電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第473回

VRデバイスが牽引するメタバース世界


3年は新機種に期待、AR/MRデバイスも開発進む

2022/10/7

メタは何を語るのか

 Meta Platfroms(メタ、旧Facebook)は、10月12日(日本時間)に自社カンファレンス「Meta Connect」を開催し、次世代ヘッドセットの「Project Cambria」について明らかにする予定だという(本原稿執筆は9月末日)。

 VRヘッドセット(HMD)で人気沸騰の「MetaQuest2」の後継機になるようだが、より高性能で高価格な超ハイエンドコンシューマーデバイスか、産業用途向けのデバイスになると見られている。もしくは、VRではなくAR向けの新しいデバイスになるという噂もあり、様々な予想と期待がメタの発表を待っている。プラットフォーマーたちのなかでもひときわ巨大な投資と開発に注力し、メタバースというXR(クロスリアリティ=VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実))世界を牽引する同社が何を発表し、発信するのか楽しみだ。

VRでトップシェアのMeta Quest2(メタ)
VRでトップシェアのMeta Quest2(メタ)
 同社のQuest2は、前機種からの大幅な改良と軽量化、スタンドアロン(電源やCPUなどが搭載された別機器とのワイヤー接続が無いもの)であることから人気を博している。調査会社のIDCによれば、22年1~3月期にHMDの市場トップシェア(9割)を獲得したのがQuest2だ。2位につけたのが、9月末に新製品の「Pico 4」を発売した中国のPicoで、今後23年にはソニーの「PlayStation VR2」が発売され、アップルも初のヘッドセットを出荷する見通しであることから、今後ますますXR市場は盛り上がっていきそうだ。

VRは高精細化がカギ

 XR分野への入り口となるデバイスとして、視界を覆う没入型のHMD、メガネのように周囲が見える透過型のAR/MRグラス(スマートグラス)への関心が高まっている。現在は急拡大するメタバース市場の入り口を担う、HMDが先行して数量を伸ばしており、IDCによれば、22年通年の出荷台数は1390万台に達する見込みだ。

 また、調査会社DSCCのアジア代表の田村喜男氏によれば、「23年から24年にかけて、アップルやメタが新製品を出すことで市場拡大に拍車がかかる。メタバースでVR向けディスプレーが牽引され、そのあとを追うようにAR/MR向けディスプレーも拡大していく」と予測しており、XR向けディスプレー市場の拡大にも期待がかかる。

 VR向けディスプレーでは、高精細な液晶ディスプレーを展開するジャパンディスプレイ(JDI)がトップサプライヤーとなっている。VR市場でトップを走るメタが、課題の一つとして挙げるのがディスプレーの高解像度化であり、「視力1.0の人間の視野全体を埋めるには横方向に1万3000画素が必要」などとしていることから、ディスプレーメーカーはさらなる高画素化に挑んでいる。JDIでは、現在1201ppiを出荷しており、25年には2000ppi(4K8K)を展開するロードマップを掲げている。

 さらにその先は、同社が新開発したフォトリソ方式で製造する有機ELディスプレーによる高精細化のロードマップがあり、30年ごろにはメタが指摘する違和感のないXR(主にVR)映像に足る、1万3000万画素を体験できるかもしれない。

 また同社は、5月に米国で開催されたディスプレーの国際学会「SID Display Week 2022」で、HMDに搭載する光学系を薄型化する技術を発表している。映像を出力するLCD(液晶ディスプレー)と目の距離を短くすることができ、HMDの軽量・薄型化に貢献するもので、同様の研究発表をメタも20年に行っている。

スマートグラスはマイクロデイスプレーの開発旺盛

 一方で、スマートグラスでは、コンシューマー用途で受け入れられるために「まるでメガネ」であることが必須となっており、小型軽量化が進められている。現在勢力的に開発や投資が進むのが、有機ELやLEDのマイクロディスプレーだ。

ARグラスで人気が高い「Nreal Air」(Nreal)
ARグラスで人気が高い「Nreal Air」(Nreal)
 マイクロ有機EL(OLED)は、すでにカメラのビューファインダーで実績のあるソニー製品が、中国Nrealの「Nreal Air」に採用されている。Nrealはコンシューマー向けARグラスの最大手で、手がけるARグラスは22年上半期の出荷台数の8割を占めたという。このほか、シャオミの「Mijia Glasses Camera」が搭載したことを発表しており、22年1月に披露されたTCLの「NXTWEAR AIR」にもマイクロOLEDが採用され、これもソニー製だと言われている。マイクロOLEDの開発は海外勢が積極的で、フランスのMicroOled、アメリカのeMagin、Kopinなどがいる。

 マイクロLEDディスプレーについては、まだフルカラーでの実装はなく、主に緑色単色で文字や数字などの投影に使用されている。TCLが22年1月に発表したコンセプトスマートグラス「LEINIAO AR」では、2つのフルカラーマイクロLEDを搭載すると発表している。

 フルカラー化においては、中国のジェイドバードディスプレー(JBD)が投資や開発、市場展開を推し進めている。ARグラス向けにフルカラーのマイクロLEDディスプレーを開発しており、23年初頭にプロトタイプを出荷する計画だ。JBDはこれまでに、アメリカのVuzixやKopin、イギリスのWaveOpticsなどと提携している。

 この2つのマイクロディスプレーのほか、半導体レーザー(LD)を光源とした走査型ディスプレーにも注目だ。LDを採用したスマートグラスで代表的なのは、MicrosoftのMRグラス「Hololens2」だ。同製品はほぼパソコンを頭にかぶっているようなもので、軽量さはなく高価格だが、ワイヤレスで高機能なため産業用途としては抜群の人気を誇っている。このほか、富士通からスピンアウトしたQDレーザの「RETISSA Display」シリーズも自社開発のLDを搭載している。弱視者をサポートする医療用グラスとして展開を進めているが、今後は汎用製品も開発して販売していくという。

 新しいデバイスとしては、福井大学が開発したLDの超小型光源モジュールの動向に注目したい。小型軽量化と量産化が容易であり、レンズなどの光学部材も減らせることから、スマートグラスの開発で必須課題となる光学系の小型軽量化を実現できる。地元企業のセーレンKSTなどが国内外市場への展開を進めている。

 HMDやスマートグラスが目指すのは、すそ野の広いコンシューマー市場での定着だ。先行するHMDはゲームからの流れもあり、コンシューマー市場での地位を固めつつある。スマートグラスは「まるでメガネ」を実現して日常使いを目指していることから、まだまだクリアする課題が多い。メタは、スマートグラスをコンシューマー用途として展開するには「現状ではその技術が存在しない」と指摘しており、当面はHMDによる没入感を楽しむVR世界やデバイスがメーンとなるのだろう。

 一方で、スマートグラスでトップシェアを保持するNrealは「ワイヤレス化してメガネのように軽量化する開発は日々続けており、多くが想定するよりも早く市場展開する計画だ」と述べており、開発が日進月歩で進められていることをアピールしている。現在XR市場で先行するVRデバイスで、現実と見間違えるような映像を体験できるのが早いか、現実世界の中にまるで実物のような映像が重なるAR/MRデバイスの進展が早いのか、またその用途はどうなるのか、未知数が多いが楽しみに待ちたい。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子

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