電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第565回

日系EMS企業が国内外で大型投資


車載軸に事業拡大へ

2024/8/16

 国内EMS(電子機器の受託製造サービス)企業が旺盛な投資を行っている。日系の主要OEM顧客らを中心に中国での一極生産や調達を回避する動きが鮮明で、ASEANやメキシコなど調達先地域のグローバル化が一気に加速している。昨今の地政学上のリスクの高まりもあり、車載関連を中心に医療機器など電子機器製造の国内回帰も後押しをする。

 コロナ特需の反動で自動車をはじめ白物家電や産業機器、OA・事務機器など、総じて民生機器を中心にセット機器は在庫調整の影響を受けているため、国内EMS各社の業績は足元で低調に推移している。しかし、生成AIの本格普及により、コアデバイスとなる高性能半導体に旺盛な需要がきている。世界で相次ぐ半導体投資に牽引され、中長期的には半導体製造装置などの市場が再拡大する。ロボットなどFA機器の産業機器市場も早晩立ち上がりそうだ。車載関連市場も堅調に推移している。今後の自動運転への移行を見据えたADAS機能搭載の動きも活発化してきている。国内への製造回帰の動きも手伝って、日系EMS企業には追い風が吹く。

 加賀電子が積極的な投資を国内外で計画する。車載関連などの顧客から強い需要があるためだ。加賀EMS十和田での新棟建設も視野に入れるが、中京地区を第1候補にEMS国内拠点の新設も構想中だ。「地産地消」の基本方針に沿って、東日本の十和田、西日本の鳥取と併せ、国内3拠点体制を構築する。

 「チャイナプラスワン」への布石も打つ。ベトナムやマレーシアなどASEANでの製造比率を高める。特にベトナムには、ハノイやホーチミンに生産子会社を設立済みで香港にある調達部門とも連携して、同国での事業活動を3年以内には大きく飛躍させる。

 メキシコでの事業強化にも動く。足元で空調機器向け電子基板組立の新規顧客の獲得が見込まれているため、建屋2万m²の新工場を竣工させた。投資額は今後5年間で約50億円を見込む。また、第2フェーズとして、車載や白物家電の新規案件や日系以外の顧客からも新規受注が見込まれるため、建屋増設も検討中だ。

 業界2番手のスミトロニクスも攻勢に出る。単に製造を請け負うだけではなく設計からの案件も増えており、その対応を強化する。車載を筆頭に一気に攻勢をかける。中長期的にはM&Aも有効な手段として活用して、年率2桁成長を維持する。

 生産拠点は日本をはじめ中国、ベトナムやタイなどのASEAN、ハンガリーなどの欧州、北米(米国、メキシコ)など国内外に展開している。仕事の多いタイでは23年に新拠点を整備して2拠点体制とした。今後、ASEANおよびメキシコを中心に生産能力の拡大を計画する。さらにインドへの進出も検討する。

 国内ナンバーワンの実績を持つシークスは、いち早くメキシコや欧州でSMTラインの増強を先行して行ってきており、向こう3年間(24~26年)の投資は先の中計(21~23年)に対して2割ほどマイナスの230億円で計画する。今後は効率化投資や自動化投資を優先する。収益性や成長の高い領域に絞り込む。

 中国以外でのビジネス強化にも動く。マレーシアやインドに提携先を設けている。最近では設計段階からのニーズも増えており、設計パートナーと連携して対応する。地域特性を活かして新市場の開拓にも注力していく。

 これらの事業活動を通じて26年12月期に売上高3700億円、営業利益155億円を目指す。引き続き車載関連が牽引する見込みで、日系、非日系問わず大型案件の獲得に注力し、車載向け売上高を400億円増加させる。

 nmsホールディングスの傘下で、EMS事業の中核企業であるTKRは、ベトナム工場で板金プレスや洗浄などの2次加工~ユニットや完成品組立を得意としており、敷地4万m²を確保している。150~400tの大型プレス機を導入済みだ。家庭用テレビスタンドなどの金属加工も手がける。足元は需要が堅調で、第3工場の建設も視野に入れている。

 一方、メキシコは車載関連向け事業を中心に展開しているが、中長期的にSMTラインの増強を検討、生産能力を倍増する。基板実装のみならずプラスチックの射出成型、小売店向け特殊ディスプレーなどユニット・完成品組立も強化する。今後は、「チャイナプラスワン」としても注目されるこれらの拠点に経営資源を投入して、EMSの重要拠点として育成する。

