電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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アジア最大!香港エレクトロニクス・フェア訪問記 後編


IoTが生み出すビジネスシーズ
専門的相談に答える金融AIロボット

2019/7/4

 4月13日(土)~16日(火)に香港コンベンション&エキシビションセンター(HKCEC)で開催された、アジア最大のエレクトロニクスショー「香港エレクトロニクス・フェア(春)」と「インターナショナルICTエキスポ」(主催=香港貿易発展局〔HKTDC〕)のトピックを紹介する後編は、IoT技術を駆使して建設現場や交通、住宅などの分野向けに新しいビジネスシーズを生み出した企業をレポートする。

■建設現場をリアルタイムでモニタリング
 中国福建省厦門市に本拠を置くXiamen Risit Machine Information Technologyは、IoT技術で建設機械をモニタリングすることで、建設工事現場の安全性向上に貢献するシステムを開発している。
 例えば、工事用クレーンのワイヤーをセンサーでリアルタイムにモニタリングすることが可能で、工事の管理や安全性向上を実現できる。また、ワイヤーの状態だけでなく、クレーンの高さや風速、重量、周辺環境、PM2.5の濃度、汚れや埃などのパラメーターも計測できるセンサーを活用することで、様々なパラメーターを即時にモニタリングできる。結果はスマートフォン(スマホ)で確認できるため、現場にいなくても、中国国内のどこにいても、現場を常にリアルタイムで把握できる。汚れや埃が限界に達した場合は、自動的にシャワーをかけて洗浄するという機能も付与できる。
 こうしたセンサーによるモニタリングだけでなく、AIやビッグデータ技術も併せて活用することで、工事現場のデータをディープラーニングして次の現場に活かすといったことも可能だ。同社は福建省の企業だが、すでに中国全土に事業を展開している。海外展開も視野に入れており、マレーシアで商談を展開中だという。

■精度99%、世界が認めたNECの顔認証技術
 NECの香港現地法人であるNEC香港は、香港で実用化しているバス会社向けのIoTシステムを紹介していた。このシステムは、バスの運行情報を集中管理し、利用客のスマホアプリと連携させることで、利用客がバスの運行情報や待ち時間を直ちに把握できるというもの。現在香港のバス会社1社に採用されているが、2019年末には他のバス会社とも連携して、他社のバス情報も分かるようになるという。
 また、荷物の宅配業者も導入準備中で、配達車が今どこにいるかをリアルタイムでトラッキングできるようになっているという。
 このほか同社は、高精度の顔認証技術も紹介していた。世界トップクラスの性能を持つ同社の技術は、米国国立標準技術研究所(NIST)が実施したベンチマークテストにおいて認証精度99.2%という結果を出し、最高の評価を受けている。すでに18年12月にNEC本社が「セブン―イレブン三田国際ビル20F店」に導入し、顔認証による決済を実現している(店舗利用はNECグループ社員限定)ほか、空港への導入も進んでいるという。

■通話や買い物、家電制御まで何でもござれ
Nasket Retailが出展した「スマートスピーカー」
Nasket Retailが出展した「スマートスピーカー」
 タイのNasket Retailは、ビデオ通話やEコマース、さらには遠隔診療などのサービスも可能なオールインワン型住宅用タブレット端末「スマートスピーカー」を紹介していた。バンコク市内ですでに実用化されており、バンコク在住の日本人で知らない人はいない、というほど普及が進んでいる。
 スマホが苦手な高齢者にも使いやすいインターフェースとなっており、バンコク市内のスーパーマーケットと連携して在宅で買い物と支払いができるほか、警察や消防署にも連絡でき、医療機関とつながることで遠隔診療も可能になる。さらに、他の情報端末とつながることで、家電製品を制御するスマートホーム用コントローラーとしても活用できる。
 海外展開も目指しており、日本企業とも商談を進めているという。

