電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第371回

菱洋エレクトロ(株) 代表取締役社長 中村守孝氏


困りごと解決の価値を提案
異業種経験活かし抜本改革に挑戦

2020/4/24

菱洋エレクトロ(株) 代表取締役社長 中村守孝氏
 エレクトロニクス商社業界に新風を吹き込むがごとく、三越伊勢丹ホールディングスで経営企画、営業企画、人事、情報戦略部門を歴任し、常務執行役員の任にあった中村守孝氏が2017年5月、菱洋エレクトロ(株)(東京都中央区築地1-12-22、Tel.03-3543-7711)に顧問として入社した。ほどなく専務執行役員に就任した中村氏は、外部の視点から同社の課題を把握し、経営改革推進担当として抜本改革に着手。18年4月からは代表取締役社長として独特の経営手腕を発揮している。中村氏に、その経営手法および展望を聞いた。

―― 異業種からエレクトロニクス商社業界に入られ感じたことは。
 中村 特に当社においては、閉鎖的で内向きと感じられることが多かった。商権の獲得や喪失に一喜一憂する、旧来型のビジネスモデルが根づき、社内の議論では「お客様」や「従業員」という言葉は聞かれず、他責、言い訳など内部論理優先で、建設的とは言えなかった。

―― 貴社の課題を数カ月で明確化したそうですね。
 中村 17年9月から社内の選抜メンバーによる経営改革プロジェクトを始動した。そこでの課題抽出をもとに、18年度、19年度の2年間を改革第一フェーズと位置づけたが、すべては入社してすぐに気づいた当社の根本課題を原点としている。社内のそこかしこで「分断」が顕著であり、幹部をはじめ従業員の視点が外部に向いておらず、企業風土が疲弊し、活力がない。「目標とその達成に向かう戦略が不在」であり、コスト削減ありきの経営だった。営業現場軽視で管理色が非常に強く、一方で人事制度をはじめとする経営インフラも、コーポレートガバナンスも未整備だった。

―― そこで早速改革に着手しました。
 中村 18年1月期は赤字寸前まで業績が低迷していた。そこで、早期の売上高1000億円回帰、営業利益率2%を目標に掲げた。これは15年間達成されていない水準だったが、幸い20年1月期は2期連続で増収増益を確保し、売上高は1085億円、営業利益は22億円、営業利益率は2%と、あくまでも小さな一歩だが、当面の目標を達成することができた。

―― 改革第一フェーズ成功のカギは。
 中村 “VALUE and PRIDE”を全社共通の行動指針に掲げ、加えて「賞賛」「貢献」「協働」という「仕事における3つの喜び」の重要性を繰り返し従業員と共有した。仲間の成果を賞賛し、お客様からも賞賛される存在であるかどうか。お客様、仲間に対して何らかの貢献ができているかどうか。一人でできることは限られるため、チームで仕事を遂行する協働の大切さを理解しているかどうか。改革の入口を、まずはこうした意識・風土変革に定め、並行して戦略を再構築し明確化していった。

―― 次なる「改革第二フェーズ」を始動しました。
 中村 本年2月からの2年間は次なる成長に向けた本当の答えを出していくフェーズとなる。我々自身が誇りを持って、お客様に付加価値をご提供したい。具体的には、半導体、デバイス、ICT製品や、AI、クラウドなど、広範囲なソリューションのリソースを調達できる当社が、エンドユーザーのお困りごとの解決に向け、その縦横な組み合わせで提案していくことが重要だ。そのためには、何を置いてもエンドユーザーにおける課題を発掘し、解決する創造力が不可欠となる。従業員には、たとえばお客様がゲーム機関連ならば自分もエンドユーザーの視点でそのゲーム機器を実体験するように促している。そうしたお客様目線のマーケティングなくしてOnly RYOYOに値する付加価値ある提案は生まれない。

―― 技術力・開発力も重視しています。
 中村 これからの商社に求められる技術力はFAEのみではなく、自分たちで開発し、提案できるレベルのものだ。そのための技術増員を進める一方、5月からは「スタイルズ」がグループの一員に加わる。スタイルズ社は、ITシステム開発から運用まで一貫で行うSI事業、情報システム業務受託開発やインフラ系技術者派遣を担うソーシング事業で培ったノウハウと技術力を有する人材が豊富だ。グループ一丸となってお客様・マーケットの課題を解決するソリューションビジネスの展開を一層強化していく。

―― 実践中の「人数分のダイバーシティ」とは。
 中村 経営においては、従業員を性別、国籍、専門分野などでダイバーシティを捉える前に、全員がそれぞれの価値観や個性、強みを持った「個」であることを認識しなければならない。それに基づきできる限り全従業員と個で向き合うことを実践し、推奨している。たとえば、国内外を問わず、お客様対応、オペレーション業務を担う各拠点の最前線にできる限り出向き、現場の従業員たち一人ひとりと向き合い、名前も働きぶりも認識するように努めている。時には階層に関わりなく個別に叱咤激励、賞賛も行う。定年退職したシニアスタッフや海外拠点のスタッフも含め、一人ひとりの従業員がそれぞれの持つ可能性を最大限に発揮できる環境を提供するには、上位職であるほど個を知る努力をすべきである。様々な現場で働く従業員の業務と思いを知ることで、職制を超えた従業員同士のマインドの連鎖が生まれてくる。

―― 最後に一言。
 中村 「商い」の基本は「お客様」。お客様の喜びは仕入先様の喜びへつながる。そのためには当社がどんな価値を提案できるのか。3年後にはエレクトロニクス商社の新たな未来図を描くところまで到達したい。

(聞き手・高澤里美記者)
(本紙2020年4月23日号3面 掲載)

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