電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第104回

実装技術からApple Watchを見る


第2世代は部品内蔵基板を採用へ

2015/7/10

Apple Watchはウエアラブル市場の成否を握る試金石
Apple Watchはウエアラブル市場の
成否を握る試金石
 今後のウエアラブルデバイス市場を占う意味で大きな注目を集めている米Apple社の腕時計型端末「Apple Watch」。販売地域も徐々に拡大しており、予想以上の滑り出しといえる状況ではないだろうか。ウエアラブルデバイスが市場に受け入れられるかどうかは、Apple Watchの売れ行きにかかっているといっても過言ではなく、弊紙が身を置く電子デバイス業界もその動向に注目を集めている。

 Apple Watchは半導体デバイスの観点から見ると、必ずしも最先端の部品を使っているわけでなく、どちらかというと、「こなれたデバイス」が多く搭載されている(表参照)。半導体デバイス業界では、最先端のデバイスが用いられると、それに伴って必要な製造装置や材料の需要が拡大するが、今のところウエアラブルデバイスを起点としたデバイス需要の拡大というのはあまりなく、あっても局地的なものに限られている。

 一方で、実装技術という観点から見ると、ウエアラブルは実に興味深いデバイスの1つだ。スマートフォンやタブレットのような画一的な形状ではなく、様々な筐体デザインが用いられており、独自かつ先端実装技術を採用しているケースも多く散見される。


重要なノイズ対策

 Apple Watchは内部に「S1モジュール」と呼ばれるモジュール製品が搭載されており、ほぼすべての半導体・電子部品がこのモジュール内に詰め込まれている。スマホやタブレット端末を分解すると、表面に多数の電子部品が実装されたマザーボードがあるのが一般的だが、Apple Watchは外見が違う。ただし、中身の構成は一緒で、基板上に部品が配置されている。違うのは、モジュールの外装をシルバーのメタル材料で覆っていることだ。
 実はこのメタル材はCu(銅)とステンレスの2層構造になっており、最外層はステンレス。内層のCuが担う役割はノイズ対策といわれており、スパッタリング技術を用いて樹脂(モールド)の上から成膜を行っている。

 こうしたノイズ対策は「シールディング」と呼ばれており、今回のApple Watchでも至るところに同技術が用いられている。具体的には、モジュール内には数多くのRF部品(Wi-FiやBluetooth、NFCなど)が実装されており、干渉を防ぐために、モジュール基板にメタルフレームをはめ込むかたちで、「部屋割り」がなされている。

 部品を実装する基板は、Apple Watchに限らず様々な形状をしており、ウエアラブルデバイスの場合は異形基板が前提となる。また、最終製品の形態にあわせて、リジッド基板の側面にFPC(フレキシブルプリント配線板)を採用するケースもあり、基板業界にとっては、ウエアラブルデバイスの登場は好材料といえる存在だ。

台湾・高雄に合弁ライン建設へ

 Apple Watchの実装~組立工程については、OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly & Test)企業の台湾ASE(日月光半導体製造)が一手に引き受けているといわれている。同社は数年前から傘下のEMS企業であるUSI社とのシナジーを生かし、半導体パッケージとEMS事業の融合を目指している。ウエアラブルデバイスの場合、モジュールベースでの実装が前提となるため、半導体パッケージとEMSの境界線が非常に曖昧になっており、同社が志向するビジネスモデルに合致した存在といえる。

 Apple Watchの生産を請け負うASEは次世代品の立ち上げに向けた準備も着々と進めている。先ごろ、TDKと部品内蔵基板「SESUB」に関して合弁製造契約を締結。台湾・高雄に合弁製造会社をASE 51%、TDK 49%の出資比率で設立し、16年4~6月までに顧客からの認定作業を終えたいとしている。
 このSESUB技術は目下、第2世代のApple Watchに用いられると見られており、長らく市場拡大が期待されていた部品内蔵基板がウエアラブルデバイスの登場を契機に、ついに本格的な市場拡大を果たしそうな状況になりつつある。

 部品内蔵技術は従来、半導体部品に関してはWLP(Wafer Level Package)などのパッケージ品での内蔵が主流であったが、このSESUBはベアチップ内蔵が可能である点が大きな特徴。さらに、チップ厚みを最大50μmまで薄化することもでき、基板の小型・低背化に大きく寄与することができる。

 日本発ともいえる部品内蔵基板技術にようやくスポットライトが当たってきた格好だが、とにもかくにも、Apple Watchをはじめとするウエアラブルデバイスの売れ行きが今後の市場拡大を決めることになりそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉雅巳

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