商業施設新聞
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No.324

原発ジレンマに悩む韓国


嚴 在漢

2011/7/5

 グリーン政策と成長政策は、両立し難い課題である。どのような方向性を採るかによって、極端に分かれるからだ。成長を重視する者は、エコ技術と産業を新しい成長エンジンとして導入しようとするが、結局はグリーン政策を産業的側面から計る限界を浮き彫りにしてしまう。その代表例が、韓国における原子力発電所政策の論争だ。

 李 明博(イ・ミョンバク)政権は2008年8月、いわゆる低炭素社会の構築に向けたグリーン政策の理念が盛り込まれた「国家エネルギー基本計画」を打ち出した。基本計画の核は、過剰に予測されたエネルギー需要をベースに、10年末段階で31.4%であった原発による発電量の割合を、2030年までに59%まで増やすことである。

 現在運転中の原発は、11年2月に運転を開始した新古里1号機(釜山)を含む21基で、建設中は7基、さらに6基分の敷地を確保しており、建設に向けた準備が進む。加えて、新たな原発の建設に向けた用地確保も進んでおり、30年までに計19基の原発を新たに建設する方針だ。
 韓国で初めて稼働した原発の古里1号機(釜山)は、1978年4月に商業運転を開始し、07年6月に設計寿命(30年)を迎えて稼働を中止した。しかし、10年間の運転延長を政府が承認し、08年から再稼働している。12年11月には、同じく設計寿命を迎える月城1号機(慶州)も同様の手続きを経て寿命を延長させる方針だ。韓国では、既存の原発が運転を延長する一方で新しい原発が建設されており、20年代には韓国は世界最高レベルの原発密集国になる見通しだ。
韓国のグリーン成長を強調する李明博大統領
韓国のグリーン成長を強調する李明博大統領

 東京電力福島第一原発のように、大規模な放射性物質の流出事故に遭遇した場合、韓国では直接的に被爆する国民は370万人に達すると推定されている。それほど「核」の危険度が高くなっているというわけだ。当然ながら、原発の周辺住民は不安感と不信感を払拭できない。
 今後、設計寿命を超えて運転が続く古里原発1号機の安全を問題視する地域住民と政府の間で議論が本格的に始まる見通しだ。訴訟問題に発展すれば、韓国水力原子力㈱はこれに対する答弁をすることになり、その過程で専門機関による安全性の評価結果、事故日誌、機器交代日誌など、原発運転の内部事情が公開されることになるだろう。

 福島における原発事故の影響で、韓国でも老朽化した原発の寿命延長と、新たな原発建設に反対する声が高まりつつある。老朽化した原発が運転されている地域の住民は、稼働停止を叫びつつ、不安感を募らせている。これによって、「韓国の中長期原子力エネルギー政策は見直しが不可欠だ」という世論さえ浮上している。
 それにもかかわらず、韓国政府の原発増設計画は当分の間、変わらないことから、最大のジレンマに陥りつつある状況を迎えたと言えよう。

今年2月に運転開始した
新古里1号機(右)と建設中の2号機
今年2月に運転開始した新古里1号機(右)と建設中の2号機

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