車載向け半導体は、現在の世界半導体市場(80兆~90兆円)のなかで10%程度を占めている。今後は、年率10%以上で伸びると見られており、現状は8兆円程度であるが、2030年には15兆円以上という規模にまで成長していくと予想されるのだ。
ちなみに、自動車1台あたりの半導体搭載金額は現状で7万~8万円程度であるが、エコカー(プラグインハイブリッド、EV、燃料電池車、水素エネルギーエンジン車)になれば搭載金額は2倍以上になると言われている。
そしてまた、自動走行運転になれば1台あたり20万円以上の半導体が採用されることになるだろう。この場合、半導体で一番焦点となるのがCMOSイメージセンサーであり、1台につき32個搭載すると言われているため、数十億個の需要が生まれる。この分野で世界トップシェアを持つソニーは、現在の世界シェア50%を60%以上に引き上げると言明しているのだ。さらに、AIを搭載するコネクテッドカーになれば、1台につき30万円以上の半導体が搭載されることは間違いないだろう。
自動車向け半導体の柱となるパワーデバイスは、現状で3兆円程度の小さなマーケットであるが、30年には10兆円を超えてくるという強気の見通しがある。しかしながら、ここにきて減速しているのは明らかだ。それは何といっても、期待を担っていたEVの伸びが鈍化しているためである。23年については、エコカーで最も伸びたのはハイブリッド車であり、前年比30%以上の高成長を記録した。ところが、EVについてはかなり厳しい。価格が高いことと充電インフラが整っていないからだ。
EVを声高に叫んでいたドイツ勢は方針を大きく変えている。メルセデス・ベンツは30年までの完全EV化を撤回した。同じく、フォルクスワーゲンはドイツ国内のEV工場の全面閉鎖を検討中。さらに、米国においてもGMはミシガン工場のEV投資を2年間凍結。フォードは大型SUVのEVモデルを取りやめた。そしてまた、日本のトヨタも26年で150万台としていた世界EV生産台数を100万台に下方修正したのである。
こうしたことを受けて、パワー半導体は一時的な減速を余儀なくされている。国内を見ても、SiCパワー半導体で世界トップシェアを狙うロームは23年度の全社売上が4678億円にとどまり、前年の5079億円からかなり後退した。インテリジェントパワーモジュールで世界トップシェアの三菱電機の23年度売上は、ほぼ横ばいの2898億円にとどまった。トヨタ向けのパワーデバイスを作る富士電機は堅調に伸びてきている。ただ、サンケン電気の業績はあまり良くない。
海外においてもインフィニオン、STマイクロなどのパワー半導体メーカーは投資計画に過剰感が出ている。ただ、将来的にはパワーデバイスは車載だけでなく、太陽光発電やその他各種情報機器、データセンター、ロボット、産業機械、鉄道、エアコンなどに用途は広がるわけであり、もちろん順調に伸びていくだろう。
車載とパワーデバイスの相関関係を考えた時に、自動車生産で世界トップシェアを持つ日本の企業の強さが半導体に結び付けば、非常に素晴らしいことになると思っている。ちなみに、国家半導体戦略カンパニーのラピダスもAI向け半導体と自動車向けチップのファンドリーを計画しているわけであり、シリコン列島ニッポンと自動車列島ニッポンがクロスオーバーする不思議な国「日本」の将来に大きな期待をかけたいものだ。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。