■窓口案内など接客だけでなく相談も
Xiao―iの金融向けAIロボット
Xiao―iの金融向けAIロボット
 中国で先進的なAI技術を開発・提供しているXiao―iは、主に金融機関をターゲットにしたAI技術と、AIを駆使した接客ロボットを紹介していた。このロボットは、子供にも受ける可愛らしいインターフェースを持ちながらも、単なる窓口案内などの接客だけでなく、金融機関利用者の専門的な問い合わせや相談にも対応できるという。比較的高度な相談内容にも応対可能で、土日の緊急事態の対応もできるという。現在は中国国内のみでサービスを行っているが、言語は英語に対応可能で、将来は中国以外への展開も視野に入れているもよう。

■教育用スマートシティシステムは実用も
 香港インフォメーションセキュリティアカデミーは、都市の様々な情報を集積して分析できるスマートシティ情報システムを実演していた。アカデミーであるため教育用として開発されたようだが、ビジネスユースでも使えるだけの能力があるという。
 また、同アカデミーのブースでは、コーヒーショップなどに導入できるパワーバンクも出展されていた。これは、スマートフォン(スマホ)の充電に使う蓄電池にワイヤレス給電で充電する大型の充電ステーションと言えるもので、このシステムを使うことで、コーヒーショップの顧客に有料で充電器を提供できるうえ、顧客のスマホにターゲット広告を配信するなどのサービスも提供できるという。すでに香港では実用が始まっており、1時間あたり4香港ドルで充電器が利用できる。

■スマホアプリ連携で家電制御
 RemotecグループのConexumは、スマートリビングに適した家電コントローラーを出展していた。Wi-FiやBluetoothに対応しており、家電機器とつながることで、スマホのアプリを利用してそれらを自在に制御できる。日本の中部電力とも提携しており、中部電力はこのコントローラーを「ここりも」の名称で販売している。

■マイクロソフトの空港向けAI技術
 スマートシティ関連では、マイクロソフトがスマートシティ向けAI/IoT技術を紹介していた。空港にIoTセンサーを組み込み、フライト情報や手荷物の情報なども捕捉できる。また、高解像度の画像認識技術を駆使し、手書きのサインを識別して旅行者個人を特定することも可能という。

■声を認識するBLEチップ
 半導体メーカーも出展していた。中国のファブレスメーカー、Actionsは、Bluetooth Low Energy(BLE)対応のワイヤレス通信チップを開発している。特徴は、ユーザーの声を認識して、家庭内の照明やテレビの制御などが可能な点だ。複数ユーザーの声の違いも認識できるという。このほかにも、スマホ向けの自動翻訳アプリ向けチップやモジュールなども手がけている。

■スマートウオッチが1週間充電不要
 STマイクロエレクトロニクスも出展していた。AIやIoT機器向けのマイコンやSoCを出展していたが、なかでも注目を集めたのが、スマートウオッチ向けのARM―Cortex搭載32ビットマイコン「STM32」。超低消費電力が特徴で、スマートウオッチが1週間充電しなくても使えるという。

■大容量バッテリーメーカー、EV向けも
 中国深センの電池メーカー、GOLFは、様々な形状の大容量リチウムイオン電池を出展していた。スマホ向けバッテリーが主力品で、3万mAhという大容量品もラインアップしている。車載向け電池も手がけており、中国ではEVメーカーにも採用されている。

■仏タレス、サイバーセキュリティーの中心を香港に
 フランスのタレスの香港現地法人は、サイバーセキュリティーコンサルティング事業を紹介していた。同社は鉄道用信号システムが得意で、日本のJRや中国の鉄道会社に採用されている。香港にも同事業で進出していたが、現在は信号システムで培った技術を利用し、サイバーセキュリティー事業も手がける。香港には、アジア太平洋地域を統括するオペレーションセンターを設けているが、東京オリンピック・パラリンピックを機に、東京にも事務所を設置する可能性があるという。

(編集委員 甕秀樹)

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