GEヘルスケア・ジャパン(株)(東京都日野市旭が丘4-7-127、Tel.042-585-5111)は、11月20日に在宅での看護/介護をテーマとする第26回GEヘルシーマジネーション・フォーラム ライブセッションを開催した。2回目の今回のリポートは、事前に行われた「高齢者とそのご家族の健康意識に関する調査」に基づいた、(医)社団鉄祐会および一般社団法人高齢先進国モデル構想会議の理事長、武藤真祐氏と、GEヘルスケア・ジャパンによる分析、課題の抽出、その解決策を紹介する。調査は、40歳以上の男女を対象に、高齢者(60歳以上)とそれを支える世代(40~59歳)に対して、健康状態や医療・介護に関して抱えている不安や悩み、自身や親の介護への考えなどについて質問を行っており、有効回答は1596人。
武藤氏は、調査結果から超高齢社会を生きる親世代と、それを支える子世代のリアルな現実が浮き彫りになったという。「団塊の世代」が65歳に達し始め、65歳以上の高齢者人口が3000万人(全体人口の24.1%)を突破する一方、要介護者も500万人を超えるなど、高齢者医療と介護の現場は深刻さを増していると前置きし、調査結果のハイライトをもとに、現在の在宅医療・介護現場での課題と、その解決策・展望について述べた。
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◆アクティブシニアは心身ともに充実
調査では、「からだ」と「こころ」の健康が両面でもっとも充実するのは男女ともに60歳代となり、団塊世代の「アクティブシニア」の心身の充実ぶりが裏付けられる結果となった。面白いのは、男性は60歳代以降、心の健康度が女性に比べて急カーブで上昇(40、50代の約43%から60歳以降は73%へ。女性は同約45%から58%へ)している点である。解釈はいろいろあるだろうが、男性が定年後のセカンドライフを満喫している一方、女性は夫が家にいることで家事など手間がかかることが増えるため男性ほどの伸びではない、ということも考えられると話し、会場の笑いを誘った。
◆健康の自己管理意識高いが不安も
身体の健康については、会社の定期健康診断に頼れなくなったためか、規則的な生活や定期的な血圧測定、十分な睡眠や栄養バランスなど、自己管理に注意を払う人の割合は年代が上がるにつれて増え、かかりつけ医を持つ人も60歳以降は5割以上になるなど、健康状態を自分で管理したい傾向がうかがえる。この年代は、公衆衛生の発展や会社での健診の充実などの恩恵を受け始めた世代でもあり、「健康」は自分でコントロールする(できる)ものという認識を強く持っているという背景もあるだろうと分析。一方で、70歳代になると体の健康度が下がり、膝や腰など関節・筋肉の不調や、白内障など目の不調・疾患に加え、がんや認知症といった自身で管理・予防がしづらい疾患への不安も大きくなる傾向にある。
◆予防・早期発見のサポートが重要
健康への不安については、年代を問わず、「自覚症状がないままで病気にかかっていないか」、「発見が遅れることはないか」、などの声が多く挙げられている。こうした生活者の健康管理や見えない病気に関する不安に対しては、地道ではあるが、予防および早期発見のための啓発活動や、アクティブに生活ができるときからの日常的な健康管理をサポートし、病気を早期に予兆できるような製品やサービス、仕組みにより、解消へと導いていくことができると考えられると、健康管理や病気予防、早期発見のサポートの重要性を説いた。
◆単なる長寿ではなく「健康寿命」を延ばす方策
男性は約3人に1人が高血圧や不整脈など循環器疾患の不調・疾患を抱え、また今後の糖尿病や肥満などの慢性疾患への不安も多い。これらの疾患・症状の進行による脳卒中や脳梗塞、心不全などのリスク、また、その結果引き起こされる半身不随や言語障害などのリスクは看過できない。
一方女性は、進行すると要介護リスクが高まるロコモティブシンドローム、白内障など日常生活に支障をきたすリスクのある疾患・症状を抱えた人が多く、これらへの対処が目下の課題となっている。
今後の懸念疾患として、男女ともに「がん」「認知症」が大きな不安要素となっている。今後さらなる高齢化の進行により、これらの疾患を持つ患者数の増加が予測されるなか、予防医療に加え、限られた医療費と人的資源を用いて、いかに効率的に早期の介入、診断および適切な治療を加えるかが重要となる。単なる長寿ではなく「健康寿命」を延ばしていくためには、啓発による生活改善、社会参加の機会の提供、健康的な生活習慣に対するインセンティブ(あるいは不健康な生活習慣に対するペナルティー)など、複合的な視点からの取り組みが不可欠であろう。
◆10年後に備え在宅医療・介護の課題解決を
