跳躍用バネのトリガー駆動に貢献した。

 一方LEV-2は、分離カメラとして二輪走行を行った。JAXA、(株)タカラトミー、ソニーグループ(株)、同志社大学の4者で共同開発した。世界最小・最軽量の月面探査ロボットとなった。別名は「Sora-Q」。玩具、センサー、ロボットの技術とJAXAの宇宙技術を融合し、優れた自律運用と運動特性を備える。

変形型月面ロボット「SORA-Q(ソラキュー)」
変形型月面ロボット「SORA-Q(ソラキュー)」
 ソニーグループは、ロボットの自律移動、撮影やデータ伝送に関わる制御システムや画像処理技術の開発を主導した。ロボットの撮影や自律移動などの動作を制御するマイコンボードとして、ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)が展開するIoT向けスマートセンシングプロセッサー搭載ボード「SPRESENSE」をベースに、モジュールを新たに開発するようなかたちで搭載。画像を撮影したイメージセンサーには、SPRESENSEのカメラモジュールに内蔵されているSSS製の「ISX012」が活用された。

民間企業のispaceも再チャレンジ

 民間企業として月面着陸を目指す(株)ispaceは、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション2として、25年1月15日にRESILIENCEランダー(月着陸船)とTENACIOUSローバー(月面探査車)の打ち上げを計画している。本稿執筆時点では打ち上げの成否は分からないが、成功を強く期待している。月面に運ばれるマイクロローバーは、軽量かつロケットの打ち上げなどの振動に耐える頑丈性を実現するため、躯体にCFRP(炭素繊維複合材)を採用した。ローバー前方にはHDカメラが搭載されており、月面上での撮影ができる。

 同社は22年に民間月面探査プログラムHAKUTO-Rミッション1を実施。先述のSORA-Qとほぼ同じ変形型月面ロボットが搭載された。この時は残念ながら失敗したが、再度の挑戦に果敢に乗り出している。

25年は多くの打ち上げが計画

 25年は月面探査機以外にも多くの人工衛星や宇宙機の打ち上げが予定されている。日本(JAXA)では、測位衛星の「みちびき6号機」、国際宇宙ステーションへの物資補給を担っていた「こうのとり(HTV)」の後継機となる「HTV-X」など。そして以降にも様々な打ち上げが計画されており、取材先で紹介いただくバッテリーやエネルギー、センサーなど様々な技術も、今後搭載される可能性を秘めている。宇宙産業の発展に、半導体や電子部品の関わりは不可欠である。今後はより細かい部品についてもレポートできればと考えている。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 日下千穂

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