iPad mini 2がa-Siで324ppi実現
テレビ用パネルの値下がりが続く液晶パネル業界にあって、スマートフォンやタブレット用の高精細中小型パネルは、液晶メーカーの収益を支える唯一の拠り所だ。中国で8.5世代(8.5G)の新工場が続々と立ち上がり、深刻な供給過剰に陥ることが懸念される2014~2015年、その傾向はますます強まると思われる。
そうしたなか、2013年に「おっ」と思わせたのが、10月に発売されたAppleの新型タブレット「iPad mini 2」だ。iPad mini 2には、韓国LGディスプレー(LGD)とシャープがパネルを供給しているが、驚いたのはLGDがアモルファスシリコン(a-Si)TFTで324ppiの高精細パネルを供給したことだ。「a-Siでここまで高精細化が可能であれば、低温ポリシリコンTFT(LTPS)がカバーする市場に今後進出してくる可能性もあるのではないか」という意見も聞かれるのだが、果たしてそうだろうか。
露光技術が切り開いた高精細化
筆者は、a-Siの高精細化は、そろそろ限界に達したのではと考えている。もっとも、金に糸目をつけずにa-Siラインに継続投資をすれば不可能ではないだろうが、経済合理性に合わないと思っている。
その理由の1つが、iPad mini 2用a-Siパネルを供給しているLGDが「歩留まりアップに非常に苦労している」点だ。発売当初は「シャープ製IGZOの供給不足」が海外メディアなどで喧伝されたが、これは必ずしも正しい情報とは言えず、LGDも歩留まりに相当頭を悩ませているようで、シャープに対する一種のネガティブキャンペーンだったのではないかと思われるほど。LGDはApple製品のメーンサプライヤーとして知られ、高い製造技術力を誇るが、現在、亀尾6G工場のa-SiラインをLTPSラインに転換中であり、中小型の中心をa-SiからLTPSへシフトしていくもようだ。これから見ても、「今後も中小型を高精細a-Siで」と考えているようには思えず、iPad mini 2用パネルはかなり特殊な事例と思われる。
近年、中小型パネルの高精細化が進んだのは、ニコンが数年前にリリースした高解像度露光装置の寄与が大きい。従来、a-Si用露光装置のパターン幅は3~4μmが限界だったが、ニコンが2μmまで微細化可能な露光装置を4Gから6Gへスケールアップしたことで、パネル各社のラインは「6Gで高精細中小型パネル」という流れに一気にシフトした。シャープの亀山工場6Gが中国パンダへ移設され、LGDもLTPSへ転換投資を進めている現状から、世界的に見て5~6Gのa-Siラインは台湾と中国に多くが偏在するかたちになりつつある。今後、台湾や中国のパネルメーカーが既存の5~6Gラインへ追加投資をして、iPad mini 2並みの高精細a-Siを量産する、もしくはできるかというと、その可能性は薄いし、具体的な投資計画も聞こえてこない。
よって、これからa-Siで300ppi以上のパネルがガンガン量産されるとは思えず、歩留まりや製造技術を考えると、中小型a-Siは300ppi以下のニーズに対応していくかたちに落ち着くのではないか。
狭額縁化が搭載パネルを選別
パネルの高精細化ニーズには、セットのデザインが関連している。最も大きく影響するのが「狭額縁化」だ。今後は、この狭額縁化が搭載するパネルの種類を大きく左右しそうだ。狭額縁化を実現するうえで重要なのが、有効表示エリアの外側に作り込まれるドライバー回路、および液晶パネル上に実装されるタッチパネル用の引き出し配線。高解像度になればなるほどドライバー回路は複雑になるし、タッチパネルの感度が上がれば上がるほど(例えば、先端の細いスタイラスで細かい文字を認識させる)引き出し配線には微細化が求められる。
現在、最も狭額縁化が求められる機器はスマートフォンであり、狭額縁化および画面サイズを考えると、スマートフォン用におけるLTPSの優位は動かない。タブレットも狭額縁化の流れにあり、ドライバー回路までオングラスで作り込めることを考慮すれば、ローエンドのタブレットは別として、a-Siには出番が回ってきそうにない。これが、a-Siがさらなる高画素化ニーズに対応しづらくなる2つ目の理由になる。
Appleの製品とJapan Displayの先端パネルのサイズ&解像度を図にまとめてみた。スマートフォンは5インチのフルHDからWQHDへ高精細化していくというのが2014~2015年の流れ。放送フォーマットが今後、フルHDから4K2Kへ移行していくことを考えると、スマートフォンは少なくとも4K2Kパネルを搭載するまで高解像度化していくだろう。タブレットは、ハイエンドとローエンドで二極化していきそうだが、iPad mini 2仕様のパネルを標準的に搭載していくならば、a-Siで製造するよりもLTPSやIGZOのほうが有利だと考えらえる。
熱収縮対策が差異化ポイントに
では、300ppi以上になるとLTPSやIGZOが安泰かというと、そんな簡単な話でもなさそうだ。確かにLTPSは、狭額縁化や高精細化に最も有利だが、パネルは最も高価で、大画面化が難しい。現在、6Gガラスでの量産がスタートしているが、歩留まりの確保がやはり大変なようだ。一方のIGZOは、現在シャープ以外に供給メーカーがないうえ、製造技術や材料が完全にマチュアになっているわけではなく、まだ発展途上だ。
しかも、LTPS、IGZOともに課題となっているのが、製造プロセス温度がa-Siよりも高いという点だ。これにより、6G以上の大型ガラスで量産する際、ガラスの熱収縮が問題となり、歩留まりが上げづらいという課題に直面している。6G以上のガラスで、熱収縮率を考慮しながら中小型パネルを精度よく作り込む(アライメント精度を高める)という作業は、アナログ的であるゆえに相当ハードルが高い。パネル各社は、ガラスメーカーから低熱収縮の最新ガラスを調達して改善を進めているが、「それでもガラスが非線形に収縮するケースがある」(装置メーカー)といわれ、最適化が非常に難しいようだ。
そうした意味で、今後最も期待が大きいのは、低温プロセスで製造できる可能性があるとされるIGZOだ。製造プロセスはまだ成熟していないが、低温化が実現できればフレキシブルディスプレーも実現しやすいし、熱収縮の影響を最小化しながら大型ガラスラインで大型パネルを製造することもできる。飛躍して言えば、日本のパネルメーカーが海外メーカーと差異化できる領域として、同じ収縮率のガラスを用いた場合でも、プロセス技術力次第でより歩留まりの高いパネル製造が可能になる。これはLTPSにも当てはまる。そうした意味で、シャープが2014年から亀山8G工場でIGZOの量産をスタートしようとしていることは、とても興味深い。
以上のような見方から、2014年は、狭額縁の500ppiクラス小型パネルがLTPS、300ppi以下の中型パネルがa-Siというすみ分けがよりはっきりするのではないか。LTPSには敵わないが、300~400ppiの狭額縁・高精細パネルを大型ガラスラインで安定的に製造できれば、IGZOにはミドルクラスのスマートフォンおよびハイエンドのタブレット向けという、相当なボリュームゾーンをカバーできる潜在力がある。
半導体産業新聞 編集長 津村明宏