2000年に世界で初めてUV-LEDの量産に成功したナイトライド・セミコンダクター(株)(徳島県鳴門市瀬戸町明神字板屋島115-7、Tel.088-683-7750)は、結晶の量産技術の確立でUV-LEDの高出力化と低価格化を実現しながら、それを組み込んだ空気清浄器、殺菌器、蚊取り器といった民生用「LEDピュア・シリーズ」の発売から1年が経過し、さらに製品を拡充した。また、「LEDダイレクトオンCu基板構造」を採用したハイパワーモジュール製品による紫外線ランプの代替を促すなど、引き続きUV-LED領域で世界をリードしている。代表取締役の村本宜彦氏に近況と戦略について伺った。
―― 18年3月期を振り返って。
村本 前期に発売したLEDピュア・シリーズが好調で、減収減益となった前々期を底に、前期はV字回復基調に乗った。
また、当社は創業以来、膨大な費用を投じて数多くの特許を取得してきた。特に、近紫外線のみならず深紫外線領域もカバーしているUS特許に関して、侵害を回避して高効率な深紫外線UV-LEDを実現するのは難しい。そこで、侵害の可能性が高い米Rayvio社とDIGI-KEY社に対して特許侵害訴訟を提起した。正当な主張を展開し、堂々と争っていく。
LEDピュア・シリーズの市場の反応は大きく、この6月には、当社製品の4倍の殺菌消臭効果を持ち、かつ蚊取り機能も備えたUV殺菌消臭器LEDPURE(エル・イー・ディ ピュア)AM1の販売およびハローキティのイラストをシルクスクリーン印刷した「ハローキティ」バージョンを上市した。
―― 4倍の効果ですか。
村本 17年6月に発売したAH1と今回のAM1との比較で、花粉を除去するプレフィルター、PM2.5以下の超微細粒子を除去するHEPAフィルターに加え、臭いを分解する光触媒フィルターの面積を4倍にした。同時に、光触媒に照射してニオイの元を分解する波長365nmのUV-LEDを12個、HEPAフィルターの表面に捕獲したウイルスを殺菌する波長275nmの深紫外UV-LEDを4個と、UV-LEDの搭載数量を4倍にして殺菌消臭能力を従来比約4倍に高めた。インフルエンザなどのウイルスを99.9%殺菌する。
―― 搭載するUV-LEDチップと殺菌のメカニズムについて。
村本 波長275nmで50mWと、波長が競合他社より10nm短いにも関わらず同じ出力、LEDの寿命は同レベルの1万時間以上を達成している。殺菌用途は殺菌線の波長が254nm(DNAの吸収波長)なので、285nmでは殺菌効果が低かったが、波長275nmによって大幅に殺菌効果を高めた。
さらに、結晶の量産技術を確立し、安価なアルミニウムパッケージを採用したことで、1万個量産時単価が約3000円と競合の3分の1の安価を実現した。
国立病院機構仙台医療センターのウイルスセンターで実際にウイルスによる殺菌効果を検証し、高い効果を確認した。AM1には秋に加湿機能を備えた新製品を追加し、これにより医療機器の認証を目指す。
―― メンテナンスはいかがですか。
村本 HEPAフィルターとカーボンフィルターは半年に1度の交換が必要で、光触媒フィルターは煮沸洗浄で性能が戻る。驚くことに、新品から使用した場合と、新品をフィルター煮沸洗浄後に使用した場合を比べると、煮沸洗浄後のフィルターがより消臭性能が高まった。煮沸洗浄でフィルター表面がクリーンとなったためと思われる。
―― UV-LEDの用途開拓が1つ実現しました。
村本 以前から提案する紫外線ランプ代替のハイパワーUV-LEDモジュールについては、2年後に水銀廃止が迫り、「換えなきゃいけないね」という雰囲気は高まりつつあるが、まだ本気度が伝わってこない。また、同じく提案を続けてきた「LEDダイレクトオンCu基板構造」を採用したハイパワーモジュール製品の半導体ウエハー工程、産業用紫外線光源、液晶プロセスの樹脂硬化用の紫外線ランプへの代替については、樹脂/インク硬化プロセスで採用される動きが出ている。
長寿命、瞬時の起動、省電力、かつ価格は同レベルのUV-LEDが優位であるが、長年にわたり慣れ親しんだ製品を置き換えるのはパワーが要るのかもしれない。ただ、以前ATMの紙幣識別用に1社がUV-LEDの採用を決めて以来、全社が採用に踏み切ったこともあり、粘り強く提案を続けていく。
(聞き手・大阪支局長 倉知良次)
(本紙2018年7月19日号3面 掲載)