電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第557回

エヌビディア新製品巡り、HBM市場もさらに過熱


SK優位もサムスン、マイクロンも追撃へ

2024/6/21

 筆者はこのコラムにおいて、「HBM、本格的な競争の始まり」というテーマで韓国2社(SKハイニックス、サムスン電子)と米マイクロンについて2023年11月10日に執筆した。相変わらずメモリー市場ではHBMの存在感が大きく、メモリー3社の競争はますます激化している。

 最近は、生成AI半導体市場をリードするエヌビディアが次世代AIチップ「Rubin」の一部を公開し、今後も業界での優位を維持していく戦略だ。Rubinは24年に量産予定である「Blackwell」の次世代バージョンで、具体的な日程に関しては明らかにしていないものの、当初計画より早める可能性があるとみられている。BlackwellにはHBM第6世代であるHBM4が搭載されると発表されていることから、今後のHBM市場もエヌビディアを中心に回っていくことになりそうだ。

Blackwell搭載製品、24年下期から発売予定

 エヌビディアはAI半導体とともにHBM搭載計画も公開。現在Hopperアーキテクチャをベースとする「H200」にはHBM3Eの8層製品が6個搭載される。24年下期に発売予定のBlackwellアーキテクチャーの「B100」にはHBM3Eの8層製品を12個、25年には「Blackwell Ultra」にHBM3Eの12層製品を搭載する予定となっている。

 今回公開したRubinにはHBM4を8個搭載し、27年には「Rubin Ultra」にHBM4を12個搭載する予定だという。エヌビディアはAI半導体市場の8~9割のシェアを持っていることから、メモリー3社は今後需要が大幅に拡大される次世代製品に向けたシェア争いが激しくなってくるとみられる。

 SKハイニックスは、エヌビディアH100へのHBM3独占供給に続き、H200にもHBM3Eを最も多く供給するとみられている。HBM市場は、韓国2社が90%(SKハイニックス50%、サムスン電子40%)、マイクロンが10%シェアのイメージがあったが、HBM3EではSKハイニックスの優位がさらに強まっている。

エヌビディアを中心に回るHBM市場(写真はジェンスン・ファンCEO)
エヌビディアを中心に回るHBM市場
(写真はジェンスン・ファンCEO)
 これに追従すべく、マイクロンもエヌビディアに対するHBM3Eの供給を発表している。出遅れ気味のサムスン電子もこの競争に加わり、今後3社による供給体制が確立されることになりそうだ。ただ、現状を考えると、SKハイニックスの優位はなかなか揺らぎそうにないのも事実だ。

 HBM4からは顧客ニーズも一層の多様化・高度化が進み、ファンドリーとの協業が重要視される見込みだ。24年4月に、SKハイニックスはHBM4の性能向上を目指して台湾TSMCとHBMに関する技術開発や次世代パッケージング技術で協力すると発表した。

 HBM3Eまでは、ベースダイの製造に独自の技術を採用してきたが、HBM4のベースダイにはTSMCの先進ロジックプロセスを採用する予定となっており、今後のカスタマイズされたHBMの製造にも対応しやすくなるとみている。また、SKハイニックスのHBMとTSMCのCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)技術の統合を最適化する技術についても協力していく。これに対し、サムスン電子は先端ロジックとメモリーを双方手がけていることを強みに攻勢を強めていく考えだ。

サムスン主要供給先はAMD

 サムスン電子は、早ければ24年下期からエヌビディアに供給開始するとみられている。4月に8層製品を量産開始しており、24GビットのDRAMチップをTSV(シリコン貫通ビア)技術で12層まで積層し、業界最大容量の36GBを実現したことで、24年第2四半期(4~6月)内に12層製品の量産を目指すと明らかにした。

 サムスンのHBM主要顧客であるAMDがロードマップを公開し、24年度第4四半期に発売する「MI325X」にHBM3E 12層製品を搭載する計画だと発表した。AMDはすでにHBM3をサムスンから調達しており、エヌビディアに対応するためにサムスンとの協業を強化している姿をみせていることから、業界ではHBM3Eもサムスン電子から調達するとみている。だが、サムスンとしては最大手のエヌビディアを顧客として確保しない限り、HBM市場での存在感を高めることはなかなか難しいだろう。

 マイクロンの場合、シェアとしては現時点で韓国2社に次ぐ立場になっているものの、TSMCと協業するなど今後の事業成長ポテンシャルでみると最も期待されている。マイクロンも8層製品の量産に加え、12層サンプルの供給も開始した。また、台湾の新規工場に加え、最近は米国政府から米国メモリー工場建設に61億ドルの助成金を交付されることが決まっており、今後本社のあるアイダホ州と、ニューヨーク州の新工場建設費用に助成金を活用する。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 嚴智鎬

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