電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第475回

ルネサス、2030年に売上高200億ドル超の長期目標


パワー半導体はIGBT主軸に攻勢

2022/10/21

 国内半導体大手のルネサス エレクトロニクス(株)は、2030年に売上高として200億ドル超、組み込み半導体メーカーとして世界第3位、時価総額6倍を目指す長期目標を発表した。自社ファブへの継続的な設備投資によるレジリエンス強化に加え、販売戦略ではよりソリューション提案に軸足を置き、企業価値の向上を図っていく。

「腰を据えて長期的な視点で経営」

 柴田英利CEOは22年9月28日に行われた事業説明会「Progress update 2022」において、19年の社長就任以降、会社全体でスピードを重視した経営を行ってきたと振り返り、「今後は腰を据えて、長期的な視点で経営を行っていく」(同氏)ことを強調した。

 足元の業績も半導体不足などを追い風に好調で、22年上期(1~6月)売上高はダイアログセミコンダクターの買収効果も加わって、前年同期比72%増の7238億円、営業利益率も同11.8ポイント増の38.8%と大幅な増収増益を記録している。為替影響を除いた調整済み売上高基準でも高い成長率を記録しており、長期財務目標である「売上高成長はSAM(対象市場)以上」「粗利益率50~55%」「営業利益率25~30%」のいずれの項目も達成できている。今後は設備投資も積極的に行っていきながら、持続的な成長を図る。

 販売戦略では、以前から強化しているIDTやインターシルなど買収企業の製品とルネサス製品を組み合わせた「ウィニングコンビーション」を志向。今後はこれのさらなる改善を進める考えで、フルシステムでの顧客提案に加えて、車載部門と産業・インフラ・IoT部門を跨いだ「クロスBU」による販売機会の拡充も図っていく。

 クロスBUの一例として、自動車向けのインフォテインメント製品をスマートフォンやタブレット向けに展開することや、車載用パワーディスクリートの産業機器市場向けの横展開などを挙げた。

成熟ノード・パワー半導体は自社生産強化

 生産戦略については、自社工場とファンドリーの使い分けをこれまで以上に明確にしていく。先端プロセスはファンドリーを活用する一方、成熟ノード(40nm以上)はファンドリーと自社ファブ(那珂300mm、川尻、西条)のハイブリッド型を目指す。また、パワーディスクリートは自社ファブ3拠点(甲府、那珂200mm、高崎)へ段階的に集約して、自社生産を強化していく。

 これら投資計画を実行していくことで、自社ファブのウエハーキャパシティーは中長期で2割程度増加する見込み。主に甲府工場の300mmラインの寄与が大きく、また製品別ではマイコンやパワーMOSFET、IGBTが増加するという。なお、今後は17年に買収が完了したインターシル製品の内製化も手がけていく考え。

300mmウエハーを用いて作製したIGBT
300mmウエハーを用いて作製したIGBT
 22年通年の設備投資額は甲府工場の再開分なども加わったことで、2200億~2300億円と非常に高い水準となる見込みで、売上高比で15%程度になるという。ただし、引き続きファブライトモデルは継続する考えで、23年以降は売上高比で5%程度に抑えていく。

IGBTは最新プロセスを市場投入

 自社ファブでの生産強化を打ち出しているパワー半導体では、xEV化の進展によって市場拡大が期待される車載IGBT分野の事業拡大を積極的に進める。最新世代のIGBT素子を開発し、顧客への供給を本格的に開始していく。また、今後はパワーモジュール形態での供給やSiCパワーデバイスの事業化も検討していく考えで、車載用を中心にパワーデバイスの事業拡大を推進していく。先ごろ、最新プロセス「AE5」を採用した車載用IGBTを開発、750V耐圧/300A品を第1弾として顧客へのサンプル出荷を開始した。

 AE5は現行の量産プロセス製品(AE4)に比べて、電力損失を約10%改善。また、壊れにくさ(破壊耐量)を維持したまま約10%の小型化を実現した。損失低減と破壊強度は通常トレードオフの関係にあるため、これを同時に実現したことにより、「(大手の同業他社と比べても)素子レベルではトップクラスにある」(オートモーティブソリューション事業本部 パワーシステム事業部長の小西勝也氏)と自信を見せる。損失低減と堅牢性の両立にあたっては、セルピッチ(トレンチ間隔)の縮小を図ったほか、IGBTで重要な裏面プロセスにおいても独自の工夫を施している。

 AE5採用のIGBTについては、2023年上期中に那珂工場の200mmおよび300mmラインで量産を開始する。24年上期以降は甲府工場の300mmラインでも順次量産を開始して安定供給体制を確立していく。那珂工場のパワー半導体ラインは試作開発を念頭にした1パスラインであるため、大量生産には向いておらず、当面は那珂工場の200mmラインが主体になる見込み。ただ、甲府工場の稼働後は300mmウエハーによる生産が中心となる見込みで、200mmから300mm生産への移行もシームレスに行っていく考え。

 また、当面はウエハーおよびダイでの供給となるものの、主要ターゲットをインドや中国などの新興国と定めていることから、将来的にはパワーモジュールでの供給も目指していく。すでに社内的には取り組みがスタートしており、23年からモジュールのサンプル製品を市場投入していく計画だ。

 さらにSi-IGBTと同等の成長ポテンシャルを持つSiC-MOSFETも、今後は開発を強化していく構えで、徐々に開発リソースの軸足を移していく。同社は過去にSiCダイオードを開発、一部顧客向けにサンプル出荷を行っていたが、事業ポートフォリオ見直しの一環のなかで開発を中断した経緯がある。今回、SiCパワーデバイス市場の成長確度が高まったことで、開発ならびに事業化に向けた取り組みを再開させている。

 ルネサスは一時会社存在の危機にも立たされ、苦しい時期を経験してきたが、今やその姿は国内半導体トップとして、そしてグローバルでも通用する半導体メーカーとして生まれ変わった。柴田CEOのもと、さらなる成長を目指し新たなフェーズに入ったといってよいだろう。

電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉雅巳

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