 カトーレックは新高松本社工場を建設中だ。新規受注の案件もあり、老朽化した旧本社工場を建て替える。近接する高松本社の事務棟も集約・統合する。4階建て延べ床約2.2万m²の規模で25年2月末の引き渡しを予定する。向こう3年かけて生産能力を拡充していく。生産スペースは現行の2倍弱に拡大する。

 すでに同社のEMS拠点は日本、中国、ASEAN、メキシコ、インドへと展開しており、欧州を除いて9カ国12工場を擁している。需要をみながら最適地生産を選択する。

 現在自動車関連の売り上げが全体の3割だが、同社に話がきている顧客層でみると引き合いベースでは5割を超えているという。これらを確実に取り込む戦略を構築する。

 メイコーも中長期的にEMS事業の拡大策を進める。26年度には23年度実績よりも100億円上乗せして売上高400億円以上を目指す。アプリケーションでみると現状は車載4割、アミューズメント2割強、民生2割、プリンターその他2割という構成比だ。今後は設計・開発を軸に基板事業とも連携し、成長分野にワンストップビジネスを提供することで、さらなる事業拡大を確実なものとしていく。車載事業は6割ぐらいまで拡大させる。車載関連を手がけるうえで、品質マネジメントなどの国際認証取得も進めている。すでに各工場でIATF16949を取得、さらにISO26262の取得も進める。

 国内は設計・開発拠点として位置づけているが、国内のEMS需要は旺盛であるためMKem(山形県南陽市)の拡大を視野に入れている。ベトナムにあるEMSの2工場は量産拠点と位置づけており、今後SMTラインをそれぞれ倍増できるスペースを確保している。需要に応じて迅速に対応する。

 キョウデングループでEMS事業を手がけるキョウデンプレシジョンも投資を矢継ぎ早に展開している。20年に狩野川工場(静岡県)を立ち上げ、ユニット組立の強化を行ったが、産業機器や社会インフラ機器向けの想定以上の需要が立ち上がり、その後拡張工事を実施した。組立スペースを2.5倍の9000m²まで広げて、22年から稼働させている。また、西日本地区の基板実装の顧客サービス向上のため、和歌山県下で紀の川工場(延べ床3220m²)を新設、23年から稼働している。現在はSMT工程中心だが、将来はユニット組立も視野に入れる。

 本社工場でもある三福工場(静岡県)では、板金・プレスや樹脂成形などのメカ製造ラインとSMTラインを中心に整備を進めてきた。メカやSMTの生産能力を広げるため、新たにB棟を整備中で、一部は自動倉庫として24年12月に完成する予定だ。今後の需要拡大を想定して、さらに拡張スペースを設ける計画だ。最終的には延べ床5500m²まで拡張する。現在、5本のSMTラインが稼働しているが、10本まで倍増できるスペースを確保する。24年度も三福工場を中心に設備導入を検討している。

キョウデンプレシジョンの狩野川工場
 狩野川工場は、各種のIoT端末や半導体製造装置などのコントローラー部分などのユニット組立をはじめ、AIロボットや洗浄機の組立生産、保守・メンテナンスサービスなどを手がけている。今後、当社はユニット工程を中心に事業拡大も視野に入れており、その場合、この狩野川工場の敷地を新たに3万m²へと拡張して、生産能力の拡大を進める計画もある。

 大日光・エンジニアリングは、単にSMTや基板実装の工程を担うだけでなく、ユニット組立から完成品までの最終組立までを行っていく。金属加工や樹脂成型などもこなせるパートナー企業と上手に連携する。そのため、NCネットワークファクトリーという会社に資本参加しており、コアな技術力を有する様々な会社とグループづくりを行っている。すでに小ロット製品からスタートしている。ベンチャー企業の製品開発意欲も高く、こうした新規顧客の開拓にもつなげる。

 また、中長期的な売上増を果たすためにはSMTラインの生産能力もポイントになる。現在パートナー企業との連携を含めて約80ラインあるが、まずはこれを100ラインまで増強することも検討する。海外での仕事が増加することを想定しており、次はメキシコやインドなど注目している。


電子デバイス産業新聞 特別編集委員 野村和広

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