電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第55回

中国の太陽電池復活の影に残る不安材料


単年14GW導入目標は実現できるか?

2014/7/25

 3年に及ぶ太陽電池不況が収束に向かい、中国の太陽電池メーカーは長きにわたった「太陽電池氷河期」を何とか越冬した。ただし、サンテックやチャオリソーラーのように冬を越せずに経営破綻した企業もいた。この太陽電池不況は欧州諸国の経済停滞が引き金となった。その対策として、欧米諸国は中国製太陽電池に対して反ダンピング制裁を開始。また中国経済の成長鈍化、人件費の上昇など、中国メーカーにとって外的にも内的にも経営悪化の要因が重なった。だが、何といっても、中国企業は「過剰設備」に苦しめられた。工場の稼働率が低下すればするほど、赤字が膨らみ続けるマイナススパイラルに陥った。

輸出できずに在庫がたまる中国の太陽電池メーカーの工場の様子(2011年11月撮影)
輸出できずに在庫がたまる
中国の太陽電池メーカーの工場の様子
(2011年11月撮影)
 太陽電池投資がイケイケ・ドンドンだった3年間は、キャパアップ(生産能力の増強)しない日本メーカーを横目で見ながら、中国企業は倍々ゲームで業績を押し上げて勝ち誇っていた。しかし、この3年間は短期急増のキャパアップがかえってアダとなってしまった。日本メーカーからの委託生産をありがたく思いながらも、盲目的な設備投資は結局、しっぺ返しを食らうことになると反省せざるを得なかった。

 不況期にはマーケットが縮小すると思いきや、実際はフタを開けてみたら、2013年の世界太陽光発電市場は過去最高の37GWを記録した。12年の29GWから30%近い成長となった。数字だけみると、どこが悪いのかと疑問が浮かぶ人もいるだろう。しかし、12年に17GWあった欧州市場は、13年には10GWちょっとへと4割も縮小した。世界シェアも60%から30%に萎んだ。それにもかかわらず、世界の太陽光発電市場は約30%も拡大したのだ。

 欧州勢の落ち込みをカバーしたのは、補助金でカンフル剤を打った日本と米国と中国の3つの市場だった。米国は12年の3GWが5GWに、日本は2GWが7GWに大化けした。そして、これらを超える勢いで急成長をしたのが、中国だった。中国は12年の3.5GWから12.9GWに急拡大した。すでに何年も前から、太陽電池の製造では世界一位だったが、13年からは太陽電池の生産と消費の両面で世界最大国となった。

 中国の太陽電池市場が世界一になることは、実は以前から予想されていた。中国は09年に米国を追い抜き、世界最大のエネルギー消費国になっていた。人口が10倍の中国は、日本の5倍以上の電力が必要なのだから、これは当たり前のことだ。特に中国の電力発電は、現地で採掘できる安価な石炭による火力発電に8割を依存している。

PM2.5で視界不良となった上海市内の様子(13年12月撮影)
PM2.5で視界不良となった上海市内の様子
(13年12月撮影)
 中国では11年ごろまで、CO2削減のためには石炭火力発電を減らすことが最も効果的で、重要だと考えられていた。しかし、12年以降はPM2.5(微小粒子状物質)が発癌や呼吸器障害などの原因であると認知されるようになり、火力発電を減らすことは政府の必須命題となった。そのために太陽光発電は最適の発電方式ともいえる。

 中国政府は15年までに累計35GWの太陽光発電設備の導入を目標に掲げている。13年に13GW近くを導入したので、14年と15年は2年間で15GWを導入すれば目標値を軽くクリアする。すでに政府は14年だけで14GWの導入目標を発表しているので、政府目標はほぼ1年前倒しで達成される。

トリナソーラー塩城工場(モジュール製造)
トリナソーラー塩城工場(モジュール製造)
 太陽電池補助金制度のおかげで、中国の太陽電池メーカーの大手は稼働率100%のフル稼働が当たり前になっている。「キャパが足りなくなれば、生産効率の高い新型装置を補充しよう」(中国の大手太陽電池メーカー幹部)ということになる。トリナソーラーは14年5月に湖北省仙桃工場を稼働(セル年産能力430MWを計画)し、江蘇省塩城工場(モジュール製造)を500MWに拡張した。カナディアンソーラーはシリコン材料製造最大手のGCLと共同出資で江蘇省阜寧県に年産能力1.2GWのセル工場を立ち上げる。

中国北西部の砂漠地帯に建設されたメガソーラー
中国北西部の砂漠地帯に建設された
メガソーラー
 しかし、「14年の導入目標の14GW説」に異論を持つ業界人もいる。彼の言い分はこうだ。13年の約13GWの内訳は、ほぼすべてがメガソーラーだった。青海省や甘粛省、新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区などの内陸奥地にメガソーラーが大量に建設された。砂漠のような特に産業のない安い土地を使い、安価な多結晶型の太陽電池を敷き詰めて、低コストでメガソーラーを建設した。しかも、13年は工場の稼働を埋めるために、太陽電池メーカーは採算度外視で太陽電池を作り、売りまくっていた。
 14年の14GWの政府目標の内訳は、メガソーラーが6GW、分布式発電が8GWとなっている。中国語でいう「分布式発電」というのは、日本の太陽電池業界人の感覚でいえば、事業者向けルーフトップと理解すればよいだろう。これがいきなり8GWだ。

 メガソーラーならば、1つの案件で数十MWというケースも多い。巨大メガソーラーならば、何期かに投資を分けてGW規模という案件もある。しかし、工場やショッピングセンターの屋根では設置面積に限りがある。分布式でも補助金はあるのだが、1つ1つの案件規模が小さく、屋根の形状などにより施工条件も異なり、メガソーラーの建設に比べて細かな手間が多い。太陽光発電プロジェクトに融資する金融機関は、補助金はあっても分布式発電の案件には融資をしたがらないでいる。その証拠に、年間8GWの分布式発電の導入目標に対して、1月からの4カ月でたったの200MWしか導入されていない。

 「中国はやる気になったら日本とは桁違いの投資をする」とか「計画経済の中国にとって、目標とは必達が条件なのだ」などと説明する人が多い。私も中国で10年以上取材してきて、そのとおりだと思ってきた。日本のモノサシで測ると中国ビジネスは失敗するという感覚に大いに賛成だ。しかし、この14年の14GWの導入計画だけは、よほど注意して見ておかないとならないだろう。15年までの累計導入目標を実現するだけなら、年間7~8GWで十分に足りるのだから。

半導体産業新聞 上海支局長 黒政典善

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