80代を境に、男女とも要介護が急激に増え(70代の5%強から30%強へ)、特に女性はその変化が大きい(70代の5.5%から35.8%へ)。これは75歳以上の後期高齢者に占める要介護人口が30%近いという各種調査の結果とも一致するものだが、現在は「アクティブシニア」である団塊の世代が10年後には後期高齢者になることを考えると、在宅医療・介護領域での現在の課題を早急に解決していく必要がある。
介護に関しては、「家族やヘルパーだけで十分な介護ができるか」という不安を約半数(50.6%)が抱えており、続いて「介護と仕事の(無職の場合は、普段の生活との)両立」(39.1%)、「自宅の構造が在宅介護に対応できるか」(34.1%)、「親の様態の急変にしっかりと気づくかどうか」(34.0%)と続き、不安要素は尽きない。
◆親と子、男女で異なる介護への意識
親が要介護になったと仮定した際に、親が自分もしくは自分以外の家族と同居している場合には6割以上、親だけで生活している場合でも5割が「最後まで家で過ごしてほしい」と考えている。一方で、親世代では自分が要介護になっても自宅で過ごしたい人は約44%と、世代による違いが出た。子世代はまだ介護経験がないため、という解釈もできるが、親世代は精神的に自由でいたい、自立していたいという意識があるという見方もできる。女性は年齢とともに自宅で過ごしたい割合が高くなっていく一方で、男性の70代では44%が介護施設入所を希望しているのは、興味深い。
自分が要介護になった場合に、家族の援助を「受けられると思う」人は、60、70代の男性で約46%、女性で約36%だったが、40、50代では男性で約36%、女性で約26%と、それぞれ子世代では10%ずつ低くなっている。経済状況や核家族化の進行など、現在の社会状況を反映した認識かもしれない。
◆コンシェルジュ人材や地域のケア体制が急務
都会や首都圏では、介護施設などのサービスを利用しやすいが、地方では家族や親戚など個人への依存度・負担が高いという地域差はあるものの、超高齢社会においては、いずれにしても、血縁以外の受け皿が必要になる。保険対象の公的サービスだけでなく、民間のサービスを柔軟に組み合わせて生活者に提供できる「コンシェルジュ」的な人材の配置や、地域の中でケアを提供できる体制づくりなどが急務だろう。
◆家族が後悔しないために、ICTに期待高まる
親が亡くなった際の不満や後悔では、「病気に気づくことが遅れた」「十分な対応をしてあげられなかった」「最後に在宅治療にできたのではないか」、などの声が挙げられた。高齢者の見守りサービスには関心を持つ人が多く、若い世代ほど関心度も高いが、あまり利用されていないのが現状だ(提示したサービス例すべてについて、利用経験は0.5~2.1%程度)。
介護される側の生活支援やQOL向上を目指すとともに、家族が後悔しない在宅医療・介護を提供するためのサービスやソリューション、仕組みづくりが不可欠だ。そうした基盤の大きな一端を担うものとして、ICTの活用が期待される。
電子カルテやクラウド、コンタクトセンターなどを組み合わせることで在宅医療を支援する仕組みや、訪問記録やメッセージ、スケジュールの共有により、地域で在宅医療・介護を支えるための多職種連携のシステム構築などは、すでに一部地域で行われている。また、ICTは、健康管理、疾病予防といった分野でもますます重要性を帯びてくるだろう。テクノロジーの投入により、強化、効率化できることはこの分野でもまだたくさんあると信じている。
◆高齢先進国へ産学官民の立場を超えた連携を
今回のリサーチからは、日本が直面する高齢者および高齢者医療を取り巻く課題やニーズと、それに対するソリューションの構築が急務であることが改めて明らかになった。武藤氏が関わる「高齢先進国モデル構想会議」では、豊かな老いを実現できる社会システムの構築に取り組み、安心して年を重ねることができる社会づくりを目指している。そのための産学官民のコンソーシアム形成と、高齢者を地域コミュニティで支える包括的なサービスモデルの構築を試みている。超高齢社会の社会モデルを実現するために、産学官民の立場を超えた連携を期待したいと総括した。
◆ICTと新サービスの提供が急務
また、GEヘルスケア・ジャパンは、今回の調査結果のトピックスとして、「こころ」と「からだ」の健康が最も充実する団塊の世代は、「コントロールできない疾患」を不安視しているとみている。男性は「慢性疾患」、女性は「ロコモティブシンドローム」が大きな課題で、子世代の6割が家での親の介護を希望するが、約半数は介護体制に不安を抱く(介護のジレンマ)を挙げた。調査結果からは、(1)高齢者自身の健康管理や予防、早期発見のサポート、(2)高齢化に伴い増加する疾患の適切な診断・治療から社会復帰までのサポート、(3)在宅・介護領域で高齢者自身やケアを担う子世代のニーズへの対応を、超高齢社会を迎えた日本における医療課題として挙げ、高齢化に伴う自分自身および親の健康管理や介護に関する不安やニーズに対応するために、ICTの活用や新たなサービス、ソリューション提供を早急に進めていくことが急務であるとした。