電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第559回

ヨウ素大国の日本、リサイクルで貴重資源を保護


次世代太陽電池でも需要期待

2024/7/5

 次世代の太陽電池(PV)として、ペロブスカイト太陽電池(PSC)の開発が加速している。PSCの代表的な組成はMAPbI3(ヨウ化鉛メチルアンモニウム)で、比較的安価な材料を使用するため、製造コストが安価という利点がある。特に、日本は構成材料の1つであるヨウ素の資源大国と言われており、PSCの製造においては大きな強みになる。

 一方で、貴重な資源をできるだけ長く利用するためには、リサイクル技術の確立が不可欠となる。PSCの開発では、従来の変換効率や耐久性の向上に加え、今後はヨウ素のリサイクルも重要な技術テーマになりそうだ。

日本はヨウ素の資源大国

 ヨウ素は海水や海草、かん水、鉱物などに含まれているが、濃度は非常に低いため、経済的に採取できる地域は限られる。世界のヨウ素生産量は年間で3万4000t程度と言われており、このうち、チリが半分程度のシェアを握っている。日本のシェアは3割程度で、千葉、新潟、宮崎が主な産地だが、なかでも、千葉は国内生産量の8割程度を占めている。

 チリはヨウ素の最大生産国だが、大量の水を利用して硝石からヨウ素を取り出しているため、可採可能な埋蔵量は100年程度と言われている。一方、日本では、ヨウ素を含む地下水の「かん水」からヨウ素を抽出・精製している。日本のかん水はヨウ素濃度が100ppmと高いのが特徴で、可採可能年数も600~700年と長い。

 かん水からヨウ素を取り出す方法として、「ブローイングアウト法」と「イオン交換樹脂法」がある。「ブローイングアウト法」は、ヨウ素の昇華性を利用して、かん水からヨウ素のみを分離する技術。一方の「イオン交換樹脂法」は、イオン交換樹脂を用いてヨウ素を選択的に吸着して取り出す方法だ。一般的には、「ブローイングアウト法」は設備が大型で大量生産に適しているとされる。なお、世界に先がけ、「ブローイングアウト法」を開発したのが伊勢化学工業である。

フレキシブルPSCモジュール<br />(エネコートテクノロジーズ)
フレキシブルPSCモジュール
(エネコートテクノロジーズ)
 ヨウ素には様々な用途があるが、最大の用途はX線診断用の造影剤で、ヨウ素全体の2割以上を占める。さらに、殺菌・防カビ剤、工業用触媒、液晶関連、医薬品などにも広く使われており、今後は、次世代PVであるPSCの材料としても需要が増えると期待されている。

リサイクルで新たな価値創造

 日本には豊富なヨウ素資源があるが、地下からかん水を汲み上げているため、地盤沈下の懸念がある。限りある資源をできるだけ長く、有効に活用するとともに、環境負荷の低減を図るためにも、ヨウ素のリサイクルは避けて通れない。

 ヨウ素のリサイクルについては、高温の熱処理でヨウ素を回収する方法や、ヨウ化物を電気化学的(電気透析法)に抽出・濃縮する方法などがある。リサイクルの対象となるヨウ素の形態は溶液や有機溶媒液、さらには、固体、スラリーなどがあり、ヨウ素の含有量も様々なため、対象物の状態に最適な手法を選択することになる。

 ヨウ素メーカーもリサイクルの取り組みを強化している。国内トップの伊勢化学工業は、生産工程や触媒用途で残ったヨウ素を顧客の協力を得ながら回収・リサイクルしており、合同資源も1960年代からリサイクルに取り組んでおり、90年代には本格的なリサイクル設備の設置を完了した。現在販売中のヨウ素製品には、リサイクルしたヨウ素もある程度含まれているという。

 一般的に、工業用途では未利用のヨウ素が多く、逆に医療分野などの用途では、ヨウ素の利用率が高く、回収できるヨウ素は少ない。また、ヨウ素は添加剤として混入しているケースが多く、製品に占める使用量は相対的に少ない。ヨウ素を回収・再利用するには、有機ヨウ素化合物の状態から無機物に分解する必要がある。理想はヨウ素が含まれる様々な製品からヨウ素を回収してリサイクルすることだが、これは未利用のヨウ素を回収するよりも、さらに技術的なハードルが高くなる。

 技術開発と並行して、経済合理性も重要な視点となる。高純度のヨウ素をリサイクルする技術を確立しても、それによりコストが大幅に上昇すれば、本格的な普及は難しい。ただし、持続可能な社会の実現、カーボンニュートラルの実現、といった新たな価値を訴求するという意味では、ヨウ素のリサイクルは有意義なチャレンジになるだろう。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾
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