電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第51回

スマホ部品の「隠れた主役」、高周波フィルター市場が活況


搭載員数上昇で爆発的成長遂げる

2014/6/27

 スマートフォン(スマホ)の拡大を受け、半導体業界ではアプリケーションプロセッサー(AP)やベースバンド(BB)など、いわゆるモバイルSoCが主役の地位を確固たるものにしている。ファブレス各社のモバイルSoC戦略によって、ロジックファンドリーの設備投資計画が大きく左右され、結果的に半導体製造装置メーカーの装置受注につながるという構図だ。少なくともここ2~3年はモバイルSoCが市場を牽引しているといっても過言ではない。

 モバイルSoCにとどまらず、スマホの登場で市場が拡大した半導体や電子部品は枚挙に暇がない。半導体ではDRAMやNANDフラッシュなどのメモリー、カメラ向けのCMOSセンサー、ディスプレーでもLTPS(低温ポリシリコン)などの高精細液晶が大きく伸びた。しかし、意外と知られていないが、モバイルSoC並みに驚異的な成長を遂げているデバイスがあるのを忘れてはいけない。それが高周波フィルターだ。

 SAW(表面弾性波)に代表される高周波フィルターは、必要な周波数を通し、不必要なものをフィルタリングするもので、スマホでは不可欠なRF部品である。スマホの生産・出荷台数増加に加え、1台あたりの搭載員数も爆発的に伸びており、スマホ市場拡大の恩恵を最も享受している「隠れた主役」である。
 今回は、高周波フィルターの市場動向を展望しつつ、各社の取り組みや今後の技術トレンドを整理していく。

中国スマホ「5モード」推奨も追い風

 高周波フィルターを「隠れた主役」という存在に押し上げている理由が、搭載員数の飛躍的な拡大だ。GSMや3G、さらには4G(LTE)など端末1台で様々な通信方式(モード)に対応する必要があり、さらに同じ通信方式でも国や地域によって周波数帯(バンド)が異なっており、これが高周波フィルターの需要を牽引している。

Galaxyシリーズのようなハイエンドスマホには最大20個のSAWデバイスが搭載されている
Galaxyシリーズのようなハイエンドスマホには最大20個のSAWデバイスが搭載されている
 SAWデバイス大手の村田製作所によれば、携帯電話1台あたりのSAWデバイスの搭載員数は旧来のフィーチャーフォンでは2~3個、ローエンドスマホでは4~6個、ミドルレンジスマホでは6~8個、ハイエンドスマホでは実に15~20個も搭載されている(13年12月開催のインフォメーションミーティング資料から引用)。さらに、これまで3Gがメーンであった中国スマホも、13年末からTD-LTEをはじめとする中国版4Gのサービスが本格的にスタートしたことで、高周波フィルターの需要を押し上げている。付け加えると、中国の4Gスマホにおいては、チャイナモバイルなどの通信キャリア大手が3モードではなく、5モード(TD-LTE/FDD-LTE/TD-SDMA/W-CDMA/GSM)/12バンドを標準仕様と位置づけており、高周波フィルターの搭載員数が米アップルのiPhoneなどハイエンドスマホに迫る勢いだ。

 14年のスマホは前年に対して20%以上伸びて13億台に迫る出荷が見込まれている。単純に出荷台数が増えることに加えて、1台あたりの搭載員数が増えていることを考慮すれば、いかに高周波フィルター市場が活況を呈しているかが分かる。SAWデバイスは現在、年間150億個を超える需要があるとされており(デュプレクサー含む)、近い将来、200億個を超える需要に達することが確実視されている。

村田製作所は4割増記録

 高周波フィルター市場の活況は、参入各社の業績を見てもうかがえる。市場拡大の恩恵を最も受けているのが村田製作所だ。同社は通信モジュールに内蔵するSAWデバイス(フィルター/デュプレクサー)を生産しており、この分野では独り勝ちといって良い状況だ。13年度(14年3月期)の通信モジュール売上高は、前年度比42%増の2600億円と非常に高い伸びを示している。また、SAWデバイスのファンドリービジネスを開始した新日本無線も、12年度に2億円程度であったSAWデバイス売上高が、13年度には前年比6.5倍の約13億円と大きく成長を遂げている。


 需要増に対応すべく、参入各社では生産能力の増強を進めている。村田製作所ではSAWデバイスを生産する金沢村田製作所などを中心に、前期比で10~15%の能力増強を進めるほか、太陽誘電も日立製作所が所有していた東京都青梅市の半導体工場の一部を取得(現:太陽誘電モバイルテクノロジー)し、増産対応を図っている。

 また、材料・装置業界も同様に業績が拡大基調にある。SAWデバイス用ウエハーを手がける住友金属鉱山では、生産子会社の住鉱国富電子(北海道岩内郡)でタンタル酸リチウムおよびニオブ酸リチウムウエハーの増産を13年末に決定している。さらに、日本ガイシなども異種材料を貼り合せたSAWデバイス向け複合ウエハーを事業化するなど、新規参入なども活発化している。

 半導体製造装置メーカーにとっても、高周波フィルターのような「非半導体」は大きなウエイトを占めつつある。ダイサーやグラインダーなどパッケージ装置を手がけるディスコのダイサー売り上げのうち、「非半導体」の比率は約22%にまで達しており(13年度ベース)、同社によれば、今後も緩やかに非半導体比率が上昇していくと見ている。

BAWフィルターという対抗勢力

 一方、技術トレンドなどに目を移すと、今後の市場動向も少なからず予見できる。その1つがBAW(バルク弾性波)フィルターの存在だ。酸化物ウエハーを用いるSAWデバイスに対して、BAWフィルターはシリコンウエハーを用いており、送受信間隔が狭いところに向くことや、高周波対応に優れていることが特徴だ。米Avago Technologiesが手がけるFBARなどがその筆頭だ。

 今後の高周波化やバンド近接化に対してはBAWフィルターが有利とされる一方、SAWフィルターもデバイス構造を見直すなどして高周波対応を進めており、村田製作所いわく「高周波帯域においても従来のSAW技術で対応できる範囲は広がっており、BAW/FBARの領域においても大部分をカバーできている」としている。

 また、温度変化時の周波数シフト低減を特徴とするTC (Temperature Compensated) -SAWも注目を集めている。端末内部の高密度実装化に伴い、部品の発熱が問題となっており、これがSAWデバイスの周波数特性に悪影響を及ぼしている。これを解決すべく、参入メーカーではデバイス構造を見直して周波数シフトの低減を図っている。

 SAWデバイス市場は現状、村田製作所が4割、TDKと太陽誘電がそれぞれ2割ずつシェアを有する日系優位の市場。米系メーカーが得意とするBAWフィルターの脅威、さらにパワーアンプやスイッチなど通信モジュールを取り巻く周辺部品も米系メーカーの牙城であるが、是非とも日系SAWデバイスメーカーには、低迷する国内デバイス業界の救世主として、さらなる活躍を期待したいところだ。

半導体産業新聞 編集部 記者 稲葉雅巳

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