電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第431回

スマートロボットが生産性向上の切り札に


ソフトバンクグループが展開を加速へ

2021/12/10

 「日本の成長戦略の要になるのではないかと思っている」――、これはソフトバンクグループの孫正義会長が、2021年9月に開催したイベント「SoftBank World 2021」の基調講演で述べた言葉だ。では、何が日本の成長戦略の要になるのか。それは「スマートロボット」である。孫氏はスマートロボットを、スマボと略して呼び、「スマボがこれからロボットの世界を一瞬で塗り替えていくと思っている」と述べ、現在までに18社のスマボ関連企業に出資している。

 では、スマボとはなんなのか。まず孫氏は、現在製造現場などで活用されているロボットを携帯電話のガラケーになぞらえ、「ガラボ」と称した。ガラボは、作業を行う前に人がロボットにプログラミング、いわゆるティーチングを行い、動作を指示する。ロボットはそのティーチングにしたがって決まった動作、例えば、物の移動、溶接、組立、ねじ締め、塗装などを繰り返し行う。こういったロボットは非常に高速かつ正確に作業を行うが、新たに別の作業へ対応させるためにはティーチングを改めて行う必要がある。

 それに対してスマボはAIなどで学習し、自ら判断して作業するロボットを指す。スマボという言葉を初めて使ったのは、おそらく孫氏が初めてだろうが、こういったロボットは、AIロボット、知能ロボット、インテリジェンスロボット、自律型ロボットなど、様々な呼び方ですでにグローバルで開発・製品化が進んでおり、導入も増えている。

物流施設などで活用が増加

 例えば、搬送ロボットの一種であるAMR(Autonomous Mobile Robot)が、それにあたる。自律走行搬送ロボットや協調型自律移動ロボットなどとも呼ばれ、ロボットに搭載されたセンサーなどを活用し、ロボット自身が前後左右、路面の凹凸、段差などを検知して、目的とする場所まで自律移動するタイプのロボットだ。

 運搬ロボットとしては、無人搬送車や無人搬送ロボットなどとも呼ばれるAGV(Automatic Guided Vehicle)が、1990年代ごろから工場の製造ラインなどで使用され、物流施設でも多数使用されている。しかし、AGVは走行するために磁気テープやQRコードなどの誘導体が必要なため、誘導体が設置されていない場所での走行はできず、固定のルート上に障害物があった場合は停止し、走行ができなくなる。また、施設内のレイアウトを変更した際の対応力が低いことも課題だ。

 一方、AMRは走行させるために磁気テープやQRコードなどが不要。そのため施設内のレイアウトを変更した際にも走行ルートの再設定がしやすく、走行ルートにルート上に障害物があった場合もロボットが自律的に回避して走行する。ただし、AMRは走行に際して、導入する施設の地図データを取得する必要があり、その地図データを取得するための試走などに時間がかかることがある。また地図データを取得後、周囲の障害物の位置が移動するなど環境変化が生じると、正常に走行することが難しくなるといったケースもあり、加えて、一般的にAGVに比べてコスト高になることが多い。

 AMR以外では、インターネット通販の物流施設などで使用されているピースピッキング用のロボットも、スマボといえるだろう。これは、製造現場などで使用されているアーム型ロボットに、AI、3次元カメラ、センサーなどを高度に融合したシステムで、注文に応じた商品・個数を出荷箱に取り分けることができる。

 先にも述べたが、通常ロボットは使用時にティーチングという、動作や取り扱うものの形などをプログラミングする作業を行う。つまり、取り扱うものが変わると、新たにティーチングが必要となる。そのため、インターネット通販用の物流施設のように、大きさや形もバラバラな多品種の商品を扱う工程で、ロボットを仕分け作業などに活用することはほぼ不可能とされていた。しかし、AIをはじめとしたソフトウエア技術の進化などにより、幅広い種類の商品をティーチングなしで仕分けることができるようになり、新興企業を中心にピースピッキング用ロボットシステムの開発が急速に進んでいる。

米企業がソフトバンクグループと連携

バークシャー・グレイの「AUTOPICK」
バークシャー・グレイの「AUTOPICK」
 ソフトバンクグループが出資している企業のなかにもピースピッキングロボットを展開している企業がある。それがバークシャー・グレイ(Berkshire Grey、米マサチューセッツ州)だ。同社は、掃除用ロボット「ルンバ」などで知られるiRobotの元CTOトム・ワグナー氏によって2013年に設立された企業で、独自のピースピッキングロボットシステム「AUTOPICK」などを展開している。

 バークシャー・グレイは、2021年7月に、SPAC(特別買収目的会社)との合併によって米ナスダックに上場。その前の2021年4月に、ソフトバンクロボティクスならびに同じくソフトバンクグループ傘下でフルフィルメントサービス(通販などで商品が注文されてから発注者に届くまでに必要な、受注、梱包、在庫管理、発送、受け渡し、代金回収業務など)を展開するSBロジスティクス(SBL)とパートナーシップを結んでおり、物流施設向けのロボットシステムなど、最先端の物流関連サービスを日本市場向けに開発・提供することを目指している。なお、この取り組みの一環として、SBLが運営する「市川ディストリビューションセンター」(千葉県市川市)において、ソフトバンクロボティクスがバークシャー・グレイのロボットシステムを設置している。

コストやメンテナンス体制などに課題

 孫氏は、もしこういったスマボが日本に1億台導入されれば、現在の5000万人程度とみられる日本の労働人口が、10億人相当の規模になると試算している。筆者としては、1億台でなくても、1000万台、もしくは100万台レベルでも普及すれば非常に大きな変革になると考える。

 ただ、その普及のためにはいくつか課題がある。まずはコストだ。ロボットは種類や用途によってコストはかなり違うが、基本的にはロボット本体だけで数百万円レベルという高価なものが多く、簡単に導入できるものではない。そこで、その問題の対応策として増えつつあるのが、RaaS(Robot as a Service)という販売モデルだ。

 これは、ロボットシステムの初期導入費用を無料にし、ロボットの作業量に合わせた従量課金型もしくは月額定額制のサブスクリプション型などで提供するもので、これによりユーザーは初期費用がほとんどかからずロボットを導入でき、スモールスタートから徐々に台数を増加させることや、繁忙期にロボットを追加導入するといったこともできる。ただ、メーカーや販売企業側からみると、RaaSは費用の回収まで時間を要することになるので、ある程度の資本力が求められる販売モデルともいえる。

 また、スマボが大規模な普及を成し遂げていった際に課題となりそうなことが、保守・メンテナンスの対応だ。ロボットは24時間稼働するケースも少なくない。そのため、定期的なハードウエアの保守メンテナンスが必須となるが、ロボットは、機械や電子技術を高度に融合したものが多く、そのメンテナンスにも高度な技術が求められ、スマボが普及していくためには「ロボットの病院」のようなものも必要となっていくだろう。

電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志

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