電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第544回

実用化が近づくペロブスカイト太陽電池


中国でGW規模の工場建設、タンデム型で大型モジュール実現

2024/3/15

 ペロブスカイト太陽電池(PSC)の商業化が近づいている。すでに、中国ではGW規模の量産工場の建設が始まっており、英独の研究チームは、実用サイズのPSCタンデムモジュールで25%の変換効率を実現している。

 国内でも、NEDOプロジェクトでPSCの技術開発が進んでおり、多くの企業が商業化に向けた実証試験に乗り出している。

タンデム型の変換効率34%

 PSCは2008年に光電変換能力が発見されて以来、次世代の太陽電池(PV)技術として世界中で研究開発が進んでいる。当初の変換効率は4%以下と低かったが、10年代後半から急速に変換効率が向上しており、19年には小面積セルで25%を超えた。

 その後も効率の改善が進み、現在の最高効率は26.1%だが、性能アップのスピードは鈍化しており、変換効率の上限が近づきつつある。一方で、PSCと他のPV技術を組み合わせたタンデム型の開発が活発化している。

 PSCは可視光の変換効率が高く、バンドギャップの調整が可能で製造コストも安価なことから、タンデム型のトップセルとして有望である。なかでも、トップセルにPSC、ボトムセルに結晶シリコン(Si)を用いたタンデム型は低コスト&高効率が期待できる。

 22年には、スイスのEPFLとCSEMの研究グループが世界で初めてPSC/Siタンデムで30%の壁を突破したが、23年にはLONGi(中国)が33.9%の世界最高効率を達成した。そして、Jinko Solar(中国)はPSC/Siタンデムで34%の変換効率を実現している。

 PSC/Siタンデムでは、単接合型PVの理論限界効率を大幅に上回る変換効率が可能だが、3接合型にすれば、さらなる効率の向上が期待できる。Fraunhofer ISE(ドイツ)は結晶Si(ヘテロ接合型)の上に2層のPSCセルを積層した2端子構造の3接合セルを試作した。変換効率は20.0%にとどまるが、Voc(解放電圧)はこれまでに報告された3接合型では最も高い2.86Vを達成した。

実用モジュールで出力421W

 10年に設立したOxford PV(英国)は、ドイツにある量産工場でM6(166mm角)サイズのウエハーを用いたPSC/Siタンデムセル(変換効率26.8%)を少量生産しているが、24年から本格的な量産を開始する予定だ。

PSC/Siタンデムモジュール(Fraunhofer ISE&Oxford PV)
PSC/Siタンデムモジュール
(Fraunhofer ISE&Oxford PV)
 さらに、同社はFraunhofer ISEと共同で、実用サイズ(1.68m²)の両面発電型PSC/Siタンデムモジュールで変換効率25%を達成した。出力は421Wで、工業レベルのPSC/Siタンデムモジュールでは世界最高効率になるという。導電性接着剤を使用したセルの相互接続や低温の封止プロセスなど量産に適用可能な技術を開発した。

 シンガポール国立大学(NUS)の研究グループは、透過型PSCとバンドギャップ1.0eVのCIS(CuInSe2)を積層した4端子構造のタンデム型で変換効率29.9%を達成した。PSC内の光路を最適化することで、変換効率と透過率の改善が両立できたという。

 PXP(相模原市)もPSC/CIGSタンデムを開発している。CIGSはバンドギャップを約1.0eVに調整することで長波長の光の吸収効率を高め、PSCはPEN基板を用いて、オールドライの真空プロセスで成膜した。試作した小面積セルの変換効率は23.6%で、フレキシブル基板を用いたタンデム型では世界最高レベルになるという。

中国、台湾で量産の動き

 中国はPSCの研究開発に加えて、商業化でも先行している。DaZheng Micro Nano Technology、Microquanta Semiconductor、UtmoLight、Renshine Solar、GCL Perovskiteなどが商業化に取り組んでいるが、事業化を目指す企業は30社以上あるもよう。

 Microquanta Semiconductorは22年に浙江省衢州市内に100MWの量産工場を建設し、同年7月からPSCモジュールの出荷を開始しており、UtmoLightも150MWの試作ラインを整備済みだ。

 21年設立のRenshine Solarは南京大学発のスタートアップ企業で、22年末に2層のPSCを積層したオールPSCタンデムセル(面積0.0489cm²)で変換効率29.1%を達成した。一方、常熟市で建設していた150MWの量産工場は23年末に完成し、24年1月から稼働を開始した。新工場では1.2×0.6mサイズのPSCモジュールを生産するが、将来的には生産能力をGW規模まで引き上げる計画を持っている。

