電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第124回

北九州学研都市、ヘルスケアアプリ研究開発へ


産学連携で血圧、熱中症分野がターゲット

2015/12/4

シンポジウム「からだエレクトロニクス」を開催

FAIS半導体・エレクトロニクス技術センター センター長 丸田秀一郎氏
FAIS半導体・エレクトロニクス技術センター
 センター長 丸田秀一郎氏
 北九州産業学術推進機構(FAIS)は10月23日と24日、北九州学術研究都市(北九州市若松区)において「産学連携フェア」を開催した。このなかでFAISの組織の1つ、半導体・エレクトロニクス技術センター(丸田秀一郎センター長)がコーディネートした「FAIS北九州医歯工連携研究会&NEDIA Day 九州ひびきの コラボレーションシンポジウム」が開催された。

 テーマは「からだエレクトロニクス」と銘打ち、血圧をテーマに講演が組まれた。高血圧は、脳卒中、心筋梗塞、認知症のリスクを高めるといわれ、日常的な血圧管理が必要とされている。画期的なセンサーを使い、塩分や睡眠などを測定する技術開発の取り組みのほか、医療現場のニーズに対応するインピーダンスを用いた新たな長時間連続血圧測定法の開発や、個別光学部品の組立によらないマイクロマシニングという技術を用いて研究開発した、動きながら測定可能な血流量センサーの開発状況などの話があった。

「FAIS北九州医歯工連携研究会&NEDIA Day 九州ひびきの コラボレーションシンポジウム」開催風景
「FAIS北九州医歯工連携研究会&NEDIA Day
九州ひびきの コラボレーションシンポジウム」
開催風景
 福岡大学スポーツ科学部教授の田中宏暁氏は「スロージョギング健康法」と題して基調講演を行った。氏によれば、人間の脚の構造は走るための構造になっている。歳をとれば、脚腰が弱るからとウォーキングをする人が多いが、脚のことだけを考えれば、ウォーキングでは大臀筋や大腿四頭筋、腸腰筋といった大きな筋肉が使われない。また、早く走っても乳酸菌の発生などで期待する効果は生まれない。
 一番効率のいい方法は、つま先着地で、人と話せるような速さでジョギングをして、疲れたらウォーキングに切り替えて、回復したらスロージョギングに戻すインターバルで、1日30分、週3回すれば運動不足は解消されるという。
 表とグラフで科学的に説明し、ヘルスケア機器に直接の関係はなかったが、身近な話題で参加者を惹きつけた。

 また、産業医科大学医学部不整脈先端治療学教授の安部治彦氏は「血圧に関わる疾患の研究と最前線」と「診断・治療に有用な連続測定技術の開発」の演目で講演した。突然死につながる失神を起こす患者で、原因が分からず治療ができないケースがあり、心拍は正常でも、血圧が異常に低かったりする。原因の究明には失神時の血圧測定が必要で、加圧式ではなく無痛で、30分おきに血圧測定ができるアプリの開発が待たれる。

半導体・エレクトロニクス技術支援センターの研究開発支援

 FAISの半導体・エレクトロニクス技術支援センターは、6分野の電子化・AI化実現の支援に取り組んでいる。その6分野は、「道路・交通・社会インフラ&防災・安全・安心」「第1次産業エレクトロニクス・食」「環境・低炭素(LED)」「脳情報活用ロボット」「ヒューマンインターフェイス型カーエレクトロニクス」、そして「医療・健康・介護」。特に出口として(1)車、(2)ロボット、(3)情報機器の電子化・AIの実現支援に注力している。

 いずれも電子化・AI化実現に世界がしのぎを削っている分野だが、同センターでは九州の地の利を活かして、九州で開発可能で、九州に最終顧客が存在しアジアにも展開可能な高付加価値商材、そして安定市場が絶対必須商材のエレクトロニクスアプリケーションの開発支援を第一に考える。
 それを考慮すると、これから急激にニーズが拡大する「医療・健康・介護」分野の新アプリ開発に自然と目が向く。九州地区では、IDMの協力工場として要素技術を持つ企業が新規事業を模索しており、ヘルスケア部門のウエアラブルの端末は市場が大きいとみて、コラボレーションで開発に取り組む流れもある。

3大学共同で先進的健康診断システムの研究開発

 北九州学研都市にキャンパスのある早稲田大学、九州工業大学、北九州市立大学は、「集積化先進的健康診断システム」の研究開発を進めている。このシステムは職場の作業環境を計測し、そこで働く人の極微小生体信号を取り出し集積して解析するもので、解析したデータはビッグデータ健康予報として、各職場にフィードフォワードする。

 研究は6チームに分かれて行っており、開発テーマは、チーム1「先進的センサーを駆使し如何に、生体・環境信号を取り付けるか?」、チーム2「取り出した生体信号を信号処理して、何が判るか?」、チーム3「判明した結果(データ)を無線信号などで出力」、チーム4「電子ブロックのLSI化、集積化、組み込みソフトの開発」、チーム5「応用アプリケーションの開発、例・生活や職場環境への応用」、チーム6「情報データ管理サービスシステム」。
 このほか、医歯工連携で「高信頼性多機能ウエアラブル・バイタルセンサーの用途開拓・普及事業」、「熱中症予防症のためのマルチセンサー開発と組み合せフュージョン処理」などに取り組んでいる。

 この先進的な電子デバイスを駆使した生体に関するアプリケーション分野の研究開発は、同学研都市の近くにある産業医科大学の協力が強みになっている。

北九州学研都市が「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点」のFS拠点に

 去る11月26日、北九州市は、科学技術振興機構(JST)から、「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点」のFS(フィージビリティスタディ、リサーチコンプレックス構築に向けた計画の実現可能性などについて検証し、計画の具体化・修正などを行う)拠点に採択されたと発表した。これは北九州学術研究都市を主対象としたもので、これを受け、ソーシャルイノベーションの実証実験フィールドとしての世界的優位性を高めるための戦略づくりを、16年度までJSTからの支援を得ながら進め、この戦略が認められれば、17年度から3カ年、「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点」として本格支援を受けることとなる。

 なお、北九州学術研究都市は地域振興の頭脳となるべき知的基盤を整備し、新産業の創出や地域産業の高度化、そして人材育成を図る狙いで01年に誕生。FAISも、地域の大学・研究機関と産業界の連携の支援機関として同時に発足した。

 現在、学研都市には北九州市立大学国際環境工学部・大学院国際環境工学研究科、九州工業大学大学院生命体工学研究科、早稲田大学大学院情報生産システム研究科、福岡大学大学院工学研究科の1学部4大学院、その他16の研究機関や50社ほどの企業などが集積。開設時に約300人だった学生数は、現在約2200人となり、そのうち留学生は約500人。大学教員・企業の研究者などを含めると、約3000人の人々が、教育・研究活動などを行っている。

電子デバイス産業新聞 福岡支局長 松山悟

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