電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第71回

ベトナムの半導体国産化プロジェクト


2015年はファブ建設の節目に

2014/11/14

 国家プロジェクトとして半導体の国産化を計画しているベトナムでは、9月と10月に半導体ビジネスに関するカンファレンスが相次いで開催された。SEMIが主催した「第2回 SEMI Vietnam Semiconductor Strategy Summit」と、ベトナム国立大学ホーチミン校傘下の半導体設計機関ICDREC(Integrated Circuit Design Research and Education Center)が主催した「第3回 Solid State Systems Symposium」(通称4S)である。筆者は後者に参加する機会を得た。

4Sにはベトナム国内外から多くの学術関係者が集まった
4Sにはベトナム国内外から
多くの学術関係者が集まった
 2年に一度開催される4Sは今回、「第17回 International Conference on Analog VLSI Circuits」(AVIC2014)との合同カンファレンスとして開催された。半導体・IT関係の人材育成を目的とした学術機関が中心となって、回路設計やシステム設計の技術や成果を発表する場だ。一般社団法人電気学会(IEEJ)が協力したこともあり、4Sには日本から約50人の学術研究者らが集まったほか、ベトナム国内外から200人以上が参加。総数で約50本の発表があり、パネル展示なども常設され、3日間の日程を成功裏に終えた。

 この2つのイベントから、ベトナムにおける国産化プロジェクトの現状をまとめてみた。

国産化プロジェクトの経緯

 ベトナムの半導体市場は2013年時点で24.8億ドル(In-Stat調べ)で、2015年までは年率25%前後で伸びると予測されている。以降も30%近い伸びが継続すると見込まれているが、現在はそのほとんどを中国などからの輸入に頼っているため、国防やセキュリティーの観点からRFIDなどの通信ICやミックスドシグナルICなどの国産化を決断。2011年7月に国産ファブの運営を担当することになるSaigon Industry Corporation(略称CNS)が1.9億ドルを投じてホーチミン市に前工程工場を建設する計画を公表し、これを受けて、ベトナム政府が2020年までに国産化を目指す9製品の1つにICを選定した。プロジェクトはベトナム人民委員会からホーチミン市に委譲され、2013年春にはホーチミン市の主導で「ホーチミン半導体産業協会」(HSIA)が設立されている。

ICDRECが開発したIC(4Sでの発表より)
ICDRECが開発したIC(4Sでの発表より)
 プロジェクトでは、半導体生産額1億~1.5億ドル規模、半導体外資企業5社の誘致、エンジニア2000人養成、電機産業のインキュベーション30社、などを2017年までに達成する目標として掲げており、「国産ファブ建設」と「IC設計」の2プログラムを進めている。IC設計に関しては、2011年11月からRFIDの開発がICDRECの主導によってスタートしている。4年間で690万ドルの予算を投じ、ISMバンドでHF13.56MHzおよびUHF860~950MHzの技術・アプリケーション開発を目指している。

200mmファブの建設計画

 一方、国産ファブの建設はCNS主導で計画が進められている。SEMI Vietnam Semiconductor Strategy Summitで発表された内容と、4SでHSIA関係者が説明した内容をあわせると、ホーチミン市郊外の国営産業団地「サイゴンハイテクパーク」(SHTP)に200mmウエハーファブを建設し、Phase1として月間投入能力5000~1万枚(年間12億チップ)が生産できる能力を備える。当初は製造プロセスとして180nmを採用するが、Phase2の拡張時にはウエハー投入能力を2倍に増やし、130nmまで微細化することも視野に入れる。Phase1での投資額として、少なくとも数億ドルを想定。「投資額として3億ドル以内を考えている。プロセスが90nm以下になると、投資額が10億ドルを超えてしまうため、ベトナムにとっては高価すぎる」(HSIA関係者)と述べた。

SHTP(第1期)の見取り図
SHTP(第1期)の見取り図
 SHTPには、すでに半導体世界最大手のIntelが巨大な後工程工場を構えている。ノートブックPCと携帯端末向けチップセットの後工程を担当しており、まだ工場のすべてが埋まっているわけではないが、フル実装時には3000人以上を雇用し、総投資額が10億ドルに及ぶ世界最大の後工程拠点になる予定。日本企業では日本電産グループが複数の製造拠点を整備しており、Intelに次ぐ規模の投資を行っている。ホーチミン市中心部からSHTPまでは車で約40分の距離があるが、これをつなぐ地下鉄の工事も始まった。全線開通は2020年の予定で、交通アクセスが格段によくなりそうだ。

人材不足への対応がカギ

 CNSが示しているロードマップによると、国産ファブの建設は2015年からコスト見積もりや装置選定といった具体的な動きに移る予定。現在は投資への承認が下りる直前という時期にあたるが、一方で、現地の関係者からは「本当に200mmファブを建設して世界の競合と渡り合っていけるのか」という懸念も感じられる。ベトナム人は、大言壮語を慎み、成果を皆で分かち合おうとする気質・文化があるからかもしれないが、「インフラ関連の国内需要に対応するなら、もっと効率的なミニファブでもいいのではないか」という選択肢も視野にあるように見受けられる。

 その背景にある理由の1つが、半導体産業を支える人材の不足。半導体産業の歴史が浅いベトナムには、設計エンジニアすら少なく、ファブを運営できるプロセスエンジニアに至ってはほぼ皆無だ。こうした状況を改善するため、プロジェクトの目標にエンジニア2000人の養成を掲げ、海外で活躍中のベトナム人技術者にUターンで活躍してもらうという取り組みも進めているようだが、現在の育成策は海外の大学や研究機関に研修生を派遣する「設計エンジニアの強化」が中心になっている。4Sでは、2000人育成策のうち、工場オペレーターやプロセスエンジニアといった職種別の比率をどう考えているか、という質問が飛んだが、詳細な回答はなかった。


 いずれにせよ、2015年はベトナム半導体プロジェクトにとって、国産化に向けた取り組みが動き出す1つの節目になりそうだ。日本とベトナムは、すでに半導体の学術分野では関係性が深く、4Sの参加者数に見るとおり、大学教授を中心に親密なリレーションが構築できている。チップ製造の分野でも同様の関係が構築できれば、日本の半導体産業にとって必ずプラスの要素が創出されるはずだ。

半導体産業新聞 編集長 津村明宏

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