電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第527回

HBM、本格的な競争の始まり


韓国2社の投資拡大、米マイクロンの参入

2023/11/10

 生成AI半導体市場の大きな成長により、AI向けに使用される半導体の需要が急激に高まっているとともに、HBM(High Bandwidth Memory)に対する注目度が高まっている。2022年のHBM市場は、SKハイニックスが市場トップシェアである50%を持っており、サムスン電子が40%、米マイクロンが10%であったとみられる。そうした中で、HBM市場のトップシェアを持つSKハイニックスとサムスン電子の競争が激しくなっており、マイナス成長を続けてきたメモリー市場は23年下期からはHBMを中心とした競争がより激しくなる見込みだ。

 HBMは13年から半導体市場に登場し、第1世代(HBM)、第2世代(HBM2)、第3世代(HBM2E)、現時点では第4世代(HBM3)まで展開している。21年10月にSKハイニックスが業界初でHBM3の開発に成功し、これをAI用GPUで世界トップシェアを保有する米エヌビディアに独占的に供給することでHBM市場のトップシェアを獲得。直近では第5世代のHBM3Eも開発し、24年上期から量産する予定となっており、26年には第6世代のHBM4を計画している。一方、サムスン電子はHBM3の量産準備を完了、23年下期から量産の段階に入っている。しかし、まだエヌビディアとの契約が確定されていないことから、SKハイニックスとの競争で苦戦が続いている。

サムスン電子、ターンキーサービスで勝負

 このような状況において、サムスン電子はHBMのメモリーだけでなく、自社のパッケージング技術を活用してファンドリー事業まで一緒に提供するターンキーソリューションを推進している。SKハイニックスとマイクロンの場合、パッケージングの技術を保有していないため、このような強みを武器に攻略していく戦略だ。

 現在、サムスン電子にとってHBM3の供給量を大きく拡大させるうえで「2.5Dパッケージング技術」の重要性が高まっている。具体的には、「アイキューブ」(I-Cube)と呼ばれる独自技術で、HBMモジュールの搭載数によってアイキューブ2(HBM2個搭載)などに発展させてきた。24年には4~6月期にアイキューブ4、7~9月期にアイキューブ8の量産を計画している。サムスン電子は同技術とHBMを一緒に提供することで、供給量を大きく拡大させることができるという。

 HBMでは生産能力がボトルネックとなりがちだが、サムスン電子の一連のソリューションはこうした問題を解消できるものとして期待されている。現在エヌビディアとAMDなどは台湾TSMCのファンドリーおよびパッケージング「CoWoS」を採用しているが、同技術も生産キャパシティーを十分に増やせていない。

 このような状況から、サムスン電子はエヌビディアにパッケージングサービスとHBM3供給までのターンキーサービスを提案したが、どうなるのかは未知数。ターンキーで製品を作れることは長所となるが、HBM3でSKハイニックスのMUF技術で市場トップシェアを獲得している状況からサムスン電子のHBM3を利用することはリスクが高く、その他にも危険要素が多い。

 一方、TSMCはCoWoSの生産能力を24年まで2倍(月1万6000枚)に拡大すると発表しており、すでに量産している一方、サムスン電子は24年からI-Cubeの量産計画を発表している。サムスン電子は、この提案を成功させるためには、TSMCが増設の準備を完了する前にエヌビディアが要求する品質や仕様に合わせて量産に成功しなければならない。現時点ではTSMCのCoWoSより高い性能を期待することは難しいところ、サムスン電子にとってはこれが最後のチャンスで勝負をかけている。

(左)I-Cube4パッケージ外観、I-Cube4パッケージ構成
(左)I-Cube4パッケージ外観、I-Cube4パッケージ構成

SKハイニックス、HBM市場でのトップシェア維持へ

 HBM3から市場トップシェアを獲得しているSKハイニックス。今後はHBM3Eなど次世代製品の量産能力を増強するために生産能力を拡大していく。HBM最大顧客であるエヌビディアに対してHBM3の独占供給に続き、第5世代であるHBM3Eまで独占供給を控えており、HBM市場での優位を確保している。HBMは、量産型ではなく、オーダーメード型となっており、これはSKハイニックスのHBMがないと、エヌビディアも自社のGPU生産に問題が生じるという意味と同じだ。

 SKハイニックスは23年6月にHBM3Eのサンプル出荷を開始しており、エヌビディアとリアルタイムで協力してきたことから完成度の高さが大きな強みとなっている。現時点では24年初頭に最終テストだけ残っており、早ければ24年1月末から進行する見込みだ。

 SKハイニックスのHBM3Eは、業界で初めて開発されたことに加え、最高性能も満たしている。まず、1秒あたり最大1.15TB(テラバイト)以上のデータを処理することが可能。HBM3に比べると、処理速度は1.3倍、容量は1.4倍高くなった。また、HBM3は8段積層で16GB、12段積層は24GBパッケージであったが、HBM3Eは8段で24GB容量を備えており、今後は12段積層の36GBのパッケージも開発していく。

SKハイニックスのHBM3E
SKハイニックスのHBM3E
 さらに、「Advanced MR-MUF」の最新パッケージ技術を適用しており、製品の熱放出性能を従来比10%向上している。このパッケージ技術は、HBM3まで適用された既存のMR-MUF技術から短所を補完したことで、チップの反りを克服した新技術を導入し、新規の保護材で放熱性まで改善した。


マイクロン、HBM市場に挑戦

 HBM3Eから韓国の2社の競争は本格的になると見込んでいる。SKハイニックスはすでにサンプル出荷済みの状態となっており、サムスン電子も23年末にサンプル出荷を予定している。そこで、マイクロンもHBM市場に参入すると発表し、HBM3を飛ばしてHBM3Eで勝負をかける。すでにサンプル出荷済みで、来年量産を目指している。しかし、24年までは韓国2社の大規模HBM投資により、シェアは数%以内になると見込んでいる。

 HBMはこれからのAI時代に必須の材料として、最近のメモリー半導体の不況のなかで大きな収益性も持っている。まだメモリー市場で割合としては大きくないが、収益性は他のDRAMより5~10倍だと言われている。特にSKハイニックスは23年7~9月期にDRAM事業を2四半期ぶりに黒字に転換させたことから、HBMの威力を発揮した。HBM市場は年平均最大80%まで拡大されていくと見込んでおり、24年のDRAM市場で10%後半水準のシェアとなる見込みであるなど、今後HBMの影響力はさらに大きくなっていく。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 嚴 智鎬

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