 GCL Perovskiteは、21年に100MWの量産ラインを建設し、PSCモジュール(2×1m)の生産を開始したが、生産能力を2GWに引き上げる計画を発表した。23年末に蘇州市の崑山ハイテク工業団地で第1期の起工式を行ったが、25年には第2期の建設を予定している。なお、21年に10.0%だったPSCモジュールの変換効率は、23年には18.0%まで改善している。

 また、GCL PerovskiteはPSC/Siタンデムの開発も進めており、これまでに、40×60cmのタンデムモジュールで26.3%の変換効率を実現しているが、今後、2.4×1.2mサイズのタンデムモジュールで27%の変換効率を目指す。

 さらに、宇宙利用を想定した実証実験も進めている。23年末に打ち上げた人工衛星にPSCモジュールを貼り付けており、発電性能や耐久性を評価する予定だが、将来は、宇宙空間での規模発電設備を展開する構想を持っている。

A4サイズのPSCモジュール(TPSC)
A4サイズのPSCモジュール(TPSC)
 TPSC(台湾)は、22年にA4サイズのPSCモジュール(モジュール変換効率18%、出力6W)の開発に成功し、現在、試作ラインで少量生産しているが、25年に量産を開始する予定だ。

NEDOプロジェクトで開発

 日本では、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトでPSCの技術開発が進んでいる。基盤技術開発には東京大学、立命館大学、京都大学、実用化事業には積水化学工業、東芝、カネカ、エネコートテクノロジーズ、アイシンがそれぞれ参画しており、積水化学工業および東芝は東京大と立命館大、エネコートテクノロジーズは京都大、アイシンは東京大とそれぞれ連携している。

 積水化学工業は30cm幅のフィルム型PSCで15%の変換効率を実現しているが、25年の実用化に向けて1m幅の製造プロセスの確立に取り組んでいる。カネカは両面発電型PSCモジュール(面積64cm²)で変換効率20.8%を達成しており、この技術を用いた両面発電型シースルーPSCを開発している。

 東芝はメニスカス塗布法を用いたフィルム型PSCを開発しており、22年に同プロセスを用いて作成したフィルム型PSCモジュール(703cm²)で変換効率16.6%を達成した。商業化に向けて、サブモジュールの接続方法や、ロール・ツー・ロールによる連続成膜プロセスを検討しており、25年のサンプル出荷、28年の本格量産を目指している。

 アイシンは東京大学と連携して薄型ガラス基板を用いたPSCモジュールを開発しており、25年に自社工場で発電実証試験を開始する予定だ。

 エネコートテクノロジーズは京都大発のスタートアップ企業で、19年からIoTセンサーに搭載するPSCモジュールのサンプル出荷を開始している。ミニモジュール(7.5cm角)では20%超の変換効率を実現しており、G2サイズ(360×465mm)でも18%前後の効率が出ている。すでにパイロットラインを整備済みで、24年中に量産プロセスを確立する予定だ。

 シャープもPSCの開発を進めており、高効率技術では、26年までにPSC/Siタンデムで30%超の変換効率を目指す。一方、大面積技術では、フィルム基板を用いたフレキシブルモジュールを検討しており、G4サイズ(880×660mm)のシースルー型PSCモジュール(出力20W)を試作している。

国内で相次ぎ実証試験

 国内でも様々な実証試験が始まっている。積水化学工業は東京都やNTTデータと共同で実証試験を実施するほか、自社の本社ビル壁面にも建材一体型のPSCパネルを設置している。

 また、JR西日本が25年に開業する「うめきた(大阪)駅」でも発電量などの実証試験を行うほか、都内で建設予定の再開発ビル壁面に1MWのPSCを設置する計画だ。海外では、スロバキアと共同で法規制を含む社会実装への課題などを調査する。

 パナソニックは神奈川県藤沢市のモデルハウスでガラス建材一体型PSCモジュールの実証を開始しており、東芝エネルギーシステムズも福島県大熊町でフィルム型PSCの実証試験を計画している。ノウタスは桐蔭横浜大と共同で、農業分野におけるPSCの実証試験を24年春から開始する。

 エネコートテクノロジーズは22年にマクニカと共同でPSC搭載のCO2センサー端末を開発したが、両社は23年に東京都と実証事業に関する協定を締結し、第2本庁舎でPSC搭載のIoTセンサーの実証試験を実施している。マクニカは桐蔭横浜大などと共同で、横浜の港湾部でもPSCの実証試験を計画している。

 さらに、エネコートテクノロジーズはトヨタと共同で車載用PVの開発に着手したほか、三井不動産レジデンシャルとマンションでの実証試験を予定している。また、24年春から、日揮と共同で北海道の物流施設でも実証試験を開始する。

 リコーもPSCの実証試験を開始した。東京都内の小学校と厚木市役所にPSCとセンサーを搭載した小型の街灯(庭園灯)を設置し、温度、湿度、照度など様々な環境におけるPSCの発電量や耐久性などを評価するという。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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