2024年も12月となり、1年を振り返る時期となった。24年も電子デバイス業界では様々なことが起こったが、確かなこととしては24年も23年に続いてAI関連の動きが活発だったといえる。企業では、23年にAI半導体関連で大きく伸びたエヌビディアが24年も止まることなく伸び続け、直近の24年8~10月期の業績も売上高が前年同期比94%増/前四半期比17%増の351億ドル、営業利益(GAAP基準)が同2.1倍/同17%増の219億ドルという驚異的な伸びを見せた。そしてエヌビディアは24年6月にマイクロソフトを抜き、時価総額世界1位にもなった。
エヌビディアは、現在進行している24年11月~25年1月期において、売上高は367.5億~382.5億ドル(中間値との比較では前年同期比で70%増、前四半期比7%増)を計画。仮に売上高が計画の中間値で着地した場合、エヌビディアの25会計年度(25年1月期)通期の売上高は前年度比約2.1倍の約1287億ドルとなる。同社の売り上げのなかには、ソフトウエアなど半導体以外のものも含まれているため、純粋な半導体メーカーとしてみるのは難しいが、それでも驚異的な数字であることは間違いない。ちなみに1ドル150円とした場合、1287億ドルは約19.3兆円となり、日本企業の23年度売上高ランキングに当てはめると、トヨタ自動車の約45.1兆円、ホンダの約20.4兆円、三菱商事の約19.6兆円に続く規模となる。
売上高の88%がデータセンター部門
図表が示すとおりエヌビディアの伸びは、データセンター部門の伸びと言っても良い。22年11月にChatGPTが発表され、生成AIに関する動きが活発化し、AIデータセンターへの投資が始まった。そしてエヌビディアの業績もChatGPTが発表されてから約半年が経過した23年5~7月期から急伸し、現在までその伸びが継続しているという状況だ。直近の24年8~10月期をみてもデータセンター部門の売上高は前年同期比2.1倍/前四半期比17%増の308億ドルと好調に推移し、全社売上高の約88%をデータセンター部門が占めた。
製品ではHopperアーキテクチャーを用いた「H200」の販売が大幅に増加。AWS、CoreWeave、マイクロソフト、グーグルクラウド、オラクルなど幅広い企業で採用されている。また、米中貿易摩擦の影響で輸出が制限されている中国のデータセンター向けの収益も、輸出規制に準拠したHopper製品を出荷したことで、24年8~10月期は24年5~7月期に比べて増加しており、そのほかインド市場などでも販売が拡大している。
Blackwellを使用したコンピューティングモジュール
24年11月~25年1月期についても、Hopperアーキテクチャー製品の継続的な需要に、新アーキテクチャーであるBlackwell製品の初期出荷分が加わることでさらなる拡大が見込まれている。エヌビディアは「依然として需要が供給を大幅に上回っている状態」としており、少なくとも25年前半までは勢いが続くとみられる。
エヌビディアの強みは強固なエコシステム
現在、AIデータセンターを運営する企業の多くが、サーバーの中核デバイスとしてエヌビディアの高性能GPUを活用しており、そのシェアは8割とも9割ともいわれる。その高シェアの理由について、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは「当社のGPUに対する需要が非常に高い理由は、価値が高いためであり、コストパフォーマンスはベストである。例えば、当社の製品を使用したAIデータセンターの投資額が10億ドルで、他のシステムで構築された同様のAIデータセンターの投資額が5億ドルだったとする。しかし、他のシステムで構築されたAIデータセンターにおいて学習に8週間かかるような作業を、当社製品を使用したAIデータセンターでは1週間で作業が完了する。また、推論を含めたアウトプットの面をみても、他のシステムが生み出す成果は7億5000万ドル~10億ドル分にとどまるが、当社製品を使用したAIデータセンターであれば50億ドル分の成果を生み出すことができる」と語る。
こうした「エヌビディア一強」の状況を崩そうと、半導体メーカーも「打倒エヌビディア」に向けた製品開発を進めており、実際、エヌビディアの製品に比べて消費電力が低いものや、計算能力が高いものも出てきている。しかし、クラウドサービスを展開する企業などからは「エヌビディア製品が中核となるトレンドは、少なくとも数年は続く」という声が聞かれる。その理由として挙がったのが、エヌビディアが07年から提供している「CUDA」(GPUをグラフィック処理以外の汎用の計算用途に使えるようにするための統合開発環境)である。
現在、生成AIのモデル作成において、深層学習モデルの「Transformer」や、フレームワークとして「PyTorch」などが活用されており、「TransformerやPyTorchは、CUDAと親和性が高い。そのためエヌビディアの製品であればAIモデルが確実に動作する」(国内クラウドサービス事業者)という。つまり、AIデータセンター/サーバーには、処理能力の高さや消費電力の低さといった要素以上に、生成AIモデル開発者が使いやすい計算基盤であることが求められ、「エヌビディア製品に比べて消費電力が低く、処理性能が高いAI半導体も出てきているが、CUDAをはじめとしたソフトウエアも含めた総合力ではエヌビディアが抜けている」(同)。そして、CUDAは提供開始から約17年経過しているため関連するツールも充実しており、CUDA関連のエンジニアも多く、結果、AIクラウド関連の事業者はエヌビディア製品を採用するというわけだ。
こうした状況はアップルユーザーの状況と似ている。iPhoneのユーザーの場合、ワイヤレスイヤホンはAirPodsとなり、クラウドサービスはiCloudを使用する。そして他のデバイスとの同期を考えて、パソコンはMacBookになり、タブレットPCはiPadを購入する。スマートウオッチはApple Watchのほぼ一択となり、iTunesやApple Musicも活用する。その結果、iPhoneを買い替えようと思ったとき、仮に他のスマートフォンのコストパフォーマンスが優れていても選択肢はiPhoneしかない状況となる。AIデータセンター・サーバーの領域ではエヌビディアがこうしたエコシステムを構築しており、このエコシステムを打破することは非常に難しい。そして、打破することが非常に難しいということは、25年もエヌビディアの牙城は崩れないということになりそうだ。
電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島 哲志