中国クラウド事業者もサーバー投資を拡大(写真:アリババのデータセンター)
中国ではAIサーバーの国産化に向けた動きが急ピッチで進んでいる。グーグルやアマゾン、メタなど米系のビッグテックがAIサーバー投資を強める中、中国でもアリババやテンセントを筆頭とするIT大手企業を中心に大型の投資計画が進んでいる。一方で、米中の関係悪化を受けて、主要部品の調達が困難になるなかで、足元ではこれを国産部品に切り替える動きが急ピッチで進んでいる。カギを握るのがAIチップとHBMだ。
ファーウェイが主導的役割
AIチップに関しては周知のとおり、グローバルではエヌビディアの1強状態が続く。AMDなど競合企業の台頭、あるいは顧客企業(グーグルやアマゾンなど)のチップ内製化(ASIC)戦略なども推進されているが、当面は「エヌビディア強し」が続くと見られている。こうしたなかで、中国系ハイテク企業は主力の「H100」の調達は原則行えない状況で、今後はこうした規制がさらに強まる観測も出ている。
中核部品の確保が難しくなるなかで、中国はAIチップの国産化に挑んでいる。主導的な役割を果たしているのが、ファーウェイだ。もともと傘下にHisilicon(ハイシリコン)というファブレス半導体メーカーを有しており、グローバルでも屈指の設計力を誇る。米中関係の悪化以降、スマートフォン向けプロセッサーの製造において、TSMCを活用できなくなって以降、競争力を失っていたが、23年ごろからスマホ市場でハイエンド端末の出荷を再び強化。プロセッサーの製造に関しては、SMIC傘下のSMSCを活用して必要数量を確保している。
そんなファーウェイにおいて最優先課題として位置づけられているが、AIチップの国産化だ。製造は引き続きSMSCが受け皿になると見られる。AIチップは「Ascend」シリーズと呼ばれ、同社のホームページなどでも確認することができる。このAIチップは5nmプロセスを採用していると見られるが、製造を担うSMSCは当然のことながらEUV露光装置を保有していない。
ロジックの半導体製造プロセスにおいて、7nm以降は一部工程でEUVがどうしても必要になる。しかし、半導体製造装置の輸出規制を受ける中国ではオランダASMLのEUV露光装置を導入することができない。苦肉の策としてSMICおよびSMSCが行っているのが、既存のArF液浸の多重露光技術だ。リソグラフィーとエッチングを複数回にわたって行い、線幅を狭めるマルチパターニング(5nmではクワッドパターニング、オクタパターニングを使っていると推定)を活用して、コストや採算性などを度外視して、数量を確保しようとしている。いわば、このAIチップの国産化は中国政府としても最優先事項と位置づけられており、「ファーウェイ・SMICによるAIチップの国産化」は業界のなかでも関心度合いが高まっている。
CXMTがDRAM大型投資
AIチップと並び、AIサーバーで重要な半導体部品となっているのが、HBMだ。DRAMダイをTSVとマイクロバンプを活用して3次元方向(縦方向)にスタックしており、CPU・GPUとDRAMのバンド幅を広げる高帯域化を実現している。現状は韓国系企業からHBM2およびHBM2Eなどを調達しているものとみられるが、今後の調達難に備えて国産化の動きが強まっている。
この重積を担うのが、DRAM製造大手のCXMTだ。足元で同社は大型のDRAM投資を展開しており、2024年下期から25年初頭にかけても追加投資を行うなど、24年の半導体設備投資および製造装置市場の上ぶれの主因を作り出している企業だ。CXMTは合肥と北京の2カ所でDRAMを生産しており、従来は24年あわせて同8万枚強を導入する予定だったが、現在追加の発注ならびにフォーキャストを考慮すると、25年に計画されていた4~5万枚分の増強計画の一部が前倒しで行われる可能性が高まっている。
現在のCXMTの積極的な設備投資は、HBMの立ち上げに向けた前工程キャパシティーの拡充との見方が強く、HBMの生産に不可欠なTSVやバンプ工程に関してはSMICと中国OSAT大手のJCETの合弁会社であるSJ semiconが請け負うと見られている。
AIサーバー向けの半導体を巡っては、エヌビディアの次世代アーキテクチャー「Blackwell」を搭載した「B200」の出荷遅れなどが業界で大きなニュースとなっているが、中国による国産AIサーバーの立ち上げも同様に大きな関心事となりつつある。
電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉 雅巳