電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第578回

スタートアップ企業に熱視線


クルマ業界から電子デバイスまで新たな共創へ積極姿勢

2024/11/15

 ここ数カ月はリアル展示会ラッシュとなり、筆者もSensor Expo Japan2024、CEATEC2024/Japan Mobility Show Bizweek2024、2024国際航空宇宙展などあらゆる展示会イベントに参加させていただいた。各社個別の展示内容等は電子デバイス産業新聞紙面にて随時記事化紹介させていただいているため割愛するが、これらを通じ、これまでとは空気感が異なると筆者は強く感じた。それは新たなイノベーションを創出していこうとする熱気、日本でキラリと光る技術やアイデアを持つ大学やスタートアップ企業を発掘し、一緒に共創していこうとする熱視線である。

 また、これまでは一般人の目に触れる機会の少なかった航空宇宙分野の各種主要部品や最終製品が国内外各社からお披露目され、パートナー、コラボレーションに適する存在であることを各社がアピールしている気運を感じた。クラウド、AI、IoTの進化で、世界のあらゆる産業が目まぐるしいスピードで進化し続けており、1社だけでは立ち行かない時代に突入している。各社は長期的目線で、新たなイノベーションを巻き起こすべく、様々な取り組みに挑んでいる。

欧州ティア1がスタートアップ発掘へアクション

スタートアップの熱気に沸くイベント会場
スタートアップの熱気に沸くイベント会場
 日本自動車工業会が2024年10月に、CEATEC(電子情報技術産業協会(JEITA)主催)と併催形式で初開催した展示イベント「Japan Mobility Show Bizweek」にも少し足を運んでみた。同展示会は通常のJapan Mobility Showとは少し色合いが異なり、「未来を創る、仲間づくりの場」としてモビリティ関連企業と次世代を担うスタートアップ企業による、共創を生み出すためのビジネスイベントとして初開催されたこともあり、事業会社や日本自動車部品工業会会員、自工会会員の58社に加え、スタートアップ企業の参加数は145社(カーボンニュートラル:28社、サプライチェーン:19社、ものづくり:40社、トランスフォーメーション:58社)に上るというものだった。

 このスタートアップの熱気に沸く展示会に、欧州大手ティア1メーカーであるヴァレオ、ボッシュも出展していることが気になり、立ち寄ってみた。ヴァレオの展示ブースでは説明員から「今回の出展は、スタートアップとの協業の機会を探すことが最大の主眼」とのコメントを得た。同社ではすでに「オープンイノベーション」での取り組みを積極推進しており、日本でも2023年から筑波大学と自律ドロイドに関して共同研究を開始しているという。

 また、オープンイノベーションを行う専門チームとして、ジャパン・ビジネス・イノベーション・センターも設け、すでに複数プロジェクトが動き出しているようだ。また、海外事例として、トタルエナジーズとEV関連での液浸冷却ソリューション(誘電性液体)共同開発、ズータコアとはデータセンター向け冷却システムで提携するなど新たな協業事例も出てきている事案も聞かれた。

 ボッシュも「Win-Winパートナーシップ」「Open Bosch」の取り組みを紹介していた。スタートアップとの協業を可能にするもので、「新しい取り組みを進める際に1~2カ月など期限を設け、数百万円などOpen Bosch専用予算を確保して契約し、出口を一緒に探すというもの。ボッシュの名前やグローバルネットワークを利用して素早くソリューションの横展開も図れる」と説明員は説く。最初のPoC(Proof of Concept)をすばやく実施して、双方に実験と学びの機会が提供されることもポイントのようだ。スタートアップにとっては規模の展開も可能になるなどメリットは多い。

 このOpen Boschの取り組みを契機に、最終的に高精度地図マッピング生成技術に秀でた独アトラテックの買収に至るなどの事案も出てきているという。その他にも、ボッシュグループで開発中の音声センサーに7 sensing社の技術を使用してパフォーマンスを向上させてノイズ低減を実現し、複数の大手企業に採用された成功例などもあるようだ。日本での適用事例では、ボッシュ社内のお困りごとに対し、それを解決に導いてくれると判断した日系スタートアップ企業の適合製品・技術を発掘。ボッシュ自体が該当スタートアップ企業のクライアントとなり、課題解決に導くことが把握されたらどんどん活用・採用していく事例が主のもよう。AIを活用した要求仕様分析で(株)アルカイック、CO2消費の見える化でエイトス(株)、ペーパーレス/DXで(株)カミナシなどの事案が紹介されていた。

 さて、欧州ティア1のスタートアップへの積極的な取り組みを知り、改めて日系自動車メーカーに視線を向けてみると、早速11月初旬、トヨタ自動車が、エンジニアのスタートアップとして始まったジョビー・アビエーションの「空のモビリティーへの夢と情熱」に共鳴し、7年にわたる協業を経て、eVTOL(電動垂直離着陸機)が日本で初の試験フライトを行ったニュースが舞い込んできた。また、トヨタ自動車は2017年にトヨタベンチャーズ(米サンプランシスコ)を設立し、JETROの24年4月の報道によればすでに75以上のスタートアップへ投資してきた実績もあるようだ。資金面に加え、トヨタ自動車のグローバルネットワークや技術、協業などでの支援も行っており、今回のジョビー・アビエーションなどはその成功事例ともいえる。

