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第572回

東芝デバイス&ストレージ(株) 取締役常務 半導体事業部 バイスプレジデント 栗原紀泰氏


半導体回復は24年夏場以降
パワーでロームと製造連携

2024/4/19

東芝デバイス&ストレージ(株) 取締役常務 半導体事業部 バイスプレジデント 栗原紀泰氏
 東芝デバイス&ストレージ(株)(川崎市幸区)がパワー半導体を軸に巻き返しに出る。加賀東芝エレクトロニクスで整備中の300mm製造棟の立ち上げを急ぐとともに、ロームとはSiCやSiで製造連携を強力に推進、パワー半導体の生産能力を効率的に引き上げる。同社取締役常務で半導体事業部バイスプレジデントの栗原紀泰氏に今後の事業戦略を聞いた。

―― 足元の市況について。
 栗原 当社はSi MOSFETやIGBT、SiCなどのパワー半導体をはじめ、アナログICやマイコンなどのロジックICをはじめ幅広い製品群を持っている。アプリケーションは車載、産業機器、民生などにわたる。車載だが、2021年度(22年3月期)からずっと活況を呈しており、日系の車載ティア1向けに足元も堅調に推移している。一方、産業機器用は半導体テスターなど一部の検査装置やFA向けで弱含んだ状況が続いている。また、スマートフォンやノートPCなどの民生機器用では21年度から低水準のままだ。これ以上の落ち込みはないとみられるが急激な回復も見込めない。23年度の半導体売上高は前年度比若干のマイナス成長となろう。

―― 24年度の事業見通しを教えて下さい。
 栗原 車載は安定して堅調に推移するだろう。産業機器だが一部で在庫消化が進んでおり、24年4~6月期を底に緩やかな回復を見込んでいる。早ければ夏場以降にも動きが出てくることを期待する。一方、民生機器は予想以上に回復が遅れている。半導体事業は、総じて上期は緩やかな回復で、下期から本格回復を想定している。23年度上期水準まで業績を戻したい。

―― ロームとパワー半導体製造で連携しました。
 栗原 互いに強みのある分野で連携を深め、競争力を高めていきたい。当社はSiを、ロームグループではSiCを中心に重点的に投資を行うことで、効率的に供給能力の拡大につなげる。両社で重複するアセットを極力少なくし、利益を最大化する。製造連携ゆえ、委託側の設計データに基づき製造側で生産するのが基本だが、将来的には効率性の観点から製造側のIPをできる限り活かしながら、設計上こだわっている部分については技術的な移植を行うような連携を進めていきたいと思っている。今回の成果をできるだけ早期に実現したい。

―― 加賀東芝エレクトロニクスの300mm棟の稼働時期は。
 栗原 現在装置搬入を進めていて今夏からは動き出す。本格稼働は下期以降となるだろう。フル稼働時の生産能力は21年度比2.5倍のキャパアップにつながる。旺盛な需要が継続しているのでスムーズな立ち上げを目指す。

―― 後工程も増強します。
 栗原 姫路半導体工場内で車載パワーデバイスの組立工場を新設する。25年春の稼働を予定する。能力は22年度比で2倍以上に引き上げる。品目は低耐圧MOSFETを中心に計画しており、後工程強化の一翼を担う。高信頼性を要求する日系顧客向けを中心に供給する。新棟では最大200人程度を雇用する予定だ。また、タイ工場でも産業機器向けを中心にパワーMOSFETの組立能力の拡大を実施、24年4月以降から量産したい。豊前東芝エレクトロニクスでも車載用フォトカプラを増強中だ。24年度で22年度比2割増を計画する。

―― パワー製品の品揃えも拡充します。
 栗原 まずは主力の低耐圧MOSFETを効率的に強化していく。SiCも強化する。ロームとの製造連携をうまく活かしていきたい。一方、当社はもともと姫路にある6インチSiCラインで電鉄系などの顧客にモジュール製品を提供している。また、IGBTのチップ売りも安定してニーズがあるので拡充する。RC-IGBTもあり、750Vや1200V以外の製品ラインアップの拡充も図る。品数や対応プロセスも増やす。
 GaNの開発も急ぐ。ノーマリー・オフの第2世代品は25年度以降にも市場投入する。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業/次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトに採択されており、スイッチング電源システムの小型化・省電力化などに貢献する。

―― ソリューション事業を提案中です。
 栗原 ディスクリート素子の単体売りだけではなく、ゲートドライバーやマイコンと組み合わせて、お客様のボード設計を意識した、使い勝手の良いデバイス提案力を磨きたい。セットの小型化や高機能化につながるようなソリューション売りを強化する。組織横断的な部署を立ち上げて人材も育成中だ。2~3年以内にはその成果が出てくるだろう。


(聞き手・特別編集委員 野村和広)
本紙2024年4月18日号1面 掲載

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