月刊『文藝春秋』は大学生のころから愛読している。当初は「文学界」「小説現代」などという小説をベースとした文学雑誌だと思って買ってみたのだ。ところがどっこい。読み始めてみたら全く違う総合雑誌であることに気が付いた。政治・経済はもとより社会・文化・アート・芸能・科学の世界まで幅広く扱う紙面作りに非常に驚いたものである。
それから40年以上にもわたり愛読しているが、皇族ネタにも詳しいことがよくわかった。そして、政治のトップにいる人たちが忌憚なく語る雑誌であることにも感心した。周知のように、「芥川賞」「直木賞」を主催しているのが創業者の菊池寛率いる文藝春秋であったのだ。
文藝春秋は、思想的には右でも左でもなく、且つ田中角栄内閣を倒した有名な記事を掲載するなど、権力あるものに対して決してひるまない姿勢であることが気に入っている。さらに言えば、いつだってトレンディな話題を徹底的にセレクトし、読者にわかりやすく説明し、世論を作っていくということに特徴があるのだ。
さて、筆者はこの1年余りの間に文藝春秋には3回登場させていただいている。もちろん、半導体の一大ブームが到来し世界経済の牽引役となり、かつ米中半導体戦争の行方などに関する興味が、多くの読者にあるからであろう。2024年4月号にも12ページにわたる長編の半導体のリポート記事を書かせてもらった。
筆者は1991年には国内唯一の半導体専門紙である『半導体産業新聞(現在は電子デバイス産業新聞)』を立ち上げ、記者としては40年近く半導体を追い続けてきた。業界の最古参記者として、日本の半導体が大躍進を遂げてから凋落するまでの時代をこの目で見てきた。そして今、「シリコン列島ニッポン」の誕生が見えてきており、半導体による国作りが日本を再生する道だという論調でかなりの記事を書いてきた。
自民党政府は、10兆円もの半導体支援金をすでに用意し、果敢にも実行してきた。これを批判する向きもあるが、実のところ半導体による経済効果はすさまじいものがある。台湾TSMCの進出がそれを証明している。2022年4月から約1.3兆円を投資して熊本第1工場を建設し、2月24日に開所式を迎えた。さらに。2兆円を投資して熊本第2工場の建設を2024年末に始め、日本政府から7320億円の補助を受ける予定だ。場所は未定だが日本国内に第3工場、第4工場を設けることも内定している。
九州フィナンシャルグループの試算によれば、TSMCなどがもたらす経済効果は約7兆円だという。現在の熊本県のGDPは6兆円。半導体の分野だけでそれ以上の経済効果が出ることになる。
国家半導体戦略カンパニーともいうべきラピダスの北海道への経済効果も非常に大きい。北海道千歳市に国内最大規模の半導体工場が建設されることで、18兆円以上もの経済効果がもたらされるとの予想も出ている。ラピダスは道央一帯を産業集積地とする「北海道バレー」構想も唱えており、北海道でも九州同様の巨大な経済効果が見込まれるのだ。
九州における大型工場はTSMCだけではない。ソニーが熊本県合志市に27万m²を取得し、巨大新工場の建設に入ろうとしている。パワー半導体の大手であるロームが宮崎県国富町に40万m²を取得し、これまた大型工場建設を計画している。さらに、NANDフラッシュメモリー大手のキオクシアが岩手県北上市および三重県四日市で大型投資に踏み切るが、ここにも政府は直ちに補助金を出すことを決定した。
広島県下においては、米マイクロンが5000億円を投じる新工場を建設するが、ここにも政府は補助金を出すことを決定している。台湾における半導体大手であるPSMCの仙台エリアの新工場にも8000億円が投入される。
これでお分かりであろう。まさに北海道から九州に至るまでのほぼ全エリアで「シリコン列島ニッポン」の新時代が幕開けしたのだ。この詳細については『文藝春秋』4月号に掲載された筆者の記事を読んでいただければ、幸いである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。