 Honda(本田技研工業)は、2023年11月から新事業創出プログラム「IGNISION(イグニッション)」の参加対象を従来の従業員から新たに社外の個人・企業にも拡大しているようだ。同プログラムは高い志と熱い想いを持つ個人の独創的な技術・アイデア・デザインを形にし、社会課題の解決と新たな顧客の価値創造につなげることを目的としたもの。公募テーマは「カーボンニュートラル」「ロボティクス」「モビリティ」「生産・製造技術」の4つで、対象は企業を目指す個人かシードステージ以前の起業3年以内のスタートアップ企業とされている。

 日産自動車は24年2月に、革新的な技術やアイデアを持つスタートアップと大手企業との共創を支援するプラグアンドプレイジャパンとエコシステム・パートナーシップを締結。スタートアップとの協業やオープンイノベーションを通じた新規事業創出につなげたい意向の表れとみる。

電子デバイス各社も共創・協業へ布石

 翻って、半導体メーカーや電子部品メーカーはどうだろう、と調べてみると、同様の状況にあることがわかった。ルネサス エレクトロニクスは、エッジAIソリューションを得意とするスタートアップ企業のエッジコーティックス社(東京都中央区)と戦略的提携関係を結んだことを23年10月に公表している。ルネサスは同社に一部出資も行っている。この提携によりルネサスは、MCU、MPUの全ポートフォリオでAI/ML導入時のユーザーエクスペリエンス全体を統一し、効率化推進を図り、シームレスな開発環境提供が実現する。またルネサスは、22年7月に米リアリティーAIも買収し、AI専門人材や米メリーランド州のAIoT研究開発拠点も獲得するなど、AI分野でのスタートアップとの協業に意欲的だ。

 ロームは、スタートアップ企業を対象にしたコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)活動を21年7月から開始し、総額50億円の投資枠を新設している。同社は、スタートアップ企業が持つ柔軟な発想やテクノロジーへの投資により、社会課題の解決や10年先の成長の種となる新規事業創出を目指すとし、運用期間として10年間を予定しているもよう。半導体材料や半導体製造装置、半導体周辺技術や組込アルゴリズム、車載・産機などロームの注力市場関連の新製品・技術・サービスを提供するスタートアップ、環境ビジネス分野などを投資対象に見定めているようだ。

 電子部品メーカーでは、TDKが2019年に100%子会社のコーポレートベンチャーキャピタル「TDK Ventures」を設立。ウェルネス、次世代輸送システム、ロボット、産業、複合現実、より広いIoT市場などの分野におけるデジタルおよびエナジートランスフォーメーションの推進を目的に、有望な投資先企業に対して、技術的な専門知識や同社が事業展開するグローバル市場へのアクセスを提供し、共同投資とサポートを行っている。すでにヘルステック分野、産業分野、次世代素材分野、コンピューティング&コネクティビティ分野などで数々の実績が生まれている様子が伝わってくる。

 村田製作所もオープンイノベーションを展開しており、共創パートナーを募集中だ。協業パートナーとのアイデア創出・技術交流など外部との連携強化を図ることを目指し、横浜のみなとみらいにOpen Innovation関連施設として「みなとみらいイノベーションセンター」を設けるなど前向きな取り組みを続けている。村田製作所も同様に、実に多彩な実績が生み出されているようだ。太陽誘電は前述の日産自動車同様に、23年10月にプラグアンドプレイジャパンとエコシステム・パートナーシップを締結済みだ。

 また、ニデックは、夢を抱いて日々の研究開発に邁進する研究者・開発者を応援したいという思いを込めた「永守賞」を創設し、2015年から毎年授与し続けており、2024年で第10回を迎えている。ちなみに、創業者である永守重信氏は、京都先端科学大学を運営する学校法人永守学園の理事長も務めるなど、未来のものづくりを見据えた貢献活動でも知られる。

 筆者が2000年代はじめの頃にベンチャー企業取材に携わっていた頃は、「大手企業のブランド名がなければ日本国内では相手にもされない、資金援助もままならない」「まずは米国で一旗揚げるとやっと日本でも話を聞いてもらえる」などの本音が多く聞かれたことを覚えている。しかし時代は大きく変わり、今はむしろ皆が将来のイノベーションにつながる金の卵候補のスタートアップ企業(ベンチャー企業)を渇望しているのだ。これは日本にとっても久方ぶりに、元々はベンチャースピリッツから始まり、今や世界の舞台で勝負する、日本を代表する大手企業へ成長した前述の大手各社のような存在が、日本から生まれる可能性を秘めた好機でもある。

 日本は今後、現状の人口約1億2400万人から減少することは既定路線である。この事実は日本発世界で勝負することが必然になってくることを意味する。日本の大学やスタートアップにも国内外から期待が高まっている今こそ、我こそが世界の、未来の主役に成長していける切符を手にするチャンスだ。国内外の各企業とスタートアップ企業の相思相愛による共創狂想曲が世界を震撼させるイノベーションを生み出していくことを楽しみにしたい。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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