電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第609回

国内パワー半導体の業界再編の動きが一気加速する!


三菱電機、富士電機、東芝、ロームなどの各社が前向き検討

2024/12/20

 パワー半導体という分野は、SDGs革命の波に乗って上昇を続けるとの見方が強い。それは確かであろう。AIチップが急拡大する中で、データセンターの消費電力はどうにもこうにもならないほどに増加している。数年のうちには世界の消費電力の15%以上はデータセンターが使ってしまうというほどのワルモノなのである。

 そしてまた、SDGsの先頭に立つと言われている太陽光発電、風力発電などについては、どうあってもパワーコンディショナーが重要であり、ここにも多くのパワー半導体が使われるのである。EV、ハイブリッド車、燃料電池車などのエコカーについてもパワー半導体は重要であり、これに向けた各デバイスメーカーの設備投資も活発化している。

 ところが、である。かつて強かった国内のパワー半導体メーカーはここにきて、シェアが拡大していない。この分野の世界チャンピオンはドイツのインフィニオンであり、STマイクロ、オンセミなどの海外勢も非常に強い。国内パワー半導体メーカーは彼らの後塵を拝しているのだ。さらに加えて、中国のSiCパワーデバイス企業は一気に数十カ所の拠点を設け、設備投資をアクティブに実行している。中国が出てくることは価格ダウンにつながり、なおかつ政府の厚い補助金もあるだけに隠れたる脅威と見られている。

三菱電機 パワーデバイス製作所福岡地区の新工場棟完成イメージ
三菱電機 パワーデバイス製作所福岡地区の新工場棟完成イメージ
 こうした状況下で、国内のパワー半導体メーカーは業界再編を打ち出しはじめている。その先頭に立つのは三菱電機であり、乱立する日本勢がシェアで海外勢に大きく遅れを取る現状について、グローバル競争に勝つためには業界再編が必要だというのだ。国内トップの三菱電機ですら世界シェアは5.5%しかなく、ドイツのインフィニオンは22.8%、米国オンセミは11.2%と水をあけられている。現在、三菱電機は複数の会社と協議を進めており、事業提携またはM&Aを含めた会社の統合までも視野に入っているようだ。

 国内の二番手である富士電機もデンソーとの製造連携を打ち出し、事業総額は2116億円、東芝とロームも共同生産に乗り出し、こちらは事業総額3883億円。この背景には、日本政府が原則的には事業規模2000億円以上の投資でなければ、補助金を交付しないという制度を作ったことがある。手厚い補助金をもらうためには企業ごとの提携を進めなければならず、政府はこうした施策により多く林立している日本のパワー半導体メーカーに事業再編を進めてほしい、と言っているようなものだろう。

 パワー半導体の世界市場は現状で約4兆円程度とみられるが、ここ数年で10兆円以上の大きな市場になるとの予測が出てきている。そしてまた、SiCパワー半導体はいずれ5兆円を超えてくる成長市場ともいわれているのだ。SiCと300mmさらにはGaNなどのトレンドを意識しつつ、国内半導体メーカーは新たな成長を模索する時期に入ったといえるだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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