電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第75回

絶好調を謳歌する韓国半導体


~自動車・産業&白物家電が好調~

2014/12/12

 韓国のメモリー半導体産業が絶好調を謳歌している。とりわけ、ここ数年間は韓国経済における主力産業であったスマートフォン(スマホ)と自動車の成長率が鈍化するなか、メモリー半導体は依然として韓国を代表する成長エンジンになっている。

営業利益率は驚異の30%

 サムスン電子の半導体部門とSKハイニックスの営業利益は史上最大規模となり、業績の記録を塗り替えており、製造業としてはまれな30%台という営業利益率を達成している。SKハイニックスは、2014年第3四半期(7~9月期)に売上高4兆3210億ウォン、営業利益は1兆3010億ウォンとなり、利益率30%を突破(表)。まさに驚異的な数値といわざるをえない。


 有力市場調査機関のIHSによれば、両社のDRAM市場におけるシェアは合計67.3%で、確固たる世界トップを堅持している。また、NAND型フラッシュメモリーも53.2%で、同市場を牽引している。14年のDRAM市場規模459億米ドルとみられ、15年は496億米ドルへと大幅に膨らむ見通しだ(グラフ)。


 15年の見通しが肯定的なのは、従来の電子機器とスマホには次第にハイエンド仕様の半導体が多く採用されるとみられるためだ。加えて、車載とモノのインターネット(IoT)、ウエアラブルデバイス向けなどが半導体の需要を大きく増やす見通しであるからだ。

 しかし、課題も抱えている。韓国半導体の好調は、厳密に言えば、メモリー半導体に限られている。世界の半導体市場の80%強を占める非メモリー半導体に関しては、韓国は世界市場の5%に過ぎず、世界ランク30位以内に韓国メーカーは入っていない。スマホ向けアプリケーション・プロセッサー(AP)市場では米クアルコムが独走している。アップルやメディアテック、サムスン電子もAPを生産しているが、クアルコムのシェアを揺るがす水準ではない。世界のスマホの半分がクアルコムのAPを搭載している。

 韓国は非メモリー産業ではフォロワーであるうえ、コア技術も脆弱で、日米台に比べてソフトウエアの技術力も落ちる。

新規需要で今後の見通しも明るい

 専門家は、今後の半導体市況は継続的に成長すると予測している。既存の市場を維持しつつ、車載やモバイル、IoTとフレキシブル・デバイスといった新規需要が見込まれるからだ。もちろん、メモリー半導体の単価下落は避けられないものの、ハイエンドな半導体への置き換え需要が増えている。また、IoTとフレキシブル・デバイスのような新製品にも半導体の搭載が不可欠である。

 このように新規市場が拡大する反面、競争の構図はむしろ以前より穏やかになっている。果敢な設備投資競争を展開したあげくに、供給過剰を招いていた「半導体チキンゲーム」の時代は終焉したのである。

 90年代末、日立や富士通が半導体事業を断念し、2000年代中盤には独キマンダとエルピーダ・メモリが市場から撤退。現状のDRAM市場は、サムスン電子、SKハイニックス、マイクロンという3強の構図に整理されている。

中国の挑戦は見逃せない

 だが、過去には、フロントランナーとしての地位に安住したがゆえに、フォロワーに逆転されたという事例はいくらでもある。韓国でも「メモリー半導体だけに満足してはいけない」という指摘が絶えない理由だ。幸いにも、現状では20nm技術や3D積層技術などでライバル国に先駆けている。処理速度を飛躍的に高めた次世代製品のDDR4と低電力DDR4についても、サムスン電子とSKハイニックスが先行して量産に成功している。

サムスン電子の最新製品の20nm 8Gb DDR4
サムスン電子の最新製品の20nm 8Gb DDR4
 DDR4の場合、15年から本格的な市場導入が予想される。それまではDDR3が主流になるが、処理速度が2倍速い次世代半導体のDDR4とモバイル向けの低電力DDR4がどれほど素早く市場に広がるかが関心事である。

 今後、中国の挑戦も見逃せない。中国は世界半導体需要の30%程度を消費しており、中国政府が半導体産業の育成に積極的な取り組みを続けている。まだ韓国が強みを持つメモリー半導体には本格的に参入していないが、攻勢に転じる時期は遠くないといわれている。

新技術・新製品でさらなる成長へ

 韓国がメモリー半導体強国の位置づけを維持・強化するためには、未来市場に対する技術開発と設備投資が不可欠であろう。15年に注目される半導体の新技術・新製品としては、14nmのフィン型FET(FinFET)非メモリーが挙げられる。サムスン電子は早ければ年内にも韓国器興工場と米オースティン工場で量産に踏み切る。

 また、NAND型フラッシュをベースに作るSSDは、既存のHDDを一気に代替する見通しだ。同分野トップのサムスン電子はシェア拡大を狙っており、SKハイニックスも徐々に力をつけている。さらに、車載半導体市場の急成長が予想されるなか、LG電子も虎視耽々と同市場への本格参入を模索している。

 なかでもIoTに関しては、メモリーはもちろん、非メモリー半導体の需要が重要な分野だ。超高速のインターネット網など情報通信インフラに優れた韓国の強みを生かせる分野であろう。

 韓国半導体産業の成功の方程式は、好況期には競争相手に先行した果敢な投資によってプロセス技術や量産能力の優位を持続しつつ、不況時にも失敗を恐れず迅速な経営判断で大規模投資を断行し、常に市場を先取りすることだ。今後、将来の需要に対する的確な市場分析と生産量、投資速度などを誤らなければ、韓国半導体が短期間に競争力を低下させる可能性は低いとみられている。

半導体産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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