電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第142回

中国家電メーカーの2016年事業戦略


シャオミーの家電乱入、海外企業の買収、自動化設備の内製化

2016/4/15

家電販売を始めたシャオミー

シャオミーは4月に電気炊飯器の販売を発表
シャオミーは4月に電気炊飯器の販売を発表
 中国スマートフォン(スマホ)ベンチャーの雄のシャオミーは3月末、「米家(MIJIA)」ブランドの圧力IH炊飯器の販売を発表した。販売価格は、同程度の機能を持つ海外ブランドの電気炊飯器と比べて3分の1ほど(999元、約1.7万円)だ。日本の家電メーカーで電気炊飯器を開発していた日本人技術者を登用し、タイガーや象印の生産委託先でもある中国資本の伊立浦電器に生産を委託する。マーケティングと製品設計、ネット販売は自社でこなし、コストがかさむ製造工程は外部企業に委託する「スマホで成功したビジネスモデル」を踏襲する。15年には、すでにスマホと連携する空気清浄機(899元、約1.5万円)も発売済みだ。販売中の空気清浄機や浄水器はいずれ、「米家(MIJIA)」ブランドに統合して世界に通じる中国産家電ブランドへの脱皮を図ろうとしている。

飽和市場に苦戦する家電ビジネス

 中国の家電メーカーを取り巻くビジネス環境は、この10年で急変した。04年ごろから不動産取得ブームが起き、3種の神器と呼ばれる洗濯機や冷蔵庫、テレビの販売が拡大を続けた。上海や北京などの沿海大都市部では、マンションの各部屋にエアコンを取り付ける家庭が当たり前になっていった。08年のリーマンショックが起きるまで、すさまじい勢いで右肩上がりの成長を続けた。世界金融危機が起きた当時は、中国政府がエコ家電補助金制度を導入し、白物家電の販売は大きく落ち込むことなく上昇を続けた。

インチ650円程度で販売される32型液晶テレビ
インチ650円程度で販売される32型液晶テレビ
 しかし、この数年は不動産バブル崩壊を抑止するため、全国的にマンション投資が激減した。これまでに高騰しすぎたマンション価格に容易に手が出せなくなった一般庶民も、マンション購入を手控えるようになった。また人件費の上昇により、家電メーカーの業績も軒並み悪化した。中国の家電業界ビジネス環境は厳しい状況が続いている。そうしたなかで、シャオミーのようなデザイン家電を相場の半額以下でネット販売するビジネスモデルが登場し、付加価値の高いスマートテレビや空気清浄機、調理家電などの分野でも価格破壊が起きた。中国の家電業界は今後さらに「勝ち組」と「負け組」の区別がもっと鮮明になるだろう。

GE、東芝の家電事業を買収

 中国の「勝ち組」家電メーカーは16年に入って、人民元の資金力を背景に、海外企業の買収に積極的だ。ハイアール(海爾集団、山東省青島市))は1月中旬、54億ドル(約6076億円)で米GEの家電事業の買収に合意した。これにより、ハイアールはGEが米国に保有する開発部隊と販売チャネルを入手する。

外資ブランドが中国の国産品に押される洗濯機市場
外資ブランドが中国の国産品に押される
洗濯機市場
 ミデア(美的集団、広東省仏山市)は3月末、東芝の白物家電事業を537億円で買収すると発表した。しかも、ミデアは今後40年間、東芝ブランドを使うことができる契約になる。ミデアのことを知らない日本人から見ると、「聞いたことがない中国の家電メーカーが日の丸ジャパンの老舗家電メーカーを買収した」という印象を受けるかもしれない。しかし、売上高で比べると、東芝(家電事業)の約5000億円(営業損失は821億円)に対して、ミデアは約5倍の2.5兆円の規模がある。

人件費の高騰で、産業用ロボットを自前で生産

 ミデアについてもう少し解説すると、ミデアは年間1000万台の家庭用エアコンを出荷する中国のエアコン2位の企業だ。広東省仏山市と中山市、安徽省合肥市など全国15カ所に工場を展開している。自社工場で使用する一部の産業用ロボットも内製し、15年9月には安川電機と共同出資で産業ロボットの販売会社も設立した。16年1月にロボットアームなどの自動化設備を製造するエフォート(埃夫特智能装備、安徽省蕪湖市)の株式の約17%を取得した。エフォートは中国の自動車メーカー向けに自動化設備を供給しているメーカーで、ミデアは産業用ロボットを今後の中核事業に育てていく方針だ。

省エネ対応が進む中国製エアコン
省エネ対応が進む中国製エアコン
 エアコン最大手のグリー(格力電器、広東省珠海市)も産業用ロボット事業への注力が目立つ。グリーは年間1400万台のエアコンを生産し、広東省珠海市、重慶市、安徽省合肥市など7都市に工場を展開し、従業員数は8万人を超える。グリーは武漢市に新工場の建設を予定し、50億元を投資して自動化設備やCNC(コンピューター数値制御)工作機、精密金型などの生産を計画している。

 これらの「勝ち組」は、企業買収や新事業参入などにより、着実に次の時代に向けた戦略を進めている。その一方で、苦戦している企業も多い。コンカ(康佳集団、広東省深セン市)は売上高が前年比2.9%減。チャンホン(長虹電器、四川省綿陽市)の営業利益は98%減。人件費の上昇や物流コストの増大、海外輸出の停滞、ネット企業の家電参入など厳しい状況が続き、新たなビジネス戦略を打ち出せない「負け組」と「勝ち組」の差はますます鮮明になるだろう。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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