電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第556回

Nintendo Switchで成長した電子デバイス


後継機種の形態にも要注目

2024/6/14

 任天堂(株)が2017年から発売しているNintendo Switchは、24年3月時点で累計販売台数がハードウエア(スイッチ本体)で1億4132万台、ソフトウエア(ゲームソフト)で12億3582万本の大ヒット製品となった。想定以上の需要により、販売直後は完売状態が続き、生産が追い付かない状況となった。さらに、新型コロナウイルス感染拡大による生産遅れの影響の一方で、巣ごもり需要による追い風もあって、一時は抽選販売にもなった。また、20年に発売したソフトウエア「あつまれ どうぶつの森」は、最速で販売数を増加させ、以降もハードウエアの販売を牽引した。

 発売から8年目を迎えた現在も、売れ行きは堅調を維持している。しかし任天堂は、これ以上の大幅な増加は難しいと予想。今後は25年3月までにNintendo Switchの後継機種が発表される予定で、関係各社の業績に与える影響にも注目だ。

 今回は、Nintendo Switchに採用されている電子デバイスの効果について、大手サプライヤー2社を取り上げる。

電子部品の納品と受託生産の一部を担うホシデン

 ホシデン(株)は、コネクター、スイッチ、音響部品、静電容量式タッチパネルなどを手がけており、ゲーム機本体であるハードウエアの受託生産と、これら多数の電子部品を任天堂に納めているとみられている。23年3月期の売上高の67.0%は任天堂向けであり、関連するセグメントは機構部品セグメントだと報告している。任天堂向け比率の高さから、同社からの受注動向が、同社のアミューズメント(ゲーム)機器向け製品の業績に影響を与える可能性は非常に大きいといえる。

図1 スイッチ本体の販売台数とホシデンの機構部品セグメントの売上高の推移(各種公開情報より作成)
図1 スイッチ本体の販売台数とホシデンの機構部品セグメントの売上高の推移(各種公開情報より作成)

 スイッチ本体の販売台数と機構部品セグメントの売上高の推移(図1)を見ると、Nintendo Switchの発売開始以降、機構部品セグメントの売上高も大きく増加していることがわかる。なかでも18年3月期は、世界中でスイッチ本体の販売が好調だった。21年3月期には、新型コロナウイルスによる巣ごもり需要と大人気ソフト「あつまれ どうぶつの森」の発売もあり、販売が増加。それに伴い、機構部品セグメントの売上高も押し上げられた。なお、任天堂は23年3月期では半導体不足の影響が大きく、スイッチ本体の生産、販売が減少したとしている。しかし、そんななかでもホシデンの機構部品セグメントは、別用途での販売が好調で増加傾向となった。

 しかし、24年3月期決算では、全社の売上高のうちアミューズメント関連向けで約621億円(約33%減)の減収となり、需要の減少が業績に大きく影響した。任天堂の25年3月期のスイッチ本体の販売台数は、前年度比220万台減少の1350万台を計画している。一方、ホシデンの25年3月期の業績予想では、在庫調整の終了を推測しており、主要顧客の需要は横ばいを想定。機構部品セグメントはアミューズメント関連向けにおいても増収を計画している。また、25年3月期の売上高には、アミューズメント顧客の新製品は見込んでいないとしており、この受注獲得が決まって生産販売が行われれば、さらなるプラスになるとのことだ。

 ホシデンは、ベトナム工場において新棟の建設も予定している。同工場ではアミューズメント向けの主要顧客向け製品などを生産しており、25年夏頃の完成を計画している。後継機種は25年の発売と噂されるが、それとの関係にも注目したい。

カセットにはメガチップスのLSIが採用

 システムLSIメーカーのメガチップスは、カセット向けにゲームソフトウエア格納用LSI(ゲーム機用カードリッジ内蔵のメモリー製品)を納入している。23年3月期の実績では、売上高のうち任天堂向けが約80%を占めた。これは、Nintendo Switchの発売を機に大きく伸長している。旧型機にあたるWiiやWii Uは、ゲームソフトはディスクに記録されていたことに対し、Nintendo Switchではカセットが採用されたことで、LSIを納入できるようになったことが大きな要因となった。

図2 Nintendo Switchゲームソフトの販売台数とメガチップスの売上高推移(各種公開情報より作成)
図2 Nintendo Switchゲームソフトの販売台数とメガチップスの売上高推移(各種公開情報より作成)

 Nintendo Switchゲームソフトの販売台数とメガチップスの売上高推移(図2)をみると、メガチップスの売上高はNintendo Switchの発売と同時に大幅に増加した。メガチップスが他事業を譲渡したことで売上高が減少した20年3月期以外は、ほぼ同様に業績が推移していることがわかる。

 20年3月期は、「あつまれ どうぶつの森」がNintendo Switch向けゲームソフトでは過去最高の伸び率で伸長したという。しかし、徐々にパッケージ版からダウンロード版ソフトの売り上げが上昇。21年3月期には、ダウンロードソフトがデジタル売上高の59.3%(前期は34%)を占める結果となった。また、22~23年3月期は半導体不足の影響が大きく、スイッチ本体の生産、販売が減少、これに伴いカセットの売り上げも減少した。

 メガチップスは、25年3月期にゲームソフトウエア格納用LSI(カスタムメモリー)の需要が前年度比で減少すると予想し、全社で10%の減収を見込んでいる。

 先述のとおり、後継機種のゲームソフトの形態によって、今後のメガチップスの業績も大きく左右されると予想される。後継機種については、ゲームソフトの形態にも注目したい。なお、同社は任天堂向けの比率が高いことから、これら顧客専用LIS事業を主力事業としているが、新たに通信事業にも力を入れている。

後継機種発売による関連各社の業績にも期待

 Nintendo Switchは、発売後、関連の電子部品各社が増産のため設備投資を行うなど、大きな影響を与えた。ホシデンやメガチップス以外にも、同製品の好調が下支えとなり、売上高が大きく増加した企業もある。例えば、NISSHA(株)は、ディバイス事業が手がける静電容量方式タッチセンサー「FineTouch(ファインタッチ)」が採用されたことで、17年12月期(9カ月決算)の実績は、ディバイス事業の売上高が17年3月期比で約3倍となった。今後発表が控える後継機種においては、各社にどのような影響があるだろうか、期待している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 日下 